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23 本当の決着

 日向の眼前には振り下ろされる竹刀。

 竹刀である。ただでさえ人に対して殺傷力があるというのに、さっきまで巨人の硬い拳と打ち合えるほど強化されている代物だ。

 そんな物が日向の頭に向かって振り下ろされている。当たれば当然日向の頭はつぶれてしまうことだろう。そんな光景が頭のなかに広がり、日向は思わず目を閉じる。

 そして、真っ暗な視界の中耳に飛び込んできたのは、ゴスッという鈍い音だった。

 しかし、


「あれ?」


 音は聞こえたにも関わらず響かない衝撃。


「ああ、なるほど。衝撃を感じる間もなく逝っちゃったってことか」


「日向、なにぼけたこといってるんだよ」


 快斗の声に日向が目を開けると、そこでは快斗と、そしていつの間にか立ち上がっていた巨人とがおのおのの武器を打ち合わせていた。

 どうやら快斗の行動は巨人の拳から日向を守るためのものだったようだ。

 自分を傷つけるためではなかったことに安堵する日向。

 そしてどうやら巨人は弱っているようで、快斗が容易に押し戻している。


「倒れたにも関わらず消えないからじっちゃんの話と食い違うなと思っていたらこういうことかよ」


「食い違うって?」


「人外は基本的に魔力の塊みたいなものらしい。そこになにかの意思というか魂というかが宿っているみたいでそれを少しずつ削りながら活動している。そんで俺たちの攻撃はその魔力やら魂やらを削っているらしい。んで倒すとその魔力が霧散して消えるんだとさ。とほら使い果たしたみたいだぞ」


 と快斗の前で巨人が膝から崩れ落ちる。そして霧のようなものを発生させながらその体を薄めていき、終いには消えて無くなった。


「なるほど……あれ? あの巨人物理的な攻撃力持ってたよな」


「ああ、そうだな」


「ということは人外の魔力は霊威魔力のレベルに達しているってことか?」


 愕然とした表情で聞く日向。それに対して快斗は首を横に振り、


「いや、人外の魔力は変質しているからみたいだぞ」


 人外によって変質している魔力はどのレベルであっても物理的な影響力を持つ、とは快斗のおじいちゃんの言らしい。


「もし、あれが霊威魔力レベルの魔力を持った奴だったら消えていたのは俺たちの存在だろうな」


「そうなのか…… じゃあ、あの巨人の魔力はどれぐらいだったんだ?」


「それは俺にも分からん。じっちゃんなら分かるとは思うけど」


「ふーん。 ……なんか快斗、じっちゃんから聞いたとか、じっちゃんなら何々とかって多すぎない?」


「そりゃ。じっちゃんだからな。なんでも知ってるさ」


「それは無いだろ。なんでもってのは流石に言い過ぎだ――」


 ヒュゴッと音を立てて竹刀が突き出され、日向の眼前で止まる。


「おっと、そこまで。言い過ぎじゃないぜ」


 口の端を釣り上げて笑っている快斗。しかし、目は全くもって笑ってはいない。

 日向はコクコクとうなづき、


「カイトノジイチャン、ゼンチゼンノウ。ナンデモシッテル、ナンデモデキル」


 日向が言うと、快斗は竹刀をおろす。

 そして日向は思い出す。


 そういえば快斗(こいつ)、重度のおじいちゃんっ子だった――と。


「それにしても、快斗。お前魔術のことを知ったの本当に一昨日か? それにしてはいろいろ知りすぎだろ」


「じっちゃんから教えてもらったからな」


「いや、でも、お前そんな記憶力あったか?」


「じっちゃんが言うことを忘れるわけがないだろ」


「……あっ、はい。ソウデスネ」


 そして沈黙。顔を見合わせたままの日向と快斗。そのまま時計の秒針が一回転――は結界内のためあり得ないが、それほどの時間が経つ。

 しかし、いつまでもこうしていても仕方ないと、日向は自分のかばんのもとへと向かう。


「快斗、結界が解ける前に戻ろうぜ」


「ああそうだな」


 応えて、快斗は竹刀をしまうためにロッカーへと足を向け、そして急に立ち止まりあごに手を当てる。


「おい、日向」


「どうした快斗?」


「俺たちちゃんと人外を倒したよな」


「ああ、多分な。消えるところも見たし」


「だよな…… じゃあなんで、結界は解除されてないんだろう?」

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