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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第一章 一泊二日の誕生日
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第6話 巨人の討伐

「松明を灯して奴を囲め! ここから絶対逃がすな!」


 オグワーや小人族が睨み付けた巨体。

 岩でできた巨大な人型は洞窟の天井に着くほど大きいそれは少しずつ近づいてきていた。


「シュート殿たちは早くこの場から―――」


「なにあれなんか気持ち悪いっ!」


「なんでリュー、テンションあがってんの!?」


「頭が天井に突き刺さってるんだよ!? 気持ち悪いもん!」


「そういうことじゃないだろ!」


 岩の巨人は、リューネの言葉通り頭部だけが天井にめり込んでいる。

 しかもなんか水平移動してくるので、すごく気持ち悪い。


 なんだか興奮しているようなリューネと、別の意味でヒートアップするシュート。

 興奮中のリューネの腕の中。

 押し倒された二体の小人が、なんだかキュンキュンしていた。


「リュー、とりあえず立ち上がってその子たちを解放してあげて?」


「……え? あぁ! ごめん、大丈夫だった?」


「幸せでした……」


「ふへっ……」


 多分幸福で、頬を抑えているハイド。

 シークは顔を逸らして逃げているが、そもそも仮面が邪魔で見えていない。


 そんな二人から離れようと立ち上がるリューネは、突然―――地面に倒れた。


「いったぁぁぁ!」


「リューっ!」


「リューネ様!」


 彼女の右足。

 細くて子供っぽかった足は、赤く腫れて、内出血中だった。

 理由はリューネのすぐ横にある、岩の破片。

 さっき壊された壁のかけらが、彼女の右足にぶつかっていたようだ。


 それに気が付かないほど、岩の巨人の動きが気持ちが悪かったのだろう。

 足を抱えてじたばたするリューネ。


「ハイドはリューネ殿の手当てを頼む! シークと私は加勢するぞ!」


 オグワーの指示に、二体はそれぞれの反応を返した。

 ハイドは、すぐに装備していたポーチから何かの液体の入った瓶を取り出して、それを開ける。


「少ししみるかもしれませんが、我慢してください!」


 瓶の中身を右足にぶっかけた。

 ぶっかけられたリューネは体を震わせて、近くにいたシュートにしがみつく。


「ぜっ、全然痛くないねっ!」


「なんでこんな時に強がってんのさ?」


「強がってなんかないし! 全然痛くな……っいたぁ!」


 力を強くするリューネ。

 シュートの口からは、少しずつ空気が漏れている。


「我慢してください! こうしないとお薬が効きづらいんです!」


「がまんっ? いらない、いらないから! 全っ然痛くないから!」


 リューネの足に、薬を馴染ませようと小さな手で広げるハイド。

 だが正直、シュートの方が辛そうなほど、抱きつかれて唸っている。


 少ししてから力が緩んでいく。

 ハイドの手が、足から離れたのだ。

 やっと終わったと、ため息を吐くリューネ。

 と一緒に、シュート。


 けれどそれもつかの間。


「さっきより痛いかもしれませんが、耐えてください!」


 言いながらリューネの右足に、何かの植物の蔦を巻きつけて行くハイド。

 その流れで、シュートのお腹にリューネが顔を押し付けて。


「なにそれ! 私、知らない! 知らないよぉ! 助けっ、痛い痛い痛い痛い痛い!」


「我慢してください! シュート様も抑えていてください!」


「……ちょうむり」


「え?」


 作業の手を止めて、顔を上げるハイド。

 ほとんど身動きが取れないシュートの顔が、真っ赤になっていた。

 むしろ青白いまであった。


 リューネの馬鹿力が働いているらしい。

 その状況に一瞬だけ、時間をおいて。


「そのままお願いします! すぐ終わりますので!」


「おぅう……」


 無慈悲に作業を再開した。

 リューネは叫んで、シュートの目は半開きになって。

 けれどハイドの言った通り、一分もかからず手当てが終わる。


「リューネ様! もう終わりましたよ!」


「痛い痛いいた……くない?」


