エピローグ 名前のないお部屋
名前のない部屋。
中央にこたつ、壁にはいくつものエアコンが設置された無駄な部屋。
そんな部屋エアコンのでこたつにもぐりながら設定温度を最低まで下げる赤毛がいた。
もちろんこたつには電源が入っていて、基本的に何がしたいのかわからない。
赤毛が頭だけ出してこたつでぬくぬくしていると、ノックもなしにガチャリと扉が開けられる。
「さむっ! いくら自分の部屋だからってちょっとめちゃくちゃやりすぎじゃない?」
言いながらこたつに体を滑り込ませるのは、真っ黒な髪の制服姿の女の子。
「外は寒いのにこたつの中は暖かい。ボクはそれに満足している。いわばここはボクの神域なわけだよ。許可もなく入って来たら祟られちゃうよ?」
「そんなこと言ってると私が全部食べちゃうよ?」
唸りながら赤毛がこたつから上半身を出して、黒髪の女の子と顔を合わせた。
黒髪が一つ一つとこたつの上にアイスを並べていくと、一個増えるごとに赤毛の目が輝き始める。
「おぉ! 何かのお祝い!?」
「まぁ、お祝いみたいなものかな。私としては祝日よりも忌日って感じなんだけどね」
「んー? ……あぁ、キミたちの被害者ちゃんの命日か。名前は?」
赤毛がカップに入ったアイスを、付属のスプーンで一口掬って。
パクリ。
冷たいおいしさに笑顔をこぼして、また一口と掬う。
黒髪は自分の腕を枕にして顔を伏せながら。
「愛華ちゃんと集くん。唯一の二人組」
「二人組ー……あぁ、あの金髪の子か。まだがんばってるんだ」
「みんな頑張ってくれてるよ」
「てことは脱落者は無ってことかー。以外にちゃんと選んでたんだね」
「その言い方やめて」
二つ目のカップを取ろうとしている赤毛を睨み付けながら。
赤毛は軽く謝りながら、ふたを外してパクリ。
今度もうれしそうに、おいしそうに食べていくせいで、黒髪も毒気が抜けてしまったようで。
ため息。
「それで、その子たちはどんな感じなの? お望み通りになりそう?」
「魔法はちゃんと使えてるみたい。もっとも、私が想像してたよりもすごい家系に入っちゃったっぽいけど……」
言ってから片腕をこたつから出してアイスを取ろうとすると、反対に座る赤毛が獣のような威嚇を向けてきた。
その姿にため息をつきながらも、知らんぷりして黒髪はアイスを一つ手繰り寄せる。
不満を顔で作った赤毛は残りのアイスを両手でまとめて自分の方に集めてしまった。
「それ、私の買ってきたアイスなんだけど」
「このこたつはボクの神域なんだ。その上にあるモノならすべてボクのものであるべきじゃない?」
「……そーですか」
少しずつアイスを食べていく黒髪に、最低限の敵意を向けながら赤毛が諦めて。
「それで、その予想外のことってなに?」
「ネラ」
「なに?」
「灰色の髪で、もと神様で、名前がネラ」
「……本当に言ってる? 冗談だったなんて絶対に許さないよ? もしそうなら犯すよ?」
「誓って嘘じゃないよ。なんならネラさまに誓ってもいい」
黒髪がスプーンを噛みながら薄く微笑んで。
赤毛は唇を噛んで何とも言えないといった顔をする。
「その二人に関して何かあったら全部ボクに話して。特に―――」
「ネラのことはちゃんと教えるよ。私も無関係ってわけじゃないしね」
「わかってるならいいんだよ。ご褒美に一つアイスを上げよう」
「……ありがとう」
黒髪の微笑んだままため息。




