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目覚めた世界に姉がいた。  作者: かがり
さいしょのお話
1/25

プロローグ 名前のないお部屋

その事故は二人の命を奪った。

高校二年生だった女の子と男の子。


二人の残骸に誰もが目をそらそうと悲鳴を上げた。


泣きわめく人が。

線路に降りる人が。

遠くで邪魔だと押す人が。


誰かが二人は犠牲のピースとでも言いたげなため息を―――

 真っ白な壁に、真っ白な床。

 窓も扉もないのに、なぜか監視カメラが付いている不気味な部屋。


 ただ一つ、中央にある短足の机に一人の少女が顔をのせて、自分の赤い髪ををくるくる回した。


「―――そういうわけだから、生まれ変わっても二人でどうにかがんばってねぇ」


 興味なんてなさそうに、面倒くさそうに、切られた言葉。


 その言葉に机を大きく叩いて、立ち上がる少年がいた。

 彼は黒髪を揺らしながら、机の反対側でだらけている赤毛に詰め寄る。


「ちょっと待ったっ! たくさんある僕の質問に答えてもらおうじゃないか!」


「えぇ……フィーリングとかいうので何とかならないかぁ?」


「ならないからっ! 第一なにより、僕()()は死んだんじゃないのかっ!?」


「つばとばさないでよぉ……」


 少年の口から飛んでいく唾液。

 赤毛は顔に飛んできたそれを、パーカーの袖で拭ってから、不満に顔を歪める。


「……つばは謝るけど、僕と、彼女は死んだんじゃないのか?」


 言いながら隣に座る少女を見る。

 少女は、金髪をだらしなく垂らしながら、机上に置かれたお菓子を静かに頬張っていた。


 なんでこんなときに淡々とお菓子を食べれるのか、心の底から気になっていた質問を噛み砕いて、前に向き直す。

 今度も面倒くさそうに顔を持ち上げて、体を後ろに反らせて背伸びをする赤毛。


「キミたちが死んだと思うならそうなんじゃないかぁ?」


 ボクは知らないけどと、テキトーに言う。

 そんな赤毛の答えに、少年は怪訝な顔を作る。


「じゃあここが天国……ってこと?」


「それじゃあまるで、ボクが死んでるみたいじゃないかぁ!」


「神様とかだったら、いてもおかしくないと思うけど」


「ボクはカミサマなんかじゃないですぅ。失礼な人間だなぁ!」


 完全否定。

 腹が立ったというように、さらに顔を歪めてしまった。

 その様子はとてもかわいらしいのだが、そのまま一升瓶をラッパ飲みする姿に、黒髪は軽く引いている。


 空っぽになったのだろう一升瓶は、遠くから聞こえる、ぱりーんっという破壊音に変わった。


「ボクはぁ、普通のヒトですぅ! うん? ヒトだよぉ!」


「やっぱりさっきのはお酒?」


「酔ってない! まだ酔ってないよぉ!」


 微妙にずれた回答をしながら、赤毛は机をバンバンと叩く。

 それを見て、今度は黒髪が顔を引きつらせた。


「じゃあここってどこなの?」


「別に名前なんてないよぉ? ただのボクのお部屋もん!」


「……なんで、死んだはずの僕たちが、君の部屋にいるのさ」


「ボクも詳しくはしらなぁい。……だいたい()()()が考えることは、いつもいつも、予想外すぎるんだよ」


「……あの子?」


 ぼそりと、一瞬だけ素面に戻ったように目を遠く泳がせる赤毛。

 けれどすぐに目が、とろんと垂れてきて。


「ふぁあ……もうねてもいい?」


「もう少し起きてて。あの子ってのも気になるけど、なによりも生まれ変わるってどういうこと?」


「そんあの言葉通りだよぉ? キミたちには新しい人生をプレゼントぉ!」


「ろれつ回ってないし……」


 所々で欠伸をする赤毛に、微かにため息を吐く。

 そして、酔いのせいなのか、眠気のせいなのか赤毛はべらべらと話し出した。


「ほんろは生まれなおすのとかめんろうなんだけどねぇ? キミたちはまぁ、特別らしいんだよぉ」


「特別? どうして僕たちが?」


 赤毛が唸る。

 んんーと、ほっぺに可愛らしく手を当てて、なんだか諦めたような顔をする。


「ほんろは隣の金髪ちゃんだけらったんだけどねぇ? キミはついでなんだよぉ」


「僕は招かれてないのかよっ!」


「せいかぁい!」


 げらげらと笑いながら、さっきよりも激しく机を叩く。

 黒髪が、もしかして僕は場違いなのかなんて思っていると、すぐに赤毛が口を開いた。


「らってらってほんろうは―――


「このクッキーうまぁぁぁ!」


 ―――らったんらもん!」


 今まで静かに、それこそ場違いなふうにお菓子を食べていた金髪が、真っ黒な目を輝かせながら赤毛の大切そうな言葉を切り落とした。

 黒髪の少年は、顔に唖然という漢字を書いている。


 そんなことを知らない、知る気もない女の子たちは、でしょーとか、もう一個欲しいとか興奮しながら話していた。


 それを聞いて、別の意味で興奮したように、黒髪が赤毛に詰め寄って。


「さっきの! もっかい言って欲しいんだけどっ!?」


「んー? あぁ! もう準備できたみたいだよぉ?」


「いやっ、だから……」


 近くにきた少年の顔の方を向いて、一度手を大きく叩いた赤毛。

 流れるように右手の人差し指をまっすぐ伸ばして、黒髪と金髪の後ろ側を指して。


 少年は声を出しながらも、あっちむいてほいの要領で、指に誘われて後ろを向く。


 顔に書かれていた、唖然という文字が拡大された。


 少年の目の先。

 壁から広がって、少年たちを飲み込もうとするような暗闇。


 得体のしれない歪な影。


 なにがなんだかわからない少年は目を見開いたまま、すぐに振り返って―――

「これぇ最後の一個らけど、あげるぅ!」


「ほんとに、いいの!?」


「うん、いいよぉ! れも、そこの人つれて、あの中に入ってくれたららよぉ?」


 賄賂を受け取る瞬間だった。

 赤毛は、右手で影を。

 お菓子を持った左手を黒髪の少年に向けてニコニコしている。


 そんなバカなことバカでもしないと、呆れたような、嘲笑したような顔を作った。


「わかった!」


「ちょぉおおお!」


「こうしょーせいりつぅ!」


 赤髪がドヤ顔を作った。

 金髪の少女が目の前に来た大きなクッキーに半分ぐらい食いついた。

 そして、残った分を手に受け取って、唖然の表記がへにょへにょになった少年の口に突っ込んだ。


 そのままの勢いで少年の襟を掴まえて、ぐしゃぐしゃと広がる影に飛び込む。

 衝撃も何もないまま二人は影に飲み込んで行く。

 最後には金色に輝いていた髪が見えなくなって。


 ただ一人、部屋に残っていた赤毛は、小さくなっていく影にふわふわと手を振りながら、ため息を吐いた。


「がんばってねぇ……ぐぅふ」


 寝落ち。

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