 シュートのお腹から離れて、自分の足を見るリューネ。

 軽く触ってみても、痛みはなかった。


「お加減いかがですか?」


「痛くない! ありがとう! ……ってシュー!?」


「……二度目の死因が窒息死になるところだった」


「何言ってるの? なにかっていうとあれに撲殺とかされそうだけど?」


「こいつ……」


 女の子じゃなかったら。

 家族じゃなかったら。

 初恋の人じゃなかったら。

 ―――絶対に殴ってた。


 ちょっと訂正、ディールなら兄でも殴ってた。男だし。

 適当に心を落ち着けて力を込めた握り拳を、少しずつおろすシュート。

 顔がほんの少しだけ普通に戻った。


「……足は大丈夫なの?」


「大丈夫だよ! 全部ハイドさんのおか―――」


 リューネの言葉を遮るように鳴り響く爆音。

 双子とハイドの隣。

 壁に激突したオグワーが、死にかけていた。


「オグワーさんっ!」


「隊長っ!」


「―――くっ! あの岩石兵、固すぎて刃が通らない……。それだけでなく体からいくつもの岩を飛ばしてくる……シュート殿、リューネ殿、早くこの場から離脱を!」


「この壁を右手沿いに歩けば外へ出れますっ!」


「―――って言われてもなぁ……」


 ハイドが壁に夢日を向けて示す。


 それを横目に、シュートは考える。

 痛みがないとはいえリューネはまともに歩ける状況じゃない。

 さらに今のシュートには十歳の女の子一人を抱えて動けるほどの力もない。


 かといって攻撃が通らないらしい〈小人族(カリリスア)〉たちでは、岩の巨人を倒すことはできないだろう。


 だからたぶん、最善の手なのだ。

 自分を言い聞かせて、諦めて、シュートが何かを拾って、立ち上がった。


「引っ張って」


 リューネが手を伸ばす。

 彼女もきっと、シュートと同じ考えなのだろう。


「リューは座ってていいって」


「逃げるわけじゃないなら、私にだってなんかできるもん」


 言いながら強引にシュートの服と腕を引っ張って、左足だけで立ち上がるリューネ。

 そして、シュートを支えに片足立ち状態。


 そして双子は気づいた。

 鼻につく鉄の匂い。

 松明に照らされて、力なく横たわる〈小人族(カリリスア)〉たち。


 そんなグロテスクな光景に双子は似た顔を作った。


 その奥では、岩の巨人が掌に見える部分を小人族カリリスア〉に向けて、岩石を飛ばしている。

 岩が凝縮されたような一撃。


 盾を持った一体の〈小人族(カリリスア)〉にぶつかって、そのまま後ろに吹っ飛んで行く。

 威力も硬さも化け物らしい。


「もしかしてあれって土とか出せちゃう感じかな?」


「あいつ硬い上に魔法使えるの? バカじゃん?」


「じゃあ飛ばしてる岩があいつの体の一部とか?」


「特性みたいなこと? そもそもこいつ魔法で作られた奴じゃないの?」


「あぁもう! 早く勉強したい! 家の本だけじゃ足りない知識が多すぎる!」


「なんで勉強なんて……あっ」


 双子の作戦会議は、金髪を揺らした姉の大きな声で終了。

 岩の巨人はこちら側に体の正面を向けて。


 顔は天井に刺さってるが、数秒間見つめ合った感覚。

 だがすぐに、シュートたちに掌を向けて岩を放った。


 ―――すごくやばい。

 二度目の死因が、また衝突事故になってしまう。


「こんなところに素敵な紐があるよっ!」


 いつの間にか鞄から取り出していたらしいロープを、リューネが巨人に向かって投げた。

 同じタイミングでシュートが彼女を引っ張り、自分の背中から倒れこむ。


 瞬間。

 双子の上をロープに絡まれた岩石が通り過ぎて行く。


 そして壁に直撃―――しない。


「浮遊感くらえぇ!」


 岩石に絡まったロープを、倒れたまま引っ張るリューネ。


 双子が。

 主にリューネが本と一緒に、秘密で実験していた魔法の応用術。


 今の彼女じゃ、原理もわからないような、行きがけの駄賃的に起きた奇跡的な偶然は、勢いそのままに岩石を引き戻して。

 動きの遅い岩の巨人に直撃。

 鈍い音が響いた気がして。


 すぐにリューネの怪訝な顔が浮かぶ。


「あいつずるいっ!」


 彼女が睨み付けたその先で、直撃したはずの岩石は絡んだロープそのままに、体内に吸収されるようにして呑まれていった。


「うっそだぁ!」


 リューネの絶叫。

