第五十六話 冒険そして
デルフは始まりの場合へ訪れていた。大地に大きく空いた穴の底では、赤黒い火の粉が風で舞い上がっている。
デルフは穴を見つめ深くため息をつく。
「ヴォルガディス、君の事を思うと今もこの胸が痛むよ。」
『何落ち込んでるのよッ、デルフ!大気の揺れを感じる、後方から誰か来るわ。これは馬、でも魔素を感じ無い……恐らくは人間、敵よ!逃げなさい!!』
「いや……もう無理みたいだよ。シルフィード、囲まれてる!どうしよう!!」
4人の騎士が、地獄の穴を背にするデルフを取り囲む。
「何だ、魔力探知装置に反応があったから来てみれば、フッ小悪魔がたった一匹か。 お前達!奴を捕らえろ、アーキナイト商会が小悪魔を集めているらしい、かなり良い金になると聞く売っ払うぞッ!」
「ハッ!ビィムゥン騎士長に続けぇ!!」
馬から降りた騎士達が、剣を抜きデルフに襲いかかる。
「アレは……そんな……何でその刀を人間が持っているんだ!!それはゴブリンさんの刀だ!!違うか?シルフィード!!」
『えっ?ええ、確かに……アレは私の兄妹よ。』
「は?何だ、この剣を知ってるのか?ああ、これは此処で何かを拾っていたゴブリンから奪った代物だ!」
騎士長と呼ばれる男はデルフに握る刀を見せつける。
「酷い、酷いぞ……オマエの使い方は酷過ぎるッ、ゴブリンさん達なら、毎日手入れをして刀身を錆びさせる事などしない!ゴブリンさん達なら、刃こぼれしたのならすぐに研ぎ直しに来てくれる!!その刀を持っていたゴブリンさんなら、今オマエの握るその刀はそんな顔をしていない!!!」
紫煙がデルフを包み込み、その姿が変わって行く。
「化けていたのか?インキュバスのスキルか……しかしだ!どんな姿になろうが相手は中位の悪魔だ! ソリューシャ殿を待たなくても、俺達で対処可能だろう?パッセッどうだ?」
「ええ、敵は一匹こっちはビィムゥン騎士長、貴方が率いる上級騎士が3人、中位の悪魔に四対一ならばおつりが出ます。」
「その通り!!リングス様に鍛え上げられた、私が居るのだッ!決してソリューシャ殿の手を煩わせる事などあってはならない!! ソリューシャ殿が到着される前に我々で捕縛するぞ!」
ビィムゥンの問いに答えたパッセッの言葉に他の騎士達の頷き賛同する。
『やった!デルフの怒りが進化を促したわ!これなら凌げる筈よ。 デルフ、私を使いなさい!今のアナタなら私を振るうことが出来る筈。』
デルフは無言でシルフィードを構える。
「ほう、それは魔剣だな。ゴブリンが持っていた形状と同じ形の剣か?お前ら気を付けろ!アレは相当な業物だ。」
デルフは警戒する騎士達の目の前を一線、刀身で撫でる。
「ぐぅっ!?」
すると、シルフィードを持つデルフの手に細かい傷が無数に入る。
「何だコイツ?、ハァ!騎士長、コイツは魔剣もろくに使え無い雑魚ですよ! その腕一本頂くぅがぁはっつつ!?」
デルフの手が裂けたスキを突こうと斬り込んだ騎士の一人が目前で吹き飛んだ。
「何だ!? バカが魔剣と言っただろうがッ何らか呪詛だろう。お前達、ヤツが剣を振った辺りを避けて攻撃をしろ!」
次の騎士がデルフに向かってくる。
「いっ、痛い……」デルフは傷付いた手の痛みを抑えながらシルフィードを強く握る。
『デルフ後ろに回った騎士が動いたわ!左に体勢を傾けて私を強く後方へ振りなさいッ!』
デルフはシルフィードの言う通りに左に身体を倒すとデルフの肩を狙った騎士の剣は空を斬り、あとはデルフはシルフィードを刀身を返し後方へ振り抜く筈だったが直前でピタッと刀身が止まる。
シルフィードを止めた際に起こった風圧で騎士は吹き跳ぶが致命傷には至らず、直ぐに立ち上がった。
