第五十四話 水晶の崩壊
検索除外を適用しましたが、話はまだまだ続きます。
これで今も読んで下さいっている読者の方だけになると思うので、ちょっとホッとしています。
コロナ渦によりゲームの数を増やした事と家事手伝いが倍増したので、4ヶ月~半年に一話書ければ、良い方かなっと思いますm(__)m
━━━━北の大陸、ルークリスタ領━━━━
オーバーケイルを抜けた先に広がる白銀の世界、月明かりを遮る様に降る雪の中、幼き姿をした吸血鬼が口を開く。
「それで爺、供物は集められたの?」
「ガルディオン様との話の後、早急に対応しました。現在、悪魔貴族の獣様、昆虫様、武術様……いや、失礼致しました。今はカトル様、フィーア様、スゥー様の三名が集めている最中かと、屠るのは容易くとも魔素が抜けぬ様に500体生かしたままで集めるとなると、お時間がかかるかと、他にも注文されていた件もありますので、少々お待ち下さい。」
「そう……退屈ね……ルドルフ、私はこれからちょっと遊んで来るわ。」
「私は今までと変わらず爺とお呼び頂きたく思いますが、いえ、お嬢様がそう呼ばれると決められたのでは仕方ありませんな……それで魔銃はお預かりしますか?」
「そうね……そうするわ。 もうすぐ彼女に逢えると思うと、無性に身体が疼くわ。 ルドルフ、お前に水晶には少しキツイでしょうから、付いて来なくていいそこであの子達の帰りを待っていなさい。」
「はっ、畏まりましたお嬢様。 お気を付けて行ってらっしゃいませ。」
「で、貴方はどうしてついて来たのかしら?」
「分かりきった事を聞くな当然デルフの作った魔銃がどれ程のモノか見る為だ。」
ガルディオンは腕を組みヴァンパイアロード達の少し後ろで佇んでいる。
「そう、であれば貴方も魔素を集めに行ってはどう?」
「冗談だろう?配下である貴様の指示は受けん。」
「まだ、配下になってはいないのだけど……いいわ、邪魔したら殺すわよ。」
「ああ、好きにしろ……」
ガルディオンが呟くと、もう其処にはヴァンパイアロードの姿はなかった。
━━━━オーバーケイルの森と北の大陸の境界━━━━
「ボクの『黒い森の子供達』が平原で狩って来た魔獣が一番多いね!!」
黒犬の死霊の群れがオーバーケイルを駆け抜ける中、一際大きい魔犬死霊を少女が乗りこなしている。
彼女はヴァンディダラムでは獣と呼ばれヴァンパイアロードが付けた名前は『カトル』、魔獣達を死霊にして操る吸血鬼、数百匹の黒犬の口には中小動物系の魔獣が咥えられている。
「何を言っていますの私の可愛い『ミストレア・ナンシー』ちゃんが包み込んだ魔獣の方が多いですのよ!」
霜が降りている黒い木々を器用に掻い潜りながら進む巨大な蜘蛛に乗るのもまた少女の姿をしている。
その周りには拳だいの大きさの巨大蜂の死霊が飛び回る。
彼女はヴァンディダラムでは昆虫と呼ばれ、ヴァンパイアロードが付けた名前は『フィーア』、蜘蛛の尻から垂れ流した糸には無数の魔獣が絡め捕られている。
ペットの巨大蜘蛛だがナンシーと呼ぶ様になったのは、つい最近の話でヴァンパイアロードに名を貰ってかららしい、通常は貴婦人と呼んでいた。
「いいや!ボクの子供達の方が多いね!!」
「いいえ、私のナンシーちゃんですわ!」
「フッ、数で争う等まだまだ子供だな!私の急所突きにて仮死状態となったギガントリヴァホース三匹!見よ!この鮮度そして大きさ!!、貴様ら蜘蛛や黒犬ような死霊共の粗雑な仕事では到底及ぶまい!」
馬鹿デカいカバでお手玉をする様にして走りながら運んでいるのはヴァンディダラムでは武術と呼ばれ、ヴァンパイアロードが付けた名前は『スゥー』彼女の姿は二人より若干身長が高い為、年上に見えるがそれは彼女達よりも魔素の量が少ないからだとされ、産まれた日とは関係が無い寧ろ最年少である。
純血のヴァンパイアの見た目は12歳~16歳程度で魔素の総量により幼く見える。
「はぁー、これだから脳筋は500匹集めて来る様に言い付けられたのですのよ?3匹とか有り得ませんわ! 10分で用意しろと言われてるのよ。」
