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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第二章 学園入学の決定事項
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第5話 お姉ちゃんとのお約束

 金髪組の馬車。

 内装は黒髪組の方と同じようなものだが、青年が一人いるだけで結構な圧迫感がある。

 というかほんとに邪魔。


 向かい合った椅子の片方を一人で占拠しているし、クッションも少し濡れている。

 そんな状態の長男、ディールにとても腹が立っている金髪二人。


「んん……リューネちゃん」


「おにぃ、すっごいきもい!」


 むしろ気持ち悪がっていた。

 思わず声に出したミューリの叫びは、気持ち悪い兄を起こしてしまったらしい。

 体を起こして寝ぼけたように周りを見回すディール。


「お兄さま。これ、お昼御飯です」


「……ありがと―――っ!? リューネちゃん! なんで!?」


「シューたちとはさっき別れました。お兄さまが寝てる間に」


「シューくん泣いてたよ?」


「……おぉう」


「まぁおにぃなんて話してなかったから、嘘なんだけどねー」


「…………」


 笑えない。

 彼に()()()()結構笑えないのだ。

 それはきっといつかの話に。


「―――硬いっ!」


 噛みついた干し肉は、さらに硬度が増していた。



 00000



 黒髪組の馬車。


「……んん」


「起きたならどいてくれない?」


「この状況はいったい?」


 スピードとかリバースとか、良いことなしでいつの間にか眠ってしまっていたシュート。

 カナットたちに運ばれてこの中に戻ってきていた。


 今はお姉ちゃんの膝を枕に使っている。

 というか言葉通り、頭が膝の皿に当たって二人とも痛い。


「……良い寝心地でしたって言えばいい?」


「感想を聞きたいんじゃないから。それに当たり前でしょ?」


「すごい自信だなぁ」


 言いながら体を起こすシュート。

 体をよじって骨を鳴らしていると、太腿に重みを感じる。


「……なに?」


「お姉ちゃんは疲れたの」


「だからって膝枕じゃなくても、枕になるものはいっぱいあるじゃん」


「不満でもあるの?」


「……ないよ」


「それならよかった。あとこれ、あげる」


 弟を枕にしたキューレが、何かを持ったっ手を持ち上げた。


「パン?」


「さっきの人たちがくれたんだってだって。タンクさんが持ってきてくれた」


「あの人たちって大丈夫だったの? 馬車横転してたけど」


「馬はいたみたいだし、馬車はタンクさんが直してた」


「じゃあもう追い越したんだ?」


「さっきの人たちは少し休むみたいだったけどね。まぁこっちの方が早いから追い越すけど」


「ふーん……いただきます」


 触って分かるほどやわらかくて、大きなパン。

 一口だけ食べて味わうと、すぐにまるまる一個食べ終わってしまった。


「まだいくつかあるから食べてもいいよ」


「ありがと」


 シュートがお腹に力を込めながら、転がっていた木のバスケットを拾う。

 それを手に持ったまま開けると、さっきと同じサイズのパンが四つ。

 喜びながら、パクパクと口に入れていくシュート。


 リューネみたいな大食らいではないシュートでも、四つ全部食べきってから、口から空気を漏らす。

 それと一緒に出た、疲れたようなキューレのため息。

 というか疲れ切って目を閉じていた。


「あ、そういえばシュートには一個言っておかなくちゃいけないんだった」


 思い出したように口だけ開くリューネ。


「魔法はあんまり使いすぎちゃだめだよ」


「まぁ、そりゃそうだろうけど―――」


「シュートは特にってこと。多分だけど」


「また嫌な言い方だなぁ」


「しょうがないでしょ。お姉ちゃんもそうなんだから」


「姉さんも?」


「お姉ちゃんは学年一位だからね」


「実力が?」


「魔法使って倒れた回数」


 シュートが目を殺して、下にあるキューレを見下ろした。

 変わらない調子で言葉を続けるキューレ。


「たしか二番目に倒れてる人とは二十回くらい差があったかな」


