第八話 混乱する周辺諸国(2)
~貿易と産業の国フィルムバーグ共和国、冒険者組合本部~
バタン!!「冒険者組合総括長、しっ、失礼します!!」とても慌てた様子で冒険者組合の幹部の男がギルドマスターの部屋にノックもしないで入って来た。
「あら、そんなに慌ててどうしたのかしら?」そこには筋骨粒々な坊主頭の大男が赤子の頭一つ覆うことの出来そうなたくましい手で顔面に白塗りの化粧をべっとりと塗りたくっている最中だった。
「ハッ!ハイ!グランゼール領のシンクの森周辺を探索していた冒険者より報告が入りました! オーク、オーガ、トロールの軍隊が暗黒大陸へ戻って行くのを確認し、空を凄い速さで上位の悪魔が飛んで行ったとも言っておりました! 信じがたい話ですがグランゼール皇国は跡形無く黒き炎が燃える巨大な穴になっていたとのことであります!」
「まさか!?グランゼールが魔王軍に落とされた! それは置いといて貴方ノックもしないで私の部屋に入って来るなんていい度胸じゃ・な・い? ふぅぬぅ~」
顔面白塗りの大男はぬくっと椅子から立ち上がり、報告に来た冒険者幹部にゆっくりと近づいて尻をグッと握った。
「!?ひぃやふっ」冒険者はあまりの恐怖に変な声を上げる。
「止めんか!カンザス!!『激昂のカンザス』と恐れられる者がまさかオカマとは嘆かわしや━━」カンザスと呼ばれた大男の腰ほどの身長の老人が部屋に入って来るなり、見てわおれぬという素振りで怒鳴る。
「おい!!ジジイ今何て言ったーーー! そのヨボヨボの体、雑巾みたいに絞ってバケツの中に詰めたろかぁ!!」
「やってみろ珍獣!、ほれ!このような老人いたぶって楽しめるのなら!」
「ふん、もういいわよ!!! 口ではそんな事言ってジジイの目は返り討ちするき満々じゃない。 わざと人を怒らして毎回年寄りの暇潰しに付き合わすのホント止めてくれないかしら! ウラジール相談役」 急に入ってギルドマスターのカンザスと喧嘩を始めた老人は冒険者組合のヘッドだった。
「なんじゃ、からかっておったことを知っておったか!フォフォフォー ━━━しかし、このグランゼールの一件これは見て見ぬふりは出来れん事態じゃ! グランゼール支部を拠点としていたと思われる冒険者の人数はざっと二百は越えるだろうその中でもAランクは十数名、そしてSランクのウィルザードとローレリアの二人がいて止めれんかったとなると……」
「何によ!急に真剣な顔になっちゃて、私、正直言うと勇者パーティー嫌いだったから居なくなって清々するわ! 特にあの子よローレリア、グランゼールの皇女なのに無理矢理に親のコネを使って冒険者になって、自分の身分は隠すようにとか命令しちゃってホント面倒事を抱えるこっちの身にもなれって感じ、ホントにね……」
「何を抜かしとる!彼らが本部を訪れる度に躍起になってちょっかいをかけていたのは何処のどいつじゃか!」
「それ以上言うなジジイ!!、わかっている、わかっていのよ!でも、そうでも言わないとオレの加護を抑えられそうにない、の、よ!」
すると、カンザスは隣にあった自分の銅像を殴る。ズトーンと強烈な爆発音と共に銅像はバラバラに砕けて台座はカンザス達のいる最上階の五階から一階の受付場まで落ちていった。
カンザスはウラジールと冒険者幹部の方を見る、その目は真紅に染まり額には2つのコブがあるように見えた。
「ひぃいい~ 激昂の狂戦士」と呟き、冒険者幹部は気絶した。
「すまんかった!今ここでお前が本気で暴れては、流石にワシでも手がつけれんわ。」
すると、カンザスの目がスッーと元の薄茶い目の色に戻っていった。
「グランゼールの件はすぐに広がるわ。これから、各国から魔王軍を警戒しての衛兵や傭兵の依頼が殺到するでしょう。今まで通りやっていては冒険者の人数が足りなくなると思うの。 衛兵、傭兵の依頼は緊急性の高い国の依頼だけを受け、人数と冒険者のランクに規制付けましょう。」
「ワシもその案に賛成じゃ、スライム狩りやゴブリン・オーク退治、シンクの森の魔獣討伐など怠れば必ず、被害者が出てくるであろう。 それではワシも動くとするか!」
「頼むわよ、ヘッド・ウラジール。 私も行く所があるわ。(お願いだから生きていて!)」
* * * *
~グランゼール領土、インデンバル侯国~
ベスター・リングス侯爵は生き延びたグランゼール王から兵をローソン砦に寄越せという書状と衛兵を増やせというナリス法皇からの書状を見つめ頭を抱える。
「一体、どうしたものか……」
リングス家は代々その武運に恵まれ小国インデンバルを任されている。 ベスターの子供には二人の姉妹がいる、ベスターの長女ソリューシャも今ではグランゼ王直属の親衛騎士団長にまで上り詰め、次女も王国騎士団で所属している。ベスターも魔王軍との戦いで魔軍将と戦い生き残った英雄である。
その英雄たる彼が悲痛な顔で悩み混む、それは彼が神への信仰心がとても熱く、いかに自国を治めるグランゼールの王からの勅命であったとして、ナリス法皇から直々に書状が届いたとなれば彼にはそれを天秤に掛けることが出来ないのだ。
「もし、リーディア法国とローソン砦の両方に兵を送ったとして我がインデンバルを守れるのだろうか? いや!無理だ!ここは暗黒大陸にも近く、暗黒大陸から出て来た魔族や魔獣の確認も多い…… 冒険者組合を頼る他ないか━━」




