6 打ち明け話
「はぁっ? ジッパー?」
美夏が素っ頓狂な声を上げ、教室に残っていた数人の注目を浴びる。
「ああもう、変なこと言ってるのはわかってるけど、聞いて。本当に首にジッパーとしか思えないのが付いてたんだって!」
口角を上げくすりと笑う姿に、美夏は達弘のジッパーに全然気がつかなかったんだと確信する。
頬を緩めながらも真面目な表情を作ろうと、変な顔になっている克己も同様だ。
「達弘はひどい金属アレルギーだって言ってたし、アクセサリーとかそんなんじゃないと思う。何度見ても直接生えてるようにしか見えないから、なんなのかなって気になって、確かめたくて……」
「ジッパーねぇ。有希、大丈夫?」
肩に掛かる髪を払いながら美夏は哀れんだように眉を寄せ、じっと私の顔を覗き込んだ。
あんまりおかしなことを言うから、頭がどうにかなったんじゃないかと疑っているのだろうか?
どこか目が真剣だ。
「信じられないのは無理ないと思う。私だってあの時は暗かったし、見間違えじゃないかって思ったもん。だから明るいところで見ればはっきりするって思ったのに」
「有希、そのジッパーってさ、こんなやつじゃなかった? ほら」
突然克己が身を乗り出してきた。
首を前に傾け、襟を立てたシャツの首元に手を添える。
耳に届くのはチキチキとジッパーを下げるかすかな音……。
「えっ、えええっ??」
「ちょっと克己、やめなさいよ」
美夏が私を抱き寄せ、克己の肩を押しのける。
「ははっ。なんちゃってな!」
顔を上げてすぐに克己はおどけてみせた。
「あ。やりすぎたか」
シンと静まり返った空気に気まずい顔をする。
「冗……談?」
「わりぃわりぃ。ついからかいたくなっちまってさ」
「ほんっと信じられない。バカじゃないの? 有希は真剣なんだよ! ……話はちょっとあれだけどさ」
胸がばくばく跳ね、視界が揺らぐ。
冷や汗が吹き出し自分の皮膚が遠くなるような嫌な感じ。
「達弘着ぐるみだったりしてな! この猛暑に大変だぜ。どうせだったらもうちっとキリッとしたイケメンのマスクかぶりゃいいのに」
「酷いわね。達弘優しそうでそう悪くもないわよ?」
快活に笑う克己から目が離せなかった。
だってさっき、聞いてしまったから。
「克己、さっきの音。ジッパーの音。どうやって?」
私の言葉に克己がの肩がピクリと動く。
「聞こえちまったか。それはな……」
「バカ。だからしつこい。もう、やめなって!」
再び克己が頭を下げて近づき、美夏がそれを押しのける。
克己が襟に手を入れると、浮き上がった襟の内側でキラリと銀に光るものが見える。
「あっ、克己の首で何か光っ……」
「これ以上は許さないよ、克己。カケに勝ったのは私でしょ?」
美夏が私を強く引き寄せる。
「わかってるけどさ、俺とお前の仲だ。少しくらいはいいだろ」
カケ?
美夏と克己の仲だから少しくらいはいい?
二人の会話がなんだかおかしい。
美夏の顔を見上げる。
「ほら。もう、ばれちゃったじゃない。克己のせいよ……心配しないで、有希。怖くないから」
美夏は突然私の額にキスを落とすと、両腕を上げ首の後ろに手を回した。
ペロリと舌で唇を濡らし、さっと髪をまとめるとシャツワンピースの襟をまくる。
「ふふ。達弘、やっぱりポカやってたんだね。来させなくて正解」
「……美夏、何言ってるの?」
教室を見回すと、残った学生たちは皆同じように両腕を首の後ろに当てていた。
ジィッと一斉にジッパーを下ろす音がする。
「痛くないようにシテあげるね」