11 奴らの生態
喰らった相手に子を産み付け、子に餌だった人間の記憶を引き継がせる。
美夏たちはそうやって喰われ、全く別の危険な生き物に成り代わられていた。
「奴らは首の後ろのジッパーを下ろして皮を剥ぐと頸部に隠した針を出すんだ。その針は点滴の管のようなものにつながれていて、刺すと相手を麻痺させることができる。神経毒で麻痺させたあとは消化液を注ぎ込み、中身を溶かして吸い上げるって仕組みだ。一人が一度に出せる消化液の量は中身を溶かしきるのに十分じゃない。だから奴らは通常子を産み付けるものをリーダーとし、複数で狩りをする」
達弘は淡々と続けた。
「通常はってことは例外もあるの?」
「かなりレアかな。一度に出る消化液が不十分でも何度かトライすることで溶かしきることはできるから、もちろん単独で動く奴もいなくはないさ。栄養を独り占めできるしね。雌雄の区別なく子を産む能力があるから、単独だとリーダーにならなくても自分の子孫を残すことができる」
「だったら……」
今の達弘のように、単身家に乗り込んで襲ってくることだってありうるわけだ。
達弘がピアスを隠していたことについては納得した。
けれど花火の日の達弘の行動にはまだ腑に落ちない点が幾つもあった。
達弘から情報を得ながらも、未だ達弘を疑っている私がいる……。
「新しく注入する消化液を貯めるのも、それで内臓を溶かすのもかなりの時間がかかるんだ。よほど環境に恵まれていなければ途中で発見されてしまうだろうね。獲物が病院に搬送なんかされてしまったら、元も子もないだろ。だから奴らはすごく慎重。特に美夏は用意周到で、鍵のついた室内でしか手を出したのを見たことがない」
達弘はすらすらと話し続けた。
達弘の言うとおり、大教室でジッパーのことを打ち明けた時、美夏はその場で私を襲うつもりではなかったように思えた。
なのに克己が急かしたせいで私が克己の首にジッパーがあることを確信してしまった。
知った人間をほっておくわけにはいかない。
それで状況が整わないまま動かざるを得なくなってしまったのか。
「そっか……。私が逃げられたのは奇跡的なことだったんだ」
教室内には仲間が大勢残っていたため、万全ではないが全員で襲えばなんとかなると踏んだのだろう。
それが油断を生んだ。
準備不足の環境が私に逃げるチャンスを与えてくれた。
「そんな奇跡はもう二度と起こらないと思っておいたほうがいい。むしろ危機はこれからさ。正体を知っている人間を奴らはほっておかない」
達弘の言う通りだった。
「そう、だね。達弘どうしてそんなに詳しいの。誰かから聞いた?」
「ああ……色々、あったからね。これまで何もできなかった俺だけど、有希だけは助けたいと思ってる」
気まずそうに目を瞬くと、達弘の目の端がじわりと濡れた。




