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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第二章 学園入学の決定事項
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第2話 嫌いな約束

 馬車の客室。

 大きな馬が木造の正方形を引っ張っているだけのような見た目ではあるが、窓がないことを除けば、乗り心地はなかなか良い。


 椅子には柔らかい手製のクッションが並べられていたし、客室本体は魔法で少し浮いているため進行中は揺れがほとんどない。


 それもこれも御者である運び屋の兄弟が用意してくれているもので、普段の彼らは食糧から衣服。頼めば手紙なども届けてくれる。

 ほかにも小物をつくったり、案内をしたり。

 運び屋というよりなんでも屋さんのような兄弟だ。


 そんな兄弟の作った一つの馬車に、四人は荷物と一緒に窮屈に運ばれていた。


「……狭い!」


「だから僕は兄さんと同じの乗るって言ったのに」


 クッションに抱きつきながら、リューネが嘆く。


 向かいに座るシュートはため息を吐きながら背もたれに寄りかかった。

 木でできた壁と腰の間にクッションを忍ばせていたおかげで、ちょうど良い姿勢になる。


「だってしょうがないじゃん。できるだけ長く一緒にいたいんだもん!」


「そうそう。シューくんやキューレねぇが良くてもみーたちは寂しいの!」


 対角に座る金髪同士が、ねーと、首を傾けた。


「だから代わりに手紙を書くってことになってるじゃん」


「シュートはもっと乙女心を考えるべきじゃない? まぁ乙女心に限らないけど」


 対角に座る黒髪同士は、疑問の顔と呆れた顔を見合わせている。


「ほんとに! 私も! そう思いますっ!」


 突然リューネがキューレの方に体を放り出して食い気味に。


 体を少し後ろに逸らしたキューレに、リューネが頷きながら近づいていく。

 そして手慣れた様子で横からお菓子を近づけて元の席に落ち着かせるミューリ。


「……あんまりこういう光景も見れなくなるんだね」


 シュートがボソッと、どこか悲しげに言った。


「まぁそういうことね」


 見れなくなる理由。

 それは彼ら兄弟が自分たちで結んだ約束があったからだ。


 ”学園では髪の色の違う身内に関わらないこと”


 両親にもしていない秘密の約束。


 キューレが提案して、シュートと二人で自ら望んだ約束だ。


 彼らがそんな約束をしたのにも理由があった。

 ほんの十年前の話。


 シュートやキューレ、カレンと同じ髪の色を持った女性が起こした、たった一つの出来事のせいだった。

 今ではその事件が原因で黒髪のことを追いつめたりしている。


 もともと国全体の一割以下しかいなかった黒髪のほとんどは、貧民街や森、都市から離れた遠い村でひそひそと暮らしていて。

 学園に通おうなんてことを考えているのは、それこそごく一部でしかない。


 だからこそ人々の奇怪な視線に晒されてしまうのだ。


 すでにキューレは体験していた。

 彼女の話をシュートは聞いていた。


 その上で黒髪である二人が望んだ約束。


 実際、当然のようにミューリとリューネは首を振っていた。

 けれど一つの条件をつけて、しぶしぶながらも約束を交わす。


 それが毎日一通手紙を書くことだったのだ。


 だからシュートが寂しさを感じるよりもずっと先に、姉妹たちは同じことを思っていて。


「シューくんは寂しくないんだって思ったけど、今ので少しだけ許してあげる」


 ミューリは言いながらシュートにお菓子を向ける。


 不満げな顔でお菓子を口で受け取って、みんなから目をそらす。

 そしてそろそろかという具合にキューレが手を鳴らした。


「拗ねちゃったシュートは置いといて、約束の確認をしましょう」


 言って首をかしげているリューネに目を合わせる。


「約束覚えてる?」


「キューレ姉さまとシュートには話しかけないことと……あとはー」


 指を頬に当てて右上を見ながら、じりじりと思い出すように。


「魔法を使うときは詠唱すること」


「そうでしたっ! でもなんでいちいちそんなことを? しなくてもできるのに」


 手を勢いよく合わせてから、首を反対側に傾ける。


「しなくてもできるっていうのがおかしいの。わかったらミューリがお菓子をくれるけど?」


「了解です! あーん」


「お菓子もう少ないのにー」


 嫌がりながらもお菓子をくれるミューリは良いお姉さんしている。


 本当ならリューネの方が精神的に年齢が上であるはずなのだが。

 なかなかどうして子どもっぽい。


 本来の十歳なら可愛らしい限りではあるけれど、シュートにはどうも謎のままで。


「シュー、なにー?」


 横目でリューネを見ていたが、気づかれていたらしい。

 別にーと、はぐらかすように完全に目をそらした。


「それで、約束はもう一つあったでしょ?」


 キューレが目を細めて。

 首をぐらぐらさせながら視線を右に左に動かして、リューネが思い出したようにつぶやく。


「……もしかして、お兄さまのことですか?」


「せいかーい。ミューリ。お菓子は残ってる?」


「……最後の一つ」


 薄い笑みを浮かべたキューレと顔を合わせて。


「あげればいいんでしょ!」


 嘆きながら貰いもののどんぐりクッキーお砂糖控えめをリューネに渡した。


 リューネも悪く思ったらしい。

 綺麗にクッキーを割ってミューリにお返し。


「一緒に食べるともっとおいしいです!」


「リューネぇ……じゃあこうして。はい!」


「……ありがと」


 ミューリも半分にしてキューレに。

 しょうがないなぁ、なんていいながら、リューネはもう一度割って。


「はい! シューも食べよ!」


「……うん」


 みんなして優しい笑顔で、最初の四分の一になったクッキーを頬張る。


 ガチャリ。

 馬車はいつの間にか止まっていたようで、外から扉が開かれた。


 どうやらいったん休憩なようで。

 休憩が終われば金髪組と黒髪組で別行動になってしまう。


 だからみんな少し暗い雰囲気で―――

「よしっ! それじゃあ学園生活いい感じに楽しんでいきましょー!」


「困ったことあったらみーに何でも言ってね! 約束は破るから!」


 そんな雰囲気に合わないって、無理にでも、本心でも楽しくさせようって金髪組は元気よく。

 微笑むのだ。

 キューレやシュートも巻き込みながら。



 00000



「ぐー……がー……。ん、リューネちゃん……」


 やっぱりふて寝で素敵な夢の中のディールは、みんなに忘れられていて。

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