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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第一章 一泊二日の誕生日
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第5話 寒冷な目覚め

 フィルハード邸。


「大変だ! 二人が帰ってこない! 何てことだ!」


「大変だ! リューネちゃんが戻ってこない!」


 男二人でお互いの肩を持ちながら叫んでいる親子。


「ぱぱもディールも、うるさいです。きっとどこかで道に迷って、今頃遭難中なだけです」


 その二人を鋭く見つめるのは長女は、爪を噛んだ。


「遭難中! あぁ、どうか無事であってくれ! すぐに助けに行くから!」


「リューネちゃん! リューネちゃんを助けに行かないとっ!」


 どうやら余計な一言を行ってしまったらしい、さらに騒ぐ。

 騒ぎに耐えられなくなったというようにカレンが席を立つ。

 それに乗じて用意された兄の夕飯を、素早くこっそりと食べていくミューリ。


「うるさいから外に出てくれるのはいいですけど……ディールはまず服を着て」


 キューレの忠告なんてお構いなしに外に行こうと長男が扉に触れて―――

 ボッ。


 ディールがドアノブに手をかけた瞬間。

 体がこんがりと熱された。

 それと同時、ついでにシェイドの体も熱々になった。


「心配なのはわかるけど。静かにしていてね~」


 二人に触れた手を放しながらカレン。

 やけどさせない程度の熱を加えられた二人は、地面につぶれている。


「ミューリちゃんもつまみ食いはダメよ? お行儀が悪いからね」


「……ごめんなさい」


 カレンの浮かべる黒い笑みにミューリだけでなく、キューレも顔を固めた。

 ミューリが目を逸らしながら両手ともに上げた。


 キューレがため息をついていると、外側から扉が押されるるが、半裸の男に引っかかって少ししか開かない。

 開いた少しの隙間から窮屈そうに中を覗こうと、誰かの鼻先が出てくる。


「何があったんだぁ? これは」


「お恥ずかしながら、いつものことです」


 カレンの笑みに人狼までも苦い顔をする。



 00000



 暗闇の洞窟。

 冷たい風に肌を撫でられながら、体を震わせるシュート。

 その奥ではリューネが毛布にぐるぐる巻きになっていた。

 相変わらず高い天井からは、水が垂れている。


「……くしゅっ」


 シュートはあまりに寒くて体を起こした。

 真っ暗な中、隣でぐっすりな姉に殺した目を向けたつもりで。


 いつの間にか消えてしまっているランタンを探して、真っ暗な中で大きく腕を動かす。


 ガチャっ、ガチャっ。

 鉄が鳴った。

 まるで持ち手の輪が動く音。

 まるで鉄が()()音。


「んんんんん?」


 シュートの流した魔力に周りが照らされて―――

「お前、ヒトか?」


 小さな影のねばっとした声。

 鉄の鎧をぼろぼろのマントで隠した、仮面装備の小さな人型たちが一体を筆頭にして、壁際の双子を囲んでいた。


「なぜここにいる?」


 自らの二倍はあるであろう鋭利な長物を、シュートに向けて。


「いやっ、えっと……?」


 低く両手をあげて目をぱちくりさせるシュート。

 先頭の一体が一歩だけ前に進めて、刃を出して答えを急がせた。


「まさか、言葉がわからないのか? ありえないな」


 通じている。

 通じていても寝起きだから……。


 そんな思考停止中のシュートのことなんて知らない姉は―――

「こっ、こら! 離せ! 近づくなっ!」


「ちょっと固いけどー……大きさは絶妙な……」


 寝言。


 ぐっすり寝たままのリューネが、誰かに抱き着いたらしい。

 もちろん寝ぼけて。

 その場のだれもがどよめいた。

 仲間が襲われているぞ、と。


 リューネのそばにいた数体の人型が、長い刃で攻撃しようとする。

 だが、抱き着かれた一体が盾になって狙えない。


 その状況にシュートへ刃を向ける一体が大声で―――

「やめろ、お前たち! 焦るな! 絶対、助けるぞ!」


 腕を震えさせながら。

 彼の刃がシュートの目と鼻の先で、左右上下に揺れていた。

 まじ危ない状態に、シュートが喉に力を入れる。


「ちょ、ちょっと待った! とりあえず話し合い! 話し合いをしよう……ね?」


 フードに隠れた彼の仮面を見上げるように上目遣い。


「人質交渉か! 図々しい!」


「違う違う違う! ストップ! 普通の、普通の話し合いだから!」


「いまさら何を! 同胞の無念……ここではらす!」


