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12 中二病的質問

 快斗の質問に目を開いて固まる日向。そこに香織が茶々を入れる。


「へぇー、紫藤くんも中二病だったの」


「違う。もしもの話っていっただろ」


 にやにや笑っている香織とそれに反論する快斗。その二人の横で日向はというと快斗のあまりにもタイムリーな質問に頭を悩ませていた。

 時が止まったら? 結界のことか? まさか快斗も魔術師だったってことか? いやでもそれだったら妹と同じで俺を中二病扱いしないだろうし……


「――香織ちゃん、白髪あるじゃん」


「あー、紫藤くんも話そらすんだ。……どこ?」


「ここ、ここ」


 少々混乱混じりの日向は香織としゃべっている快斗が時々何か見定めるような視線を向けていることにみじんも気付かなかった。


「まあいいや。二人ともさっきの質問は忘れてくれ」


「んー、分かった」


「……」


「日向も、な」


「……っ、お、おう」


「なに、どもってるんだよ……」


 そんなこんな話しつつ歩いていた三人はいつの間にか校門にたどり着いていたことに気付く。目の前にはレンガの橙、左右には駐輪場。右奥が校舎でその向こうからは新学期早々朝練が始まった野球部の声が届く。

 日向と快斗は揃って左手の通路に入り押していた自転車を駐め、また香織のところへ戻る。そして昇降口へ向かおうとしたところでうしろから声がかかる。


「おや、香織たちじゃないか。おはよう」


「あ、おはよう知華ちゃん」


「おはよう花里さん」


「けっ、偽金髪か……おはよう」


 知華に対して悪ぶりながらもちゃんと挨拶してしまうあたり快斗の人間性が出ている。そんな快斗を前に知華は腹を抱えて笑い出した。意外すぎる知華の反応に日向も香織も快斗ですら唖然としている。


「入学式といい、面白すぎだよキミ。僕の初めてのニックネームが『偽金髪』か。これは傑作だ」


 笑いすぎて知華の目には涙すら浮かび始めていた。彼女は後ろに流した自分の髪を一房掴んで眺めると頷く。


「うんうん、気にしたことも無かったけど確かに偽金髪だ。紫藤君っていったかな。キミとは仲良くなれそうだ。改めてよろしく」


「お、おう」


 知華から差し出された手を、声を詰まらせながらも握る快斗。その様子を日向と香織は興味深そうに見つめる。


「……なんだよ、二人とも」


「「へぇー」」


 快斗が二人に目を向けると、彼らはからかうような声を上げる。快斗につられてなのか知華も二人の方を向き、日向へ声をかける。


「キミは秋月君だったね。キミもよろしく」


「ああ、よろしく」


 そして教室へ向かって歩き出す四人。その途中で香織は知華に質問する。


「あ、そうださっき三人でしゃべってたんだけど、もしも時が止まったら知華ちゃんならどうする?」


「えっ……とそうだね……辺りを歩いて様子を見てみたり高いところから見渡してみるかな」


 知華の一瞬の瞠目。しかし日向も香織も快斗もそれに気づくことはなく、香織は知華の答えの理由を尋ねている。 


「時が止まるなんて奇怪な現象が起きたら、周りがどうなってるのか気になるじゃないか。それにそんなに経験簡単にできるものじゃないだろうから出来るだけ多くのことを目に焼きうつしておきたいしね」


「なるほどー。私だったらびっくりしてその場に留まり続けちゃうかも」


「俺は辺りをウロウロする派かな。日向はどうだ?」


「……ああ。えーっと、そもそも時が止まったことに気づかなかったりして」


 日向は知華の返答にどこか引っ掛かりを覚えていたものの快斗から水を向けられて意識を目の前に戻す。そして咄嗟に事実を話してしまった。もちろん、ほかの三人にそれが日向の実体験であることなど分かるはずもなく――

 それからは長年の友人のように和気あいあいとしゃべりながら四人はそのまま教室へと歩き出した。

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