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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第二章 学園入学の決定事項
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第3話 安易な別れ方

 木々に囲まれた広場。

 シュートたちが出発して四時間ほどで着いた広場は、行商人や旅人達の交渉話でにぎわっている。


 そんな中、御者兄弟はシュートやキューレが見られないように、人気のない所に止めてくれて。

 そのおかげで長い客室移動から、芝生に寝転ぶ時間を二人は楽しんでいた。


「……ほんとに髪が黒い人って全然いないんだなー」


 さっきまで馬車の裏からこっそり周りを見ていたシュートは仰向けに体を伸ばしながらぼそりと。


 キューレはその横で腕を枕にうつ伏せになってぼーとしていた。

 気になったとばかりにシュートが横にバッと顔を向ける。


「今から行くとこもこんな感じなの?」


「街中では一人も見たことないかな。そもそもあまり町に出てないけどね。まぁ家族以外で今まで見たのは一人だけかな」


「一人はいるんだ? どこで会ったの?」


「……学校」


「学校?」


 キューレはわかりやすぐらい目を逸らして。

 行けばわかると、適当にあしらう。


 シュートが目を細くして咎めていると、ご飯を買って来たリューネたちが帰ってきた。

 パンやスープ、干し肉など適当に買ったであろう食料を山積みにして、寝転がる二人の横に座っっていく。


「二人とも起きて! ご飯買ってきたよー!」


「お肉ありますよ! いただきまーす!」


 お肉を掲げているリューネに、キューレが体を起こしてから背伸びをして。


「お姉ちゃんは干し肉いらないからみんなで分けて」


「好き嫌いはダメですよー? キューレ姉さまー」


「硬いのは顎が疲れるから……」


 言いながら硬いパンをスープに浸している。

 そういうこともあるのかなーと、首を傾げながらリューネが干し肉を噛み千切った。

 それを見てからシュートも体を起こして、干し肉を手に取り。


 ガブり。


 歯で噛みついたまま引っ張るが、なかなか引きちぎれない。


「……硬いっ!」


「シューは食べるのが下手だなー! こうやってねじると食べるとちぎれるよ!」


 リューネが実演してくれた方法で、再度試して何とか噛み千切ることができた。


「食べることにコツがあるってめんどうだな……」


「シューくんはめんどくさがり屋さんだよねー」


「本当にそうです! 私や姉さまに手紙書くのも面倒くさいって言ってるんですよ? ひどいですよねー!」


 スープを飲み干してからぼそっとミューリが言う。

 そしてリューネは隣に座っていた御者の兄弟に同情を求めた。

 彼らも無言で頷いて、シュートの方をジトッと見てくる。


 そんな状況にいたたまれなくなったシュートが、逃げるようにパンに噛みついて。


「硬っ!」


「お姉ちゃんからのおすすめはスープにつけて柔らかくすることね」


「先に言って欲しかったな! すごい顎痛かったし!」


 シュートが顎に手を当ててがくがくと開閉させていると、ふやふやになったパンをキューレが一口。

 その向かいではミューリとリューネが、硬いままのパンに噛みついていた。


 よく噛みつけるなと、感心してから姉に倣ってスープに浸す。


「そういえば兄さんは?」


 いつの間にか食事を終えていた御者の兄の方。”シンク”が止まっている馬車の方を指さして。


「あぁ、寝てるんだ」


 シンクが軽く頷いてから、指をさした馬車の方に干し肉を持って歩いて行った。


 無愛想なように見えるが普段は笑ったり楽しい人だ。

 それこそ唯一の弱点は、彼の弟も含めて一度も声を聞いたことがないことくらいで。


 一体どうやって商売してるんだろうと、毎回のように考えているがどうしても慣れない。

 シュートは諦めてスープに浸かっていたパンを頬張る。


「意外においしいな」


「私も食べたい!」


「自分のでやればいいじゃん」


「もうスープ飲み終わっちゃった」


 スープの入っていた空の器を見せてきたリューネに、自分のスープを丸ごと渡す。


「ありがとー」


 自分のパンを少しだけ浸からせて口に入れた。


「食べるの早くない?」


「味が付けばそれでいいし、あんまりぐじょぐじょになっても嫌だもん! あ、あとおいしかった! ありがとー!」


「なら良いんだけどさ」


 返されたスープを受け取るシュート。

 すると突然、馬車の外壁をノックする音が聞こえた。


「……もう出発ですか?」


 頷くシンク。


 金髪二人は悲しそうな、憂いのに満ちた顔をして立ち上がる。

