表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

2. きまぐれなてんきのなかで

3話まで1日1回投稿してしまいます。(ストックはたった6話分)

 ぱち、ぱちと火が焚かれていました。

 使われなくなった小屋で、その何か達は火を囲んでいました。

 肉や木の実でお腹を満たした後は、それぞれで毛繕いをしたりと、穏やかな時間が流れています。

 オオカミとワシの、風の力でタヌキやイタチを浮かせたり、タヌキの力でほんの少しだけ、びりびりと痺れるような感覚を楽しんだり。それから、火の中に松ぼっくりなどを入れると火の色が変わるのも見ていて楽しいものでした。

 そしてまた、娯楽として石積みをやる事がありました。

 小屋の中に集めてある、手頃な石を皆で積み重ねていったり、各々で積み重ねていったりとする事を良くやっていました。

 イタチだけ、後ろ脚で立ちながら前脚で物を掴めるので、各々で競うとイタチが一番高くまで積み上げられる事が多いのですが、オオカミとワシも、風の力を使って、肉体を使わずに石を積み上げられるので、負けっぱなしという訳でもありませんでした。

 ただ、タヌキは他の皆みたいに出来ないので、大体眺めているしか出来ずに余り、楽しめずにいました。

 イタズラをしても、結局は邪魔しているだけなので余り良い気分にもなれません。なので、皆が石積みに興じている間には、何か他に面白いことがないかぶらぶらと外を歩いている事が多くありました。

 神経を集中させている張り詰めた空気、音も立てずに石を乗せていく皆。そんな中、ぱち、ぱち、と燃え続ける火。

 こうなっては、タヌキには外に出るしかありませんでした。他に、何か面白いことでも出来ればいいのですが、他の皆にとっては、今の所、石積みより面白いことはないみたいでした。


 つまらないの、と思いながらタヌキは外をぶらぶらと歩き回ります。

 タヌキは、タヌキ自身でさえ、自分の力がどういうものなのか、分かっていませんでした。物に当てれば焼け焦げ、水を介せば魚が気絶して浮いてきます。けれど、空気中で、火花や風のように、目に出来るような、分かり易い形で力を出すことはどうしてもできませんでした。

 何となく、皆の中でもタヌキは仲間外れのような、そんな感覚を覚えていました。

 勿論、皆が優しい事は分かっています。一緒にいるのは心地良いですし、泥だらけになってたり、体が濡れていたりとすると、毛繕いをしてくれたり、体を乾かしてくれたりします。

 それでも、自分だけまだ皆と完全に打ち解けられていないような、そんな気がしてなりませんでした。

 寂しさが少しだけ、タヌキの頭のなかにぽつりと、あり続けていました。

 何か食べようかと思いましたが、お腹はもう既に一杯でした。オオカミが狩った鹿は、皆がお腹が一杯になるまで食べてもまだまだ残っていました。

 なんだかなぁ、とタヌキは退屈を紛らわすかのようにとことこと、当てもなく歩きました。

 空気には、強い湿り気が混じっていました。

 ……、あ、これ、雨だ。

 気付いたときには、ぽつぽつ、さらさら、と雨の音が聞こえ始めていました。

 余り良い気持ちじゃないままに木の下に避難して、タヌキは空を見上げます。

 月は見えませんでした。全くの真っ暗闇で、とてもつまらないような感じで頭が占められて行きます。

 段々と眠くなってきてもいました。今日は、ここで寝てしまおうかと思いましたが、体を丸めたほんの少し後には、雨はざあざあと強くなってしまい、適当なところでは寝れそうにありませんでした。

 本当に、嫌な気分です。

 小屋に戻るしかないか、とまた立ち上がったとき、ふと、変な感覚がしました。

 小屋の反対の方から、自分達と同類の()()がいる感覚でした。


 タヌキ達()()は、種族が違えど、捕食者、被捕食者の関係無しに同じ()()として生きていました。しかし、言葉はありません。元々の獣よりもはっきりとした自我と意志、そして同じ()()として感じられる心地良さ、それだけを以てして、仲間として生きていました。

 知識や経験は、言葉や文字という便利なものを介して伝えられる事はありませんでした。

 そして、この森の中で最も新しい()()であるタヌキは、同じ()()がどう発生するのか、その何もかもを知りませんでした。オオカミやワシ、イタチが全員唯一知っている、ただ唐突に発生するらしいということ、それすらも。

 タヌキは、どうするか少しだけ悩みました。その()()が居る方向は小屋とはほぼ正反対の方向でした。それは即ち、オオカミやワシ、イタチとは違う()()である、ということでした。

 敵、かもしれない、と思いました。でも、同じ()()なら敵であるはずもない、かも、とも悩みます。

 皆を呼びに行った方が良いかな、でも、ちょっと皆より先にその()()に会ってみたいな。

 敵、だったらどうしよう。あ、でも、僕の力なら。

 タヌキは、濡れている地面に、自身の力を流してみました。すると、その周りがじゅうじゅうと音を立てて、煙を出し始めました。熱が出るという点ではイタチの火の力と同じでしたが、この雨の時ならば、タヌキの力はイタチの力よりも遥かに攻撃、という点では優れていました。