「なっ!ギガントリヴァホースは魔素貯蔵庫と呼ばれていて一匹で獣が犬に噛ませ運んでいる雑魚100匹分にはなるだろう!」
「はぁ?馬鹿?魔素貯蔵庫と呼ばれているのは確かだけど、そのカバの何処に魔獣100匹の魔素があるワケ? 気配で解るでしょ? その感じだとあっても精々20匹強でしょ! あと!今はカトルだから、次獣って言ったら餌にすっからね!」
「はっ!確かに!!むっーこうしてはおれん! 暴拳術ッフン、『おおよそは卑劣な暴拳 』ぜやぁー!!!」
何かに気付いた様にザザッと立ち止まったスゥーはカバを三匹蹴り上げると、脅威的な脚力でそれを追う様に跳び跳ねる、カバ三匹が直線上に重なったタイミングで嵐の如く猛り狂う拳を繰り出し、ルークリスタの方向へカバをぶっ飛ばした。
彼女はそのまま反動の勢いを殺さず魔獣が多く生息するエリアに落ちて行った。
「何であのお馬鹿さんが魔素貯蔵庫何て知っていたのかしら?きっとアルヴァね……」「ああ、アルヴァの仕業だね……」
二人はスゥーにでたらめな情報を仕込んだのが、悪魔貴族の一柱であるアルヴァだと呟き、はぁー深くため息をついた。
━━━━━水晶要塞ルークリスタ街門━━━━
水晶で出来た都『ルークリスタ』、北で圧倒的な支配と栄華を極めた後、滅びたオルディルーエ帝国をそっくりそのまま型どったとされる帝国の意思を継ぐ最後の要塞都市。
その幻想的な都市の物見やぐらから見ていたい一人の門兵が異変に気を付く。
其処には赤い髪の少女が立っている。
確かに誰も此方へ向かって来る様子を見たものはいない。
しかし、雪がはらはらと舞い降る中、其処には紛れもなく少女が一人で佇んでいる門兵の背中に寒気が走る、「そこで何をしているのか?」不気味だが相手が少女ということもあり声色は優しい、いや絶対的なこの要塞によって守られているという安心感からの驕りだろう。
少女がフゥーっと軽く息を吐くと その場から消え、クリスタルの結晶が一つ砕け散る。
それは一瞬の出来事、門兵が瞬きをする一瞬、何が起こったのか理解出来ないまま、また次のクリスタルが砕ける。
「幼き赤い髪の……スカーレットヘル……」
そして、誰かが呟いた一言によって兵達の顔が引き締まり突如現れた敵への抗戦を開始する。
「これで4つ目ッ!あぁ、でも、もう終わりね。」
少女が4つ目のクリスタルを破壊したと同時に後ろへ下がる。
気付けば、砕けて雪の上に転がるクリスタルの破片が、神聖属性の神々しい光に放ちながら次々と浮上して行く。
それは、とても美しく煌めく光の粒の壁となり、少女へと猛攻を始めた。
「今日は4つか……久々にしてはまあまあね、でも、やっぱり5つまでが限界ね……ハァー、クゥーったら最後の最後でこんなにモノ出して来る何て、ホントに貴女は最強の勇者よ♪」
クリスタルの破片が飛び交う中、少女は顔色も変えずに全てのクリスタルを素手で打ち落としていく、その光景は何処か楽しそうにも見えた。
「ふぅ、準備運動はこんなものかしら? それでは服も汚れてしまったし彼女に会う為に正装でもしようかしら……」
何時しか、クリスタルの猛攻は途切れ、クリスタルは元の形へと復元しているが、もうそこにヴァンパイアロードの姿は無かった。
・
・
・
「さて、フォー、私の衣装は出来ているの?」
執事の元へ戻ったヴァンパイアロードの目線にいる少女は片手でスカートの裾を上げ一礼すると裾を下ろし、ルドルフへとその手を向ける。
そこには、赤いドレスを抱え立っている執事の姿が見て伺える。
「はっハイ、御姉様に御似合いの深紅のドレスでございます。 フィーアのミストレアから採った上質な魔絹を使用し、御姉様が庭園で育てた深紅花で染め上げ、全て私が手仕上げで仕立てました。動き易くとの事でしたので品が損なわれますがミモレ丈に致しました。 いっ、如何でしょうか?」
外見からはヴァンパイアロードと同い年から1才から2才、上に見える。
三頭身で幼児体型を意識した大きな頭の可愛らしいファッション・ドールを抱いている。
