12 信用していいんだ
「花火の日、美夏たちは有希をサークルボックスへ連れ込んで喰らうつもりだったんだ。俺がジッパーをチラつかせたのはわざとだよ。有希に迫って気を引いたのも、早くこの場から離れて二人で話をしたかったからさ。結局有希は警戒して帰っちゃったけどね」
「あたりまえでしょ? そんな得体の知れない人となんか怖くて二人になんてなれないよ! 誘うの下手すぎる。普通に大学で声をかけてくれたら……」
「学校で話せる内容じゃないだろ」
学内が首を隠した人間でいっぱいだったことを思い出す。
「そっか。そうだね」
それに私は美夏の幼馴染であって、達弘とはそこまで親しかったわけじゃない。
達弘は克己の友達で、克己が美夏と親しいからよく遊びに誘われ一緒になるという関係だ。
私も達弘も積極的なタイプじゃないし、自然に二人きりで学外で会おうなんて誘えるような感じでもなかった。
「怖がらせてごめん。こういうの慣れてなくて。でも有希が狙われてるとわかったら、いてもたってもいられなくなった」
そんな達弘が私を助けようと必死に策を練ってくれた。
その気持ちに、胸がきゅっとなる。
「危ないなあ。もし私が見つけたその場でジッパーのことを尋ねてきたら、どうするつもりだったのよ。達弘だって危険じゃない」
「それならそれで誤魔化したさ。それに有希は遠慮がちで、場の空気を壊すのをすごく嫌がるタイプだから、みんなの前で切り出したりはしないと踏んでた。聞いてくるなら二人の時」
達弘が温和そうな笑顔を向ける。
「読まれてるな」
友達に見透かされるのは居心地が悪い。
まだ知り合ってそう長くもない達弘に簡単に見抜かれてしまうなんて、自分が単純に思えて恥ずかしかった。
「あは。有希が帰ってくれたおかげで、ひとまず計画はおじゃんになった。ジッパーのことは有希も気になってるはずだろ。翌日講義の後ランチにでも誘って学外に連れ出せば、今度こそ話くらいできるはずって楽観視してたんだ。まさか美夏たちに警戒されて俺が一服盛られるとは……誤算だったよ」
花火の日、唐突なカケでリーダーを決めた美夏たちは私をサークルボックス棟へ連れ込んで、喰らうつもりだった。
コンビニに寄ったのも花火の片付けをした後、部室で飲もうと私を誘い、襲う流れを作るため、か。
本当に危ないところだったんだ。
背筋がうすら寒くなる。
「そうだ。カケ。あれにはどうしてのったの? 克己が花火を落として危うく達弘が勝つところだった。勝ってリーダーにされちゃったらどうするつもりだったの。毒針なんか持ってないのに」
「カケが成立すれば美夏が入ってこないわけないと思ってたさ。いつも決まってリーダーは美夏だったからね。これまで見張りと後始末しかさせてこなかった新米の俺にリーダーを譲るなんて、プライドが許さないだろ」
いつもリーダーだった。
つまり美夏は既に何度も捕食と繁殖を繰り返してきたってことだ。
隠されていたとはいえ、毎日あんなに近くにいて何も気づかなかった自分が情けない。
「克己がカケを提案したとき、用意周到な美夏より直情的な克己がリーダーの方が出し抜きやすいと思った。だから克己の提案に乗ったんだ。カケが成立して、内心美夏は慌てていたはずだよ。克己が勝てばそれでよし。克己が負けて美夏と対戦することになったら、タイミングをはかってわざとに珠を落とせば俺がリーダーになることはない」
全くリスクがないとはいえないが、優男に見えて気の強い達弘らしい計算だ。
信用していいんだ。
ほっとすると急に体の力が抜けた。
「美夏たちは正体を知った私をほっとかないよね。私、これからどうすればいいの」




