第七話 混乱する周辺諸国(1)
~新ドラクヘルゼ王国、旧ヘルゼドルグ皇国~
「何に!?グランゼールが消えた!だと!!」
「ハッ、詳しい情報は入ってはおりませんが、魔王軍進軍の確認がありました。 グランゼール皇国全域が今はすでに巨大な穴と化しているとの報告です!」
「一国を……あの国の敷地は我が国の何倍あると思っている!!一国をあのグランゼールを消し飛ばすことなど上位の魔族であろとあり得ん!そうか、魔王か!?しかし、ヤツがそんな力を持っていたとしたら何故今まで『それ』を使わなかった……」
ドラクヘルゼ国王アーロン・フェアファンクスはグランゼールを壊滅させたその偉業を魔王によるモノと決めた。
「魔王が今まで使わなかったと思われる『力』、そう何度使える分けではないとよむ。厳戒態勢を取れ我が領土に魔王軍が一歩でも足を踏み入れた場合に備える。ワイバーンの数を増やし兵を鍛えよ。 ワシは上位の竜種を狩りに行く!!」
そう、このドラクヘルゼ新国は現王アーロンが手にした宝剣によりワイバーンを手懐け、前代未聞の竜騎士団を編成し、旧王フレイザー・G・ヘルゼドルグに反逆して玉座を奪い取った独立国家なのだ。
アーロン王が持つとされる宝剣は神書という世界の成り立ちが描かれた神話に記される伝説の六大宝剣、悪魔、竜、精霊、巨人、死霊、獣を滅するも従えるも意のままになる宝剣、その一振り『覇竜の剣ドラゴンイーター』を所有する。
「魔王……危惧はしていた他の五本もあるはずと、おそらく伝説の宝剣の一振りを所有したに違いない!!光浄の巫女に竜殺し、それに加え、勇者などと呼ばれる傭兵まで出て来ては迂闊に手出し出来んかったが、それでもグランゼールはいずれ潰すつもりであった、この伝説の剣があれば魔王軍など取るに足らない、決してこのワシに敗北はないわ!」
* * * *
~リーディア法国~
「あり得ん……グランゼールの一件は耳にしたか?ファルマン枢機卿よ。」
「はい、あの大都市が跡形も無く消えたと……」ファルマン枢機卿が答える。
「神の御業━━」
「ナリス猊下!それ以上はなりません!!先の一件は魔王軍の仕業との噂、信仰の対象、象徴である法皇の貴方様が魔族を誉めるなど信徒達の耳に入ればこの国は終わりですぞ!!」グンゼ枢機卿が物凄く目に青筋を立てて異を唱える。
「すっ、すまぬグンゼ枢機卿……しかし、どうしたものか? 魔王軍の何者がどの様な方法でグランゼールを滅ぼしたか解らぬ以上対策の使用もない……古代魔法か━━」
「一体、こんな時にリーム枢機卿とドーナツ枢機卿は何処へ行ったのか。」ナリス法皇はその場にいない2人の枢機卿の名を呟く。
「ナリス猊下、最悪の場合は先代が封印したとされる禁術を━━」ファルマンが案を出す。
「遺憾!!あれだけはもう二度とこの世に出してはならんのだ!」温厚な法皇が何かを恐れ激怒する。禁術が何んなのか法皇のみが代々その真実を伝えられ、現法皇ナリス・フラカウ・パサード6世に受け継がれる。
「グンラゼールの光浄の巫女ユリア様がおられれば……一体、何が起ころうとしている。」
ナリス法皇にも神の使者と思わずに入られなかった、光浄の巫女ユリアが既に、この世にいないことはグランゼール王を含め両手で数えるだけしかいない。
「こうなれば最早、聖騎士団を編成するしかあるまい! インデンバル侯国にも衛兵を増やして貰えるよう、私から書状を送ろう。」
「何と!聖騎士団ですと、ではあのイーデン・エアハートをこの国に呼び戻すと! 彼は狂っている!だから聖騎士を廃止なされた筈!!!」
グンゼ枢機卿が椅子から立ち上がり叫ぶ。
「致し方あるまい……」
リーディア法国は国法により、兵を持たないことになっているその為、法国の教えを求め信仰する近隣各国から衛兵を派遣してもらい国の秩序を保っている。そしてそれは表向きの話であり、
聖騎士団と言えば聞こえは良いが、ようは神の名のもと動く暗殺部隊のことだ。
決して世に知られる訳にはいけない、万人が教えを求め、平和を主張する中立国の影が動き出す━━━