彼女はヴァンディダラムでは人形師、ロードからは『フォー』の名を貰った。 裁縫が得意で自室に篭りがち、ロードやイービレット達の衣装は全て彼女が繕っている。
「そう、悪く無いわね。爺さっそく着せて。」
ルドルフは直ぐにヴァンパイアロードの側へ行き、ボロボロになった黒いドレスをスッと脱がすと、新しい赤いドレスへと着替えさせた。
「あぁ、何と御美しい御姿! ついに殺戮の人形劇の再公演の時なのですね! 人形を作り直さないと! ん?何かしらアレ?」
フォーが、自分が仕立てたドレスを纏うヴァンパイアロードに見蕩れていると、遠い空より何かがこちらに降って来ている。
すると、魔法で気配を消していた別の少女が現れて言った。
「かくかくしかじかで、アレはスゥーが飛ばした魔物でし、スゥーは生まれながら、知能に深刻なダメージを負っているでし、スゥーの知能を補う為にわちゅがスゥーの脳とちて誘導した結果でしっ!」
「アルヴァったらまた、スゥーで遊んでいるのね……あの子をからかって何が楽しいのかしら?貴女もそう思うでしょ?ねっ、ベティー」っと、フォーは抱いている人形に話かけている。
「ふん、計算通りカトルとフィーアも戻って来たようでし!」
彼女は魔術と呼ばれ、ヴァンパイアロードからはアルヴァの名を貰った。趣味は魔法薬学の研究と創成魔法の試し撃ち、ちなみに一人称はわちゅ、オークが作るお菓子が大好き。
「でわ、いくでし!『闇よ収縮しろ』」
「えっ?」「はぁ?いっ!」
空に浮かんだ黒い渦にスゥーが飛ばしたカバや蜘蛛の糸に絡め捕られた魔獣や黒犬を吸い上げ行く。
「ナンシーちゃん!!早く糸を切り離しなさない!!」
「子供達!?咥えた獲物を置いて、後方へ退避!!クソォ!マギアァアアア!!!ボクッの子供達が何匹がテメェの魔法に飲み込まれだぞ!!」
「気にするなでし、おみゃの判断ミスでし、諦めてまた集めろでしっ!『闇を全てを覆え』」
吸い込まれた魔獣達を闇が包み込んで行く。
「擂り潰しぇ『闇よ概念を砕け』」
闇が蠢き獣の骨だけが吐き出される。
「仕上げでしっ!『混ざり合い闇よ深まれ』」
不気味に蠢いていた大きな闇の塊が圧縮して10cm程の球体になってフワフワ浮かんでいる。
「用意は出来たでしよ!お姉しゃま♪ささ、どうぞその魔銃とやらをお使いくだしゃい。」
「纏めてくれてありがとう、アルヴァ」
ヴァンパイアロードは執事からガンデスベルグを受け取り、闇の球体に黄金の弾丸を撃ち込んだ。
『魔装填・血の弾丸』
そう、ヴァンパイアロードが呟くと、撃ち抜かれた球体が赤黒く輝き『魔銃ガンデスベルグ』のシリンダーの弾倉に吸い込まれて行った。
「ふふふっ、上手くいくといいのだけれども、そうね名前は……『降り注ぎしは紅き流星』!!!」
直ぐに天に向けて掲げられたガンデスベルグから放たれた、赤い閃光は正確に七つの水晶結界に当たり、木っ端微塵に吹き飛ばした。
クリスタルに着弾した血の弾丸は箇所にこびりつき凝固し、再生しようと動き出すクリスタルの破片を阻んでいる。
ヴァンパイアロードは何時しかまたルークリスタの前に来ている。
「そう、これがガンデスベルグの呪詛……再生を阻害する呪いの銃、フフフッ、これではさしもの水晶結界でさえ、元に戻る事はないわね。」
彼女はゆっくりと歩きながら、吹き飛ばしたクリスタルを観察している。
(これは、オーバーキル何てモノじゃあ無いわね、本当に……デルフ、貴方は何を作ったのか、わかっているのかしら?)
「止まれ!!」っと叫んだのは、神聖属性の力が込められた水晶の装備で身を固めたルークリスタの騎士達、晶輝騎士団と呼ばれる者達だ。
「それに貴方達が触れているだけで身の毛がよだつわ!『血霧の弾幕』」
一瞬で赤い閃光に貫かれた騎士達が崩れ落ちる。
「早く!リペアをかけろ!!ソーサラー共は何をしている!」
「きっ!傷口に何やら金属の様な物が引っ付いていて、傷が塞がらないのです!?」
「なんだ、何でこんな、うっうわぁああああ」身体に風穴の空いた騎士が急に叫びを上げる。
『魔装填・血の弾丸』
その言葉で撃ち抜かれた騎士達から血が抜かれ、シリンダーの弾