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公爵家の養女は『兄』に恋をする。  作者: 久浪
第一章『公爵家の謎多き養女』
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結論


アルバート視点。





 茶会が終わり、「どうして」と聞かれた。

 アルバートは、「お前が諦め切れていなかったようだったからだ」と答えた。

 先日の見合いの席、ニーナは真っ直ぐに結論を出せていなかった。無意識かどうか。彼女は想い人についてまだ諦め切れていなかったように思えた。


「それで、結論は出たか」


 周りに人はいない。正確には、彼女が連れてきた者が控えているが、他の招待客はいない。

 静かな空気が流れてしばらく、ニーナはふう、と息をついた。


「騎士になりたかったときが、ありました」


 唐突な話で、内容も初耳だった。


「親に反対されて、断念しましたけれど。……レイラが羨ましかった」


 レイラには兄が三人いる。彼女の家は、兄と同様に娘も育て、騎士になるようにという教育だった。

 父親が騎士団で生きてきたことが強く影響しているのだろう。

 一方、ニーナにも男兄弟として弟がいるが、娘は娘。息子は息子として育てられた。

 ニーナは淑女教育しか受けて来なかった。


「もしも親の反対を押しきって騎士になっていれば、少しでも近づけたり話せたりしたのかしら……。……馬鹿よね。騎士になりたいと思った理由はそれじゃなかったのに、今はそんなことを思ってしまう」


 アルバートは何とも言わなかった。

 ただ、今の言葉で、ニーナが出した結論が分かった。


「私、やっぱりまだ諦められません」


 予想通りの結論を、彼女は述べた。

 そうか、と思った。そしてある種の感心を覚えた。今日、本当に結論を出せるとは。


「そうか」

「予想していた、という反応ですね」

「どちらの可能性もあるとは思っていた程度だ」


 機会がなかっただけで、少し、背でも押してやれば歩いていくのではないかと。


「会う機会くらいは設けてやれる。後は自分でどうにでもしろ」

「そこまでしてもらうわけにはいきません」

「俺の勝手だ。親を説得するのも、全部簡単にはいかないだろうが、昔馴染みのよしみだ。些細な味方はできる」


 彼女の両親にはいらない世話だろうが、頑固なニーナが決心をした。もう折れまい。


「聞いてもいいですか」

「何だ」

「今日、本当に、元からこの結論まで予想していたんじゃないんですか?」

「お前が諦め切れていないようだから。付け加えて試した、とでも言えば納得か?」

「……良い性格」

「お前に言われると、皮肉でもある種の褒め言葉だな」


 アルバートは唇の端を吊り上げ、笑う。


「ニーナ」

「……何ですか?」

「幸せになれよ」


 ニーナは目を驚きに染めた。瞬きをすると、消えていた。


「貴方と結婚したら、幸せにしてくれなかったんですか?」

「幸せに出来るように力は尽くしただろうが、約束は出来ない。人の幸福具合なんて、そう分かるものじゃないからな」


 本心だ。

 幸せにすると、そう簡単には言えないものだろう。


「私がふられたら、拾ってくれますか?」

「そんな気がないくせに、よく言う」

「そうよ。ないわ」


 即答するなら言うなと思う。


「駄目なら、ずっと独身を貫いて、神に祈って生きるわ」

「それはお前らしくないな」

「どこがよ」

「それじゃあ弱気だ」


 指摘すると、ニーナは笑った。

 そして、目に強い光を宿した。


「幸せになってやるわよ。──これでいい?」


 アルバートは頷く。

 久しぶりに会ったニーナは、確かに当然成長していた。しかし、根は昔通りだ。


「貴方はどうするんですか?」

「どうするとは」

「結婚相手」

「ああ……結婚しないわけにはいかないからな。また探すだけだ」


 新たに探すとなると、少し、時間はかかるだろうが。

 普通の貴族の結婚の条件から、特殊な条件まで、条件面で言えば、ニーナは良い相手だったのだ。

 互いに、義務的に結婚する。そういう意味でも、互いに公平だったと言える。


「話は終わりだ。あまり長く時間を過ごすのも何だ。親のところに戻れ、ニーナ」

「ええ」

「覚悟はして戻れよ」


 余計なお世話です、と言い残しニーナが後ろを振り向き、歩きはじめる。

 アルバートは共には行かず、すぐには歩きはじめない。

 ニーナの背中を見送る。背筋は真っ直ぐ伸びていた。


 これで、見合いは白紙。父と母に話しておかなければ。問題ない。父はため息はつくかもしれないが、あの両親なら受け入れるだろう。


 ニーナの方はどうなるかは分からない。持ち前の頑固さで両親を説得し、想い人とも上手くいかせることができるか。

 両親の方は粘れば可能性は自ずと見えてくるだろうが、恋の行方は分からない。ニーナの想い人であり、父の部下である男のことを知っているとは言えど、そこまで知っているはずがない。

 それに、人の気持ちの問題だ。個々に相性があるだろう。


 アルバートがニーナの見てみぬふりを知ったまま結婚の話を進めなかったことは、正しいか。ニーナに考えることを促したことは正解か。

 決して正しいとは言えないだろう。

 正解かどうかは分からない。

 こんな曖昧なことを、自分がするとは。


「……俺も馬鹿だな……」


 確かにお節介で、余計な真似をした。

 他人事には思えなかったのだ。


「ねえ」


 遠ざかっていたニーナが、振り向いた。

 アルバートは怪訝に思い、そのままの距離で何だと問う。


「貴方の妹」

「シルビアが何だ。そういえば、終わりに何か話していたな」

「それは秘密」


 秘密?


「ただ、貴方の妹ならと思って、少し、意地悪なことをしてしまったかもしれません。そのことで少し、ね」


 養女なら性格まで似ているのは限らないのにと、ニーナはどこか申し訳なさそうに言った。

 自分にするように、本心が読み取りにくい話し方でもしたのか。


「一瞬、褒められたときは、調子に乗って踏み込みすぎて嫌味を言われたのかと思いました。けれど、あれは、違う。だって、貴方と血が繋がっているわけじゃないのだもの」

「何のことだ」

「お節介かもしれないけれど、あまりに戸惑っていたようだったので。──可愛らしい妹さんですね」


 明確に掴めることは言わず、ニーナは今度こそ去っていった。








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