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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
第一章 一泊二日の誕生日
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第10話 休息と進展

 双子の部屋。

 中央にあるベッドには、いつも双子が戦っているベッドがある。

 そこで眠る、金色の女の子。リューネは寝ぼけながら大きな欠伸をする。


 普段ならシーツを奪い合ったり、寝相で殴り合ったりしている場所だが、それは難しいらしい。

 今日は少しでも動けばベッドから落ちてしまうほど窮屈だった。


 リューネは投げ出された足を床につけて、ベッドに目を向けながら立ち上がる。

 窓から入る月明かりが、ベッドの上の姉たちと弟を照らしていく。


 双子部屋の向かいに姉二人の部屋はあるのだが、どうやら一緒に寝ていたようで。


「ヨダレ垂らして……かわいいなぁ」


 リューネが一番近くにいた次女。ミューリの頭を愛おしそうに撫でた。


「リューだって寝顔はこんな感じだよ?」


「……起きてたの? 人の寝顔見るなんて趣味悪いよ?」


「それ、今のリューには言われたくない」


 手を引っ込めたリューネを、ジトッと覗きながら。


 眠っている姉たちを起こさないようにシュートがゆっくりと体を起こす。

 寝返りを打った黒髪の方の姉に、薄い毛布をかぶせてから立ち上がる。


「リューはお風呂? 僕も入りたいから早く入ってきてくれない?」


「別に私は一緒に入ってあげてもいいよ?」


「なら先に入るよ?」


「もー。恥ずかしがっちゃってー」


「じゃあみーと入るー?」


 双子のいつも通り適当な会話で目を覚ましてしまったらしいミューリが、リューネの方に近づいて。


 リューネは自分の口元を指して、姉によだれを教える。

 あえと、変な顔を出してからすぐに口を拭った。


「よしっ。じゃあ行こっか!」


「あ、ちょっと、ミューリ姉さま!」


 リューネの腕を引っ張って、強引に部屋を出て行ってしまった。

 人が少なくなった部屋はとても静かになっていて、それでもまた話が始まった。


「……真夜中にがやがやと、うるさい」


「なら自分の部屋で寝ればよかったのに」


「リューネを運んで疲れて寝ちゃっただけ。……何その顔」


「心配してくれてたんだ?」


「……そんなわけないでしょ」


 残念。

 少しにやけながらシュートが言って。


 黒髪の長女が爪を噛む。

 それに満足したシュートが、キューレの横に倒れこんだ。


「何があったの? 一日も帰ってこないで」


 シュートを見つめながら、強く聞いてくる。

 少し唸ってからキューレの視線に合わせて。


「いろいろー」


「ネラに会ったでしょ」


 唐突に。


 一日ほどでいっぱい聞いた新しい名前の中で、シュートがほとんど忘れてたような。

 むしろ今まで不自然なくらい、気になっていなかった名前を思い出す。


「もしかしてネラって本物の神様だったりする?」


「お姉ちゃんもよく知らない。でもディールとかミューリは会ってないみたい。リューネはどうか聞いた?」


「リューも会ってないみたいだったかな」


「じゃあ、二人だけ? よりにもよって?」


 見るからに不機嫌を作ったキューレが顔をシーツにうずめた。

 その姿を目を殺しながらシュートが見ていると、入り口の方から。


「シュートくーん。キューレちゃんもここにいる~?」


「いるよ」


「二人で一緒にお眠りなんて仲がいいわね~」


「……そんなんじゃない。 それでどうしたの? まま」


 独特な雰囲気で、ふわふわとしながら部屋に入ってきて、子どもたちの前に座った。

 二人は体を起こして、カレンと顔を合わせる。


 とりあえず暗いわねと、カレンが一度指を鳴らす。

 部屋の壁にあったいくつかのランプがゆっくりと光を灯し始めて。


 これでよしとばかりに、明るくなった部屋で両手を合わせた。


「それでお話なんだけど。ネラちゃんのことはキューレちゃんに聞いた~?」


「僕らしか会ってないことくらいは聞いた……って母さんも関係してるの?」


「えっとね~」


 ゆったりとした口調で、それでいて溶け込むような言葉で。

 嬉しくもないことを淡々と話し始めて―――



 00000



「一緒にお風呂に入るの久しぶりだねー」


 最近一人で入っちゃうしと、ミューリが頬を膨らませて。


 お風呂と言っても、シャワーなんてあるわけがなくて、大きすぎる桶に水が張ってある程度のものでしかない。

 それでも張られた水は、心地よいほどあったかかった。


「お母さんがずっと温めてたの。二人がいつ帰ってきても好きな時に入れるようにって」


 彼女のたちの母。カレンは熱管理が得意だったりする。

 それで、たまに来ては温めてたのだろう。


 ミューリの話を聞きながら、リューネがお湯をぶくぶくさせる。

 二日ぶりに近いお風呂で、足も体も伸ばしてゆっくりと。


 妹の無反応にむっとしたミューリが後ろに回って。


「えいっ!」


「―――ぶくっ!」


 抱きつき。


「けほっけほっ、なになに!」


「無視するなー!」


 言いながら、リューネのことをくすぐり始めた。

 水しぶきを大きくたてながら悶える。


「ちょっ、ちょっと! 姉さま! 私が悪かったからっ、やめっ!」


「むー! 反省したなら、みーのことを無視しないー! わかった?」


「わかっ、わかりましたから! 終わりにっ!」


 笑いを堪えすぎて、変な声を漏らしながら暴れて。

 ずっと入っていた力が、抜けたようにぐてっとしてしまった。


 ミューリは妹を引っ張り、自分に寄りかからせて、一度軽いため息を漏らす。


「リューネもシュートくんも、みーの妹と弟なんだから、もっとみーを頼るべきなの。みーより早く大人になろうなんてダメなのー」


「……ごめんなさい。諦めてミューリ姉さまを頼りまーす」


「諦めてってなに! 諦めてって!」


「今度は私のばーん!」


「こっ、こら! リューっ、やめっ! あっははは」


 かっこつけて後ろから軽く抱きしめたミューリのことを、お返しとばかりにくすぐり始めて。

 それをやめてお互いの顔を見たときは、大きく笑い合っていた。



 00000



 双子の部屋。


「……じゃあリューネには僕から言っておくよ。たぶんその方がいいと思うし」


「ごめんなさいね。二人とも私に似ちゃったせいでいろいろと不便にさせちゃうみたいで」


「別にいいって。これで結構気に入ってるんだから」


「そうね。私もシュートと一緒で気に入ってるから。ままの髪とかすごい綺麗だし」


「……ありがとう」


 二人の微笑みに、カレンが涙をためながら抱きついて。

 シュートたちは抵抗しないまま少し経つ。


 カレンは立ち上がってから優しく微笑んで。


「それじゃあ。私は下に行ってるから。ごはん、食べたくなったら来てね~」


 いつものようにゆったりしながら部屋を出ていく。


 また二人きりになった部屋で、シュートの後ろに回ったキューレが、彼の背中におでこを当てた。

 そして落ち着いた、悲しげな声で。


「入学おめでとう」

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