第九話 名匠ガルシア
デルフは魔王城の裏にあるガルシアの工房へと帰った。そこにはオーガであるガルシアのただでさえ厳つい顔がより神妙な顔をしているため、近づき難い雰囲気を醸し出していた。
「……ガルシア様?」
「言うな!既にゴブリン共がちゃかしに来て状況は知っている!炎魔刀を造られてはな、所有するものの使う属性や特性に合わせて造る魔武器、俺の魔武器など玩具にしか見えぬわ……お前の鍛冶の技術も【武器の声を聞く】があれば俺をすぐに越えることだろうて、この工房はお前のものだ好きに使え、だが俺はここから出ていく!」
「ガルシア様!そんな!!魔王様が何と言おうがここはガルシア様の工房です。」
「馬鹿者!!!まだあの御方の事が解らんのか!魔王ガルディオンの言葉は絶対だ! 俺があの御方と出会った時はまだ魔王とは呼ばれてはいなかった。 無名の彼は俺にこう言った。『お前の噂は聞いている!お前の造る魔武器の右に出る者はいないとな。 その腕を俺のために使え、俺はすぐにこの暗黒大陸の王になる、お前が俺に付くのならお前に相応しい工房をくれてやる。 そして、いつか俺に振るえる武器を造れ!』と」
「俺はその問いに『断ればどうなる』っと答えた。 あの御方は何と言われたと思う?」
「……。」
「そう、『この場で殺す。』だ!ハッハッハッ! 他の者からしてみれば、選択肢の無い理不尽な要求を突き立てられているように見えるが、言われている本人にからすれば、断る必要など何に一つ無いよもや、それを自らが望んでいたことと思ってしまう! そういう力があの御方にはある。 実際に以前の小さな工房では造れる魔武器の質に限界を感じていた。そして、こうして立派な工房を建てて下さった。
今まで見てきたオーガ族長など上に立つ者の中であの御方ような者はいなかった。 周りから見れば正しい事を言っているように聴こえるが、深い所、例えば部族や集落が変われば全く見当違いだ!決してなにも変わらず間違ったことを繰り返す。 そんな上の者の言うことが嫌で俺は一人になった。しかし、俺は初めて心の底から付いていきたい思える人に出会ったんだ。 だから!小悪魔いや、デルフと呼んだ方がいいな、デルフよあの御方、魔王ガルディオンがこの工房がお前のモノだと言うのなら、それに異を唱えることなど決して俺はしない。」
「しかし、ガルシア様が出ていかれるなど!!」
「やはり、様か……お前はいつも俺のことを『様』を他の魔軍将と同じように、俺はお前の師では無いのか?」
「そんな!ガルシア様、あっいや!ガルシア師匠は間違い無く私の尊敬する最高の魔武器鍛冶士です!!!」そんなこと気にしていなかったデルフは慌ててそれを撤回した。
「いい、いいんだ。━━しかしだ!しかし俺はお前が憎い! 工房がお前に取られたから違う! お前に技術を抜かれたから違う!! お前の才能、【武器の声を聞く】を俺が得ることが出来なかったから違う!!! 俺はあの御方に望みを叶えて頂いた!! しかし、俺は魔王ガルディオンが望んだ事! あの御方に振う事の出来る魔武器を造ることが出来ず、よりにもよって小悪魔であるお前がそれを成し遂げた……俺はお前が憎い……そして何よりそんな俺が許せんのだ!」この時、デルフにはガルシアの頬に光るものが一筋流れたように見えた。
「…………。」デルフはガルシアの思いにかける言葉が見つからない。
「俺の集めた書物は荷物なるから全て置いていく。」
「あれは、ガルシア師匠が人間から何でも強奪してくるゴブリン達に、造られた魔武器と物々交換して、少しずつ集めた『宝』だと言っていたではないですか!?」
「いいだ、もう全て俺の頭に入っている。錬金術、鍛造技術、熱処理術、魔族・魔物図鑑、他にも鍛冶士に必要だと思ったものを集めた! それにお前の好きな宝剣伝説の神書もあるから、好き読め! 最後に言っておくが魔武器を造ることは止めんよ! 刀鍛冶こそ俺の生き甲斐、いつかお前の魔剣を越えてみせるさ!!」後ろ向いたまま振り向かずガルシアは右手を高く上げ工房を出て行った。
デルフにはその後ろ姿が巨人族よりも大きく見えた。
デルフは遠ざかるガルシアに聞こえるように全力で叫ぶ。『師・ガルシア!!ありがとうございました!!!』