 キューレはもちろんあっけらかんとしている。


「……それでなんで僕だけなの?」


「これはただ予想だけど、ネラが絡んでると思うの。ままがほんの少しでも魔法使った後ってすごく疲れてる感じしない?」


「でも魔法使ったんならそんなもんじゃないの?」


「ならタンクさんとか何時間も使ってるでしょ?」


「タンクさんが特別とかは?」


「同じ年の子でも、二時間くらいなら使ってても疲れてないのがほとんど。けどお姉ちゃんは十分も持たなかったの」


「じゃあネラが関係してるってのは?」


「ミューリはまだ知らないけど、ディールは全然問題なく使ってるからね。学園行けばわかるけどすごい有名だしね」


「そうなんだ……」


 あんな兄でも落ちぶれていないという事実に、ほんの少し顔を引きつらせるシュート。

 兄の話をしたことでキューレは少し不機嫌になった。


 シュートが入学する学園は簡単に言えば、一貫校みたいなもの。

 十歳からの初等部に、十三歳から入れる中等部。

 十五歳から十九歳までの高等部が、留年なしで存在する。


 初等部といっても小学校のようなものじゃなくて、感覚的には幼稚園に近い。

 通いたい人。

 特にお金を持っていたり、センスがあったりの子どもたちが、毎年六十人が入学している。

 家柄の面接的なもので。


 そのため人数の制限がなくなる中等部から入学するという人の方が圧倒的に多い。

 そもそも義務教育じゃないので、学校にすら行かない子供がいるのも現状だ。


 そんな学園環境の中で、高等部のディールが中等部でも有名というのは、相当にすごい。

 もちろんミューリも注目はされているが、初等部では基礎的なことしかしないので話が少ないのだ。


「リューもリューで大変そうだなぁ」


 シュートの軽い心配。

 ディールの妹として入学するため、注目は浴びるだろうし、なによりあの兄が調子に乗らないかの心配。


「自分の心配はしなくていいの?」


「そんなことしたら帰りたくなる」


「まずは同室の子が理解ある子だといいね」


「それ以上はやめて……」


「多分大丈夫だと思うけどね? あの人がどうせなんかしてるしね」


「あの人?」


「フェイ。パパが言ってたでしょ」


「……姉さんが呼び捨てしてるってろくな人じゃなさそうだね」


「会えばすぐにわかる」


 何かを含んだような言葉。

 そんな言葉にシュートは目を殺しまくった。


 どう考えても関わりたくないタイプだろうなと、ため息。


「そういえば木と戦う前に話してたことだけど―――」


「なに話してたっけ?」


「僕も覚えてない。思い出したら聞いてもいい?」


「めんどくさいからやだ」


「ですよねー」


 黒髪二人がテキトーに流した。

 そして、沈黙。


 なんかちょっと気まずい。

 自分の姉とはいえ可愛い女の子を膝枕しているシュートもそうだが、膝枕は前もしている。


 なにより顔を赤らめてるのはキューレだ。

 勢いに任せて頭を乗せてみたものの、結構恥ずかしいらしい。

 どのタイミングで起き上がろうか、ずっとそのことを考える。


 ―――そんなことを考えて二時間ほど。

 結局、お互いにほとんど話すことなく体制そのまま過ごしていた。


 そろそろ。

 というかすごく前からなくなっていたシュートの足の感覚。

 眠ってしまった姉を起こすことができるわけもなく、苦痛と戦闘中。


 でもさすがにそろそろ限界で。


「あの……もう起きてくれない?」


「んん……?」


 ヨダレが垂れた顔を急に持ち上げるキューレ。

 真上から見下ろしていたシュートにぶつかった。


「「うがっ!」」


 シュートは顎を。

 キューレはおでこを抑えて痛みを耐える。


「いったぁ……」


「ごめん。姉さん大丈夫?」


「だいじょう―――ぶ」


 キューレの顔を囲むように覗き込んだシュート。

 彼のおでこにデコピンが入った。


「なんでデコピンすんのっ!」


「知らないっ!」


「理不尽っ!」


「寝起きに顔が合ったらデコピンしたく―――きゃっ!」


 キューレが自分の口元を拭ていたところで、また、大きな揺れ。

 ゆったりと起こった今までよりは、ましな揺れだった。

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