短編練習;感想とドライカレー
「それでね……」
夜の食卓では、同棲している彼女が起こった出来事を話してくれる。
僕はそれに、いつも相槌を打つことしかできていなかった。
━━昔から、無口なやつだと言われていた。
表情の変化も乏しく、数少ない友人曰く、僕の嬉しい時の顔と、悲しい時の顔と、驚いた時の顔は一緒らしい。
そんな僕に彼女ができたのは、本当に奇跡と言っていいだろう。
職場で知り合って、デートを重ねて、居間では一緒の部屋に住み始めて。
お互いに仕事で忙しいのに、彼女は積極的に作ってくれる。
感謝してもしきれない。
今日のメニューはドライカレー。
カレールーに包まれたひき肉やピーマン、人参がターメリックライスと絡み合い、普通のカレーとは違った味わいだ。
……そういえば、料理の感想も言ってなかったな。
「……」
「……」
話が終わった後の微妙な間。言うなら今しかない、そう思った。
「このカレー、おいしいね」
「……」
な、なにかおかしなことを言ったかな。
不安が胸をよぎる。
彼女はスプーンを持ち上げたまま、固まってしまったから。
が、次の瞬間。
「でしょ? 自信作なんだよね! 実はお肉もいいの使っててね……」
浮かんだのは、満面の笑みだった。
それはあの日僕が恋したままの表情で。
━━もっと、言葉を尽くしてみよう。
付き合い始めたときのように。心を交わしたあの日のように。
心の中で、そう思った。