しかし、デルフの方はシルフィードを振るった反動で手に傷が増え紫色の血がぽたぽたと地面に滴っていた。
『ちょっと!私がお膳立てして上げたっていうのに何で留め刺さないのよ!!』
「い、いや、だってアイツら斬ったら君が汚れちゃうじゃないか?」
『えっ、私の事を想って━━━━』
「そうだよ、刀剣にとって血っていうのは油汚れよりも厄介な汚れ何だ!ちゃんと手入れ出来る道具が無い今、君に血が付く事は絶対にダメだ!」
「何だ!コイツは!何を言ってやがる……」
騎士達は明らかに、デルフの持つ魔剣を警戒している。一人目の騎士の鎧を裂き深傷を負わせ、二人目の騎士は立ちはしたものの青褪めて脚を震わせている。その魔剣の切れ味と威力に。
「あっ!そうか!そうだ!そうだったんだ!ボクはただ剣を美しい武器達を傷つけたく無かったんだ!!」
『えっ?はっ?そっそういうことなの……はっははー、デルフのバカッ! あっ!てっ、次が来るわよ!?後ろへ飛びなさいッ!』
「ワァッ!?」
「糞ッ!またかわされた!!何なんだコイツ、ぶつぶつ喋ってて気持ち悪い。」
「ちょこまかとしやがって、逃げ場を与えるな!挟み撃ちにするぞ!」
騎士長とその部下に挟まれジリジリと距離を詰められるデルフ、その時強烈な突風と共に女性を声がその場に轟く。
「何を遊んでいるッ!この馬鹿者共がッ!!!」
金色の髪が靡き、純白の鎧が日差しを浴び照り返すと、瞬く間にデルフを地面に抑え付け身動きを封じた。
「綺麗だ……」デルフは自分を押さえ付け、今にも眉間に聖剣を突き刺そとしている女にキラキラと目をやり呟く。
「はっ!? なっ、いきなり何を言う!」
『えぇ!? うっ、浮気だわ!浮気者!』
「あがっ!?いや、違うよシルフィード! 貴女はとても良い人だ。だってホラ、綺麗に手入れされています。その聖剣……とても大事に扱われて、この子もきっと喜んでいますよ。」
『悪魔のくせに中々に良い眼を持っているではないかッ!だがしかし、この子呼ばわりは止めて頂きたいッ!我が名はウェントゥス、主が15の誕生月に父君より贈られた『風来の聖剣』以後、お見知り置きをッ!』
「そうですか、ウェントゥスさんはお父さんからのプレゼント何ですね?」
『なによ、コイツ。うっさいオッサンね。刀身がキンキンするわ!』
「なっ!?この聖剣名を何故、お前が知っている!」
『頭がッ高ぁあ~い!!我が主はあの暗黒大地に沿う辺境の地にて、その武功と交易で名を轟かせたインデルバル侯国の領主ベスター・リングス、その誇り高きリングス家の御息女ソリューシャ・リングス様にあらせられるぞッ!』
「えっ!?お父さんはあのインデルバル領主様何ですか、それは申し訳ない事をしました僕のせいで、ぐはっあがっ!?」
ソリューシャは刀身反らしながら、肘でデルフの喉ヲ潰す。
『ちょっと、なによ!この女、デルフから離れなさいよ!』
「いっ、一体どう言うことだ!何故、悪魔が私の素性を知っている!いや待てそれよりも今、僕のせいと言ったのか!!」
『おい、そこの小娘ッ!高貴なる我が主に、この女とは何事かッ!!』
『うっさいわよッ!ジジイのバーカバーカ。』
ソリューシャは剣をしまい、袋に手を入れるとデルフの目の前に赤黒い小さな金属片を見せる。
「コレはここを彷徨いていたゴブリンから回収したモノだ!コレが何か、お前にわかるか?」
『あっがっ、これは、ぼくっがづくったものでず。』
「何だと……ビィムゥン!この悪魔を拘束し連れ帰る。そこに転がっている負傷した馬鹿者はお前の部下二人に任せて着いて来い!」
「ハッ!お前達ッ!!聞いていたな!直ぐに動けッ縄を貸すのだッ!」
デルフはシルフィードを取り上げられた後、拘束されローソン砦へと向かう事となった。