「いやいや! 死んでないから! 同胞まだ生きてるから!」


 何度も何度も突き刺される刃。

 シュートが何とか躱して逃げていると、さすがのリューネも目を覚ました。


「もう、うるさいなぁ……って何この子! 超かわいい! 欲しい!」


「やめ……はなっ。ふへへ……」


 寝ぼけて抱き着いていた人型に絶賛のリューネさん。

 抱き着く力を強くする。

 被害者は変な声を漏らしながら、抵抗なんてしていない。

 その姿に場の全員が怖い顔を作りながら。


「うらやましすぎるぞ!」


 全員分の心の声を代弁する先頭の人型。


「は?」



 00000



「……すまなかった」


「いや……こっちこそごめん」


 あのあと攻撃対象がリューネやシュートではなく、抱き着かれていた()()に向いたおかげで、何とか話し合いに進むことができた。


「我々は見ての通りヒトの形ではあるが、大きくはない。彼女は女王様くらいの大きさだ。我々の中では大きいこととは、気高いこと、強いこと、そして魅力的なことだ。あとは理解してもらえるな?」


 よくわかったよ、と苦笑い。


「私は、オグワーと言う。この部隊の隊長だ」


 ”オグワー”と名乗った小人は、後ろに座る部隊の面々に一度に振り返って頷いた。


「僕はシュート。それでこっちが―――」


「リューネ! ところでオグワーさん! ちょっとこっちにおいで!?」


 手招きをするリューネに呼ばれて一歩前に出る。


「なっ、何を!」


 リューネの抱擁。

 後ろからはオグワーを睨みつける視線少々。

 残りは全部羨むような目だ。

 シュートからすれば、何こいつらロリコンなのとなる。


「リュー。一度抱き着くのはやめてくれ。話し合いにならない」


「えー……」


 ふてくされながらもオグワーから腕を外すリューネ。


 オグワーは動揺を隠したように咳ばらい。

 やはり後ろからは、「うらやましいですよ隊長!」「男だ……隊長あんたは男だよ!」「リューネ様、私のことを抱いていただいても……?」「おい! ずるいぞ! 俺も混ぜろ!」と、好き勝手言っている。


「お前たち! 失礼だぞ!」


 たぶんにやけながら一喝。

 だれでもおいで―、とリューネが腕を広げたがシュートはそれを止める。

 そしてちゃんと本題に流す。


「えっと、ここって君たちの住処っだったのかな? それなら僕たちは不法侵入したみたいになっちゃうけど……」


「確かにここは我らが小人族(カリリスア)の基地だ」


小人族(カリリスア)ね……でも、その小人族(カリリスア)の基地の入り口があんなに大きいの? あんな高さ必要ないと思うけど……」


 シュートがオグワーの姿を見て言う。


 洞窟の入り口は、子どもとはいえシュートやリューネの何倍もの高さだった。

 成人しているらしいオグワーの背丈は、背伸びしてもシュートたちの腰くらいにしか届かないだろう。

 もしかして見栄でも張ってるのかな、なんて思っていたが違うらしい。


「そう、そのことなのだ。昨日、見張りについていた者が何者かに大けがを負わされた。今も見張りは寝たままなのだが……。ただ現場には大きく広がった入り口や通路しか発見がなく、基地内を見回っていたところシュート殿たちを発見したのだ。所で一体なぜこんな場所へ?」


「僕らは道に迷ったから休める場所を探してたんだ。その時は入り口が見やすいぐらいの大きさだったんだけど……」

 あまり力にはなれなそうだ、と続けて。


 悔しそうな声で下を向いたオグワー。 


「いや、いいのだ。これはもともと我々小人族(カリリスア)の問題。関係のないシュート殿たちを巻き込むのは本意ではない。道に迷ったという話だったな。それなら道案内として二人つけよう。一番近い村までであれば送らせてもらおう」


「いや、出口まで行かせてもらえればあとは自分たちで……」


「シュー、もらえる恩はもらっておくべきだよ」


 どうせ帰れないし。

 そんな意味を含んでそうな鋭い指摘にシュートが顔をしかめる。


「恩なんてとんでもない。正直な話、あまり周囲をうろつかれても迷惑なのでな」


 腹を割った言葉にシュートも断れはしなくてため息を吐く。


「……わかった。案内してもらえる?」


「それではこの二人に案内させよう。ハイド。シーク」


 少し微笑んだシュートに、頷いたオグワーが前に出した二人。

 一歩前に出たハイドとシークは頭を下げた。


「よろしくねー!」


 そう言って小人二人に飛びつくリューネ。


 瞬間。

 リューネたちの上を通り抜けた何かで後ろの壁が弾けて。


 ―――戦闘開始。

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