3 そばにいたい
「バケツ結構重いよね」
達弘と二人だと間が持たない。
何か話さなくちゃと焦り、出てきた話題がそれだった。
「そうだね。想像以上に重いかも。美夏は、俺たちを休ませるためにコンビニ寄ろうって言いだしたのかもなぁ。面倒見がいいとこあるだろ、あいつ」
「あーわかる。美夏のそういうとこ小さい頃から変わんないな〜。家庭をうまく回すいい奥さんになりそうなタイプだ。美夏は」
水の入ったバケツ運びが大変なんじゃないかなんて、今初めて考えた。
それが美夏みたいな気の利く女と私の差なんだろうなぁ、とガラスの向こうの美夏を見つめる。
コンビニでは克己がカゴを持ち出して、本格的な買い物を始めていた。
二人はまだしばらく出てきそうにない。
「あの……達弘ってさ、金属アレルギーだったよね。ネックレスとか指輪とか、ダメだって言ってなかったっけ」
コンビニの白々とした明かりに達弘の首の後ろがキラリと輝く。
一度目につくと、これまでどうして気づかなかったんだろうと不思議になるくらいジッパーが目に付いた。
金属製だろうジッパーが触れた皮膚は、特に腫れているようには見えない。
「そうだけど。なんで?」
「あっ、いや、わりとひどい方なのかなって……ネックレスするのとか、ダメなのかな〜とか」
もしかしたらジッパーなんて見間違いで、留め具がそういうデザインのネックレスか何かかもしれないなんて思ってみる。
ひとつ開けたボタンダウンシャツから覗く首元にはチェーンも何も見えないけれど、可能性はなくはない。
「うん。アレルギーきついほうかもなぁ。チェーンで線状のミミズ腫れができるくらいだし。……だからプレゼントならアクセサリーじゃないのがいいな」
達弘が目を細めて、私の顔を覗き込む。
「へ? プレゼント?」
「あれ、もうすぐ俺の誕生日だから探り入れてくれたのかと思ったんだけど? 違ったかな」
至近距離で見つめられると、これまでなんとも思ったことはなかったはずなのにドギマギしてしまう。
「あ、うん。そっか。そうだったね……じゃあ、なにがいいかな」
達弘は愛されることに躊躇がない。
花火に誘う程度には仲がいいかもしれないけれど、私たちは恋人でもなんでもないただのサークルの同回生だ。
そんな相手から達弘は自分が祝福され、アクセサリーを贈られるかもしれないことを前提に話している。
当然のように。
きっと相手が克己だろうが美夏だろうが達弘は同じように要求する。
いつも打ち解けない気持ちで人の後ろをついて歩く私とは大違いだ。
今だって明るく人気者の美夏、快活な克己、そして誰とでも打ち解ける達弘の中で場違いな気持ちでいっぱいなのに。
「俺は有希がいいな」
「えっ?」
「誕生日にくれるなら有希がいい。一緒にいてくれないかな。これからも一番近くに」