 カウンター攻撃を吸収とか聞いていないのだ。


 だが一つ、動きを止めて動かない岩の巨人。


「連発はできないってことかなっ!?」


「できなかったところで倒せないじゃん」


「でもそれが弱点だよ? ていうか、ロープめり込んだしっ!」」


「―――っ! 話してるうちに二発目きそうだって!」


 岩の巨人は、また掌を向けて。

 察知していたシュートが、上にのしかかるリューネを奥に押して、倒れ転ぶ。


 瞬間。

 双子のすぐ後ろで、岩石が地面にめり込む。


「どうするのあれ!」


「知らないから! とりあえず僕は囮にでもなっとくから!」


「なんで!」


「運のいいことに僕のこと狙ってるみたいだからっ!」


「……もしかしてシューもドエムさん?」


「僕を父さんと一緒にするな!」


 不満たらたらで、走り出すシュート。

 彼の読み通りシュートを狙っているらしい岩の巨人は、天井に刺さった頭を軸にでもしているのか、スイーっと体を回した。


「―――っ!」


 後ろに〈小人族(カリリスア)〉がいないことを確認して、岩の巨人に向きあう。


 そしてすぐに、止まったシュートを、まるで()()()()()かのように岩石が飛んで―――轟音。

 今まで音もなく攻撃をしていた岩の巨人から放たれたものとは、考えられないような音。


 予想通りにそれは違った。

 音の正体は、別の方向。

 数十体の〈小人族(カリリスア)〉が、いくつもの大砲らしきものを曳いて、こちらを向いていた。


「増援だぁぁぁ! 助かるぞぉぉぉ!」


 そして増援たちは大砲を―――

「撃てぇぇぇ!」


 誰かの雄叫びとともに轟音。

 何発もの球が飛ぶ。


 そして、全てが命中。


 だが、残念。

 硬くてダメージが入らない。

 ―――方がましだった。


「あいつら敵の補給隊かよっ!」


 岩石でできた球は、次々と吸収されていた。

 もちろん、岩の巨人にダメージなんて見えない。


 ―――はずなのに、岩の巨人の動きが止まる。

 正しくは、今までより遅くなった。

 大砲の攻撃は全て、()()()()はずなのに。


 この洞窟に来て、岩の巨人を見て。

 双子にはずっと悩んでいた。


 ずっと同じ高さの天井。

 それを岩の巨人が掘削していたのなら。

 あるはずのものが一切なかったのだ。


「これで違ったらやばいかなっ!」


 言いながら、地面から小さめの岩の欠片を拾い上げるシュート。

 そして、ほとんど固まったままの岩の巨人に、全力で投球。


 欠片は、当たり前のように吸収されて。

 ―――巨人の動きを、微かに重くした。


「もう一回撃ってっ!」


 一足遅れて気付いたリューネが、ロープを強く握って叫ぶ。


 増援の〈小人族(カリリスア)〉たちが、慌てて次弾を装填し始める。

 もちろん打つのは、大砲で。

 放たれるのは、丸め込まれた岩石だ。


 だからこそ〈小人族(カリリスア)〉の誰かが、声を上げた。


「攻撃が吸収されているっ! 意味があるのかっ!?」


 双子が、息を吸った。

 岩の巨人が、ここまで掘ってきていたのなら。

 ―――いったい土はどこへ?


 双子の答えは同じモノだった。


「「だからこそだってっ!」」


 どれだけ土を圧縮できたとしても、限界はある。

 たとえば、最大まで水を含んだスポンジのような状態。

 そんな岩の巨人に、無理やり吸収を続けさせれば、確実に壊れる()()


 五割ギャンブルの案。


 けれど残念。

 単にギャンブルするには、ベット額が足りなかったらしい。


 大砲の争点が完了するよりも早く。

 的確に向いていた岩の巨人の掌は、シュートめがけて一つの塊を―――

「―――っ!」


「おりゃぁっ!」


 呑みこまれたロープを引っ張るリューネ。

 彼女の浮遊感は、巨人のバランスをちょっとだけ崩す。


 ほんの少し横に向いた攻撃は、シュートの左に向かって。

 彼の体を後ろに弾いた。

 壁に当たって、鈍い音を立てるシュート。

 それをかき消すように―――轟音。


 大砲のすさまじい音が、鳴り響いて。


 ただその場には、ぼろぼろになた毛布と、引きちぎれたロープ。

 あとは、崩れた巨人と双子が散らかっていた。

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