9 達弘の告白
「俺、お邪魔だよねぇ」
勝手にうちに上げておいて真人はのんきに頭をかいた。
相手が知り合いと名乗ったのだとしても、見たことのない男だ。
普通玄関で待たせるだろう。
言われるがまま上がってくる達弘も達弘だが、部屋まで案内するなんて真人のバカさ具合には心底呆れる。
「真人は部屋にいて。私が出るから」
首にジッパーを持っている男を部屋になんて入れられない。
真人の手を掴み部屋へ引き込むと、入れ替わるように廊下へ出て扉を閉めた。
何も知らない真人を巻き込むわけにはいかない。
「鍵を閉めて!」
「ねーちゃん?」
「いいからあんたは部屋にいなさい!」
外では見せない命令口調で真人を怒鳴りつけ、達弘を睨みつける。
美夏たちの行動から考えても、ジッパーを持つ人間が私たちに危害を加えようとすることは明白だ。
わけがわからないと思っているのだろうが、素直が取り柄の真人は言われた通りに鍵を閉めてくれた。
「達弘。どうしてきたの」
「どうしてって、有希の様子がおかしかったから気になって。いけなかったかな。ずいぶん怖い顔をするんだね」
達弘はあれから美夏たちと情報交換しただろうか。
私にばれたこと、襲おうとして逃げられたこと、本当はみんな聞いてるんじゃないか。
何も知らない口ぶりだけど、信用なんかできっこない。
「嘘。それくらいでうちまで来るなんて、なんか怖いよ。達弘はただの友達でしょ?」
「……なんか、あったんだね。美夏たちと」
達弘が壁に手をつき間合いを詰める。
いわゆる壁ドンの体勢。
女子の憧れか何だか知らないが、今そんなことをされても恐怖でしかない。
やっぱり達弘は美夏たちから何があったか聞いているんだ。
ドアの向こうで聞いているだろう真人の手前、強気に振舞っているけれど、本当はへたり込んでしまいそうなくらい怖かった。
「親身なフリなんてやめて! 私知ってるのよ。達弘の首には」
「これのことだね」
達弘は首の後ろに両手を回した。
「ひっ」
「怖がらなくて、大丈夫」
達弘はすぐに手を下ろし目の前でパッと開いて見せた。
手のひらの上には鈍く銀に輝くジッパーの引き手金具。
「ボディピアス。アレルギーでも大丈夫なチタン製なんだ」
「……ピアス?」
達弘に微笑みかけられ、頭が真っ白になる。
「有希がジッパーに気づいていることは知ってたよ。花火の時、金属アレルギーのことを聞いたのも俺の首にジッパーがあるのを見たから、だろ?」
「本当にただのピアスなの?」
「ただのピアスさ」
達弘は私の手にジッパーのピアスをのせた。