 大丈夫だ、うん、大丈夫。

 そう決めてタヌキはその()()の方へ歩いて行きました。


*****


 その()()は、ゆっくりとではありますが移動しているみたいでした。

 けれど、こちらに向かって来ているとも、逃げているとも分からない感じで、タヌキは困惑していました。

 感じられる動きから、全く意図を読めません。

 雨水は体にじっとりと重く圧し掛かり、体は重く、そして冷え始めていました。

 夏が過ぎ去ったこの頃の気温は、雨がざあざあと降っていても生温い程度でしたが、体に打ち付ける水は確実に体温を奪い取ろうとしていました。

 しかしながら、そんな時にタヌキは自分の中に存在する、自分を()()たらしめているものを僅かながら感じられることを知っていました。

 雨に濡れてぐしょぐしょになったまま寝ても、そんなに影響のない体であること。体の元気が奪われていくときに、自分の中の()()がそれを埋め合わせようとすること。

 その埋め合わせようとしている感覚は、とても不思議な感覚でした。ふわふわとしているような、さらさらとしているようなものが、自分の元気を埋め合わせようとしてくる。

 心地良いとも悪いとも言えないようなその不思議な感覚は、不思議なのに、尿意のような、空腹のような、眠気のような、そんな生理的なものに近い当たり前のようなものでもありました。

 きっと、これは、自分が()()としての新しい、当たり前なんだろう。

 そんな風にタヌキは思っていました。

 その感覚を味わいながら、タヌキはびしょ濡れの体で、ゆっくりと先に進んでいきます。

 それでも、雨の中で寝るのは心地良いものではないんだけれど。


 何がいるんだろうという期待と、敵だったらどうしようという僅かな恐怖。距離が近付いていくに連れて、静かに緊張が高まっていきます。

 やっぱり、誰か一緒に来て貰えばよかったかなあ、とタヌキは少しばかりの後悔をし始めました。でも、今更引き返すつもりもありませんでした。

 小屋までももう、そこそこ離れていました。そして、その()()までの距離は近いです。多分、走ればすぐです。

 戻るという選択肢には、面倒臭さが混じりました。自分だけで前に進み続けるという選択肢は、面倒臭さに負けていました。

 しかしながら、恐怖は少なからず、タヌキの一部分を占めていました。

 大丈夫、大丈夫、そう自分に言い聞かせます。

 僕の力がどういうものかは分からないけれど、強いのは確かなんだ。そう信じて、その敵だったらどうしようという恐怖を押し殺しながら歩き続けました。

 雨はより一層、強さを増していました。そして、その音に混じってごろごろと、不穏な音が聞こえ始めていました。


 ふら、ふら、と一匹のキツネが雨の中を歩いていました。

 今にも転びそうな足取りと、焦点の合わない目で、当てもなく歩いていました。意識も定かではなく、体は雨でぐしょぐしょに濡れていました。

 ……? …………。

 意識は夢の中に閉じ込められているようで、けれど、そんなぼうっとした状態でも、何故か転ぶことはありませんでした。

 周りは真っ暗でした。月明かりもなく、雨音は激しくなりつつありました。

 ふらり、ふらりと歩き続けている間にもざあざあと流れる雨。目に、鼻に、口に滴る水。

 最初に思ったのは、それへの鬱陶しさでした。

 ふわり、と体に滴る水が、浮き上がりました。

 暗闇の中、激しく降り続ける雨の中、誰も気付かないような静かさで。


 どん! と雷が鳴りました。空気が震えるほどの轟音が響き、思わずタヌキは身を縮こまらせました。

 雨で鼻も利かず、音も分からず、ただその感覚頼りではその()()が何の獣かすら分からない。そのことに気付いた直後の雷でした。

 すぐ近くにいるのに。多分、目の前に。オオカミならひと跳びで喉笛に噛みつける距離なのに。

 思わず力を使ってしまいそうになります。もし、敵だったら、もし、オオカミだったら。僕なんて一瞬で殺されてしまう。自分の力を使う暇もなく。

 死ぬのは嫌だ。嫌だ。だったら使っちゃおう、そうだ、その方がいい。絶対に。

 そんなことを思った直後、また、どん! と雷が鳴りました。

 眩い光が一瞬、辺りを映し出しました。

 すらりと立っているキツネが目の前にいました。目は、タヌキをはっきりと見ていました。

 時が止まったような感覚がしました。

 それが何故なのか、タヌキには分かりませんでした。また、暗闇になりました。

 キツネ、それは少なくとも、タヌキの瞬時に食い千切って殺せるような獣ではありませんでした。

 タヌキは、そのキツネの方に恐る恐る、近付きました。すると、何故か体に雨水が当たらなくなりました。

 勿論、雨が唐突に止んだ訳ではありません。ざあざあと、音は激しく鳴り響いています。足元を、水が流れています。ごろごろと雲は唸っています。なのに、体に雨は全く当たりませんでした。

 鼻先が自分のすぐ近くに来て、すん、すんと自分の臭いを嗅いでいるのを、タヌキは一瞬遅れて気付きました。

「きゅう?」

 と、キツネは鳴きました。

 タヌキはそれを聞いて、自分が初めて目を覚ました時の事を思い出しました。

 ただ、いきなり放り出されたような、そんな感覚。


 意識がはっきりとしてきたキツネは、目の前にいる子タヌキに対して親しみを覚えていました。

 どうしていきなり親しみを覚えているのか、それも分かりませんでしたが、右も左も全く分からないキツネは、その親しみの感覚を信じることにしました。

 その子タヌキは、早速自分をどこかに連れて行こうとしていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