 そしてシュートやキューレに顔を向けて。


「手紙! 毎日だからね!」


「みーたちもたまに書くから!」


「毎日書いてくれるわけじゃないんだ!?」


 目を見開いて驚くシュートに、金髪を揺らした二人はほんの少しだけ微笑んで。

 黒髪二人より先に出発してしまった。


「いつも思うけど僕らってちょっと別れ際テキトーだよね」


「いつも通りっていうのが良いんでしょ。少なくともお姉ちゃんはこの方が気が楽だしね」


「気が楽……まぁそうか」


「変な気を使い合うのはなんか嫌だもの」


 確かにそうだと、シュート。

 そして残った御者の弟の方。”タンク”が馬の世話に近づいていく間も、黒髪二人はゆっくりと食事を続けていた。



 00000



「シュート。起きて、そろそろ出発」


「……どれくらい寝てた?」


「寝ちゃってすぐに起こしたから、まったく時間は経ってないけど」


「……それはどうも」


 地面に腕を押し付けて立ち上がるシュート。


 ぐらりとよろけたが、それをリューネが受け止めて。


「寝ぼけてるの?」


「寝起きだからねー」


 キューレはシュートの肩を押して一人で立たせる。


「言っておくけど、学園ではほとんど助けてあげれないからね? お姉ちゃんは自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃうから」


「ほとんどってところに優しさを感じるけど……もともとできる限り自分でどうにかするつもりだったし」


 シュートの答えが気に食わなかったのか、不満気に顔を合わせて。


「遠目から応援しておいてあげようか?」


「ちょっとお願いしとく」


「お願いされてあげる」


 そんな話をしながらこそこそと馬車の先頭に行って、馬車に繋がれた大きな馬に触れる。

 ただ、馬が大きすぎてシュートの体じゃ胴体にすら届いていない。

 比べて少し大きいくらいのキューレでも背伸びしてやっと届くくらいだ。


 別にこの世界の馬がここまで大きいわけではなく、むしろ周りの馬たちは小さめの馬がほとんど。

 それこそシュートたちが挨拶中の馬のように、子どもの三倍以上も大きい馬がいるわけなんてなくて、驚くほど存在感があった。


 この馬は《キングホース》と呼ばれる種類らしく、想像通りに最大級の馬らしい。

 御者の兄弟がそれぞれ一頭ずつ飼いならしていて、今は大好物のお肉をむしゃむしゃしていた。


 もう少し触れ合っていたかったが、周りに見られると厄介なので、馬車の陰で魔法を組んでいたタンクに一言伝えてから、客室の中に入っていく。


 入って少しすると、一度大きな揺れがおきて、座っていたシュートたちの体が浮かび上がった。

 どうやら出発したようだ。


「……これさえなければ乗り心地は満点なんだけどな」


「……お姉ちゃんも同感」


 反対になった体をくねらせながら、二人が座り直す。


 タンクはシュートのお願いをフリだとでも思ったのか無視したらしい。

 大量のクッションのおかげで痛みはないのだが、シュートの嫌いなジェットコースターのようで不満が漏れてしまう。


「それで、シュートは約束覚えてるの? リューネには聞いたけど」


 体制を立て直したキューレが唐突に聞いてくる。


「覚えてるんだけど、詠唱って本当ににいるの? タンクさんとかしゃべんないのに魔法使えてるし」


「それを今から学びに行くんでしょ」


「納得いかないからそれだけでも教えて欲しんだけど……」


 納得いかないと書いてあるほどわかりやすいシュート。

 リューネは一度ため息を吐く。


「まぁ気持ちはわかるから教えてあげる。確かに詠唱がなくても魔法自体は使えないこともないけど、条件ていうかそんなのがあるらしいの」


「条件?」


「途中で口を挟まないで? 言うこと忘れちゃうから」


「……すみません」


 睨まれたシュートがすぐに頭を下げて、それに満足したキューレは頷いて。


「まぁ得意な種類の魔法だけならできるって人はいるよ。たとえば炎は余裕だけど、水は無理みたいな感じ? ほかには特異の魔法ったら基本は詠唱はないみたい。つまり『得意キリ魔法マギア』と『特異シン魔法マギア』だけならできる人もいるの」


 一度咳払いを挟んで。


「だから何でもできると良くも悪くも目立っちゃうの。お姉ちゃんたちはそれができるし、シュートやリューネも同じだと思うから、できるだけ詠唱しなさいってこと。わかった?」


 頭を抱えてうつむくシュートを下から覗き込む。


「……いろいろわかんないことあるんだけど。たとえば―――うげっ!」


 シュートが顔を上げた瞬間。

 黒髪二人の体は今日一番、激しく宙を舞った。

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