第六話 グランゼール皇国跡地
魔王軍が引いた後、転送魔法でその場に現れた者達がいた。
「何ということだ……」綺羅びやかな服を着て絢爛豪華な金の刺繍を施したマントが靡くその男は頭に被る冠を外し胸に押さえ付け言葉を漏らす。
その者、グランゼール皇国が現王ファフニール・フォン・グランゼ。ふっと、我に返ったよう騒ぐ王。
「ローレリア!我が娘は何処にいる!?」
側近の家臣二人と、ここに転送魔法でこの者達を運んで来たであろう、ローブを着ていて男か女か性別のつかない老人が三人はその問いに答えず黙り混むと、王直属の親衛騎士団長である純白の鎧を着た女騎士が前に出て答えた。
「ローレリア殿下は先の魔王軍との戦いに参戦していた模様、現在は安否確認が出来ず!捜索は困難かと。」その声は時より震えていた。
「ローレリア、そんな……どう、して!?」
泣き崩れる清楚な女性、彼女こそフィオレンティーナ・フォン・グランゼ王妃。
「何故だ!私が愚かだった勇者などあんなならず者に娘を預けたことがやはり間違っていた、ローレリアどうしても…どうしても世界が見たいと懇願した際、否応なしに止めるべきであった!!
それもこれもお前達だ何が聡慧三賢人だ!何が『大いなる神の剣』だ!あんなもを信じたせいでローレリアは……」
聡慧三賢人と呼ばれる老人達は物言わず、その場に平伏す。
「しん、せい、けん!?神聖剣はどうした!!まさかガネルも……」
女騎士団長が答える。
「神聖剣も勇者ウィルザードと共に消息不明、キルガーロン閣下も同様かと」
「勇者などどうでもよいわ!!我が国は終わりだ……我が国の誇り最強の騎士ガネルに神に信仰深き枢機卿達、ましては湖をも聖水に変えるという『光浄の巫女ユリア・ユーフォルテス』を生け贄にした我が国の最強兵器をも失うとは……」
「何を仰いますか!国王陛下が生きていることが重要なのです!! 陛下の居られる所こそグランゼール皇国なのです━━」側近の一人、ロズワールが食い気味に叫ぶ。
「その通りです陛下、このまま西の国境ローソン砦へ向かいましょう!そこで体制を整え国家再建を!!」もう一人の側近グラマンが抜け駆けはさせぬと割り込む。
「これも神への信仰を汚した報いか……」
大切な家族、守るべき民、権力の支える武力それら全てを一瞬にして失った王には側近の声など届く筈もない、王はヨロヨロと未だ黒き炎が残る巨大な穴グランゼール皇国の跡に足を向ける。
「危ない!!その火に触れてはなりません!?」
王が親衛騎士団長の声に気が付き振り返ると、絢爛豪華なマントに黒き火が灯る、っとその瞬間神速の一閃が王からマントを切り離した。切り離したマントは数秒も経たずにその影は無くなる判断が一歩一秒遅れていれば王はグランゼールはこの世から消えていたであろう。
「陛下に剣向けたことをお許し下さい!恐れながら陛下、グラマン大臣の言う通りローソンに向かい、同盟各国との今後の魔王軍への対応と対策を考えるのが得策かと、陛下にはまだグランゼール領土周辺の町や村に民が居ます!今、王が居なくなればその者達がどうなるか目に見えていることでしょう。」
王は未だ泣き崩れる王妃と側近の大臣を見てから数分うつむき、答えを出す。
「余はこれからローソンへ向かう!だが決して余があの忌々しい魔王への復讐を諦めることは無い!!付いて参れ!ソリューシャよフィオを頼む。」
「ハッ!!」親衛騎士長ソリューシャ・リングスは右手を胸に当て敬礼した。
『一国を丸飲みして灰塵と化した巨大な穴、その穴には今も魔素が溢れて炎が燃え続ける。人々はグランゼール皇国の跡地を『地獄の穴』と呼ぶようになる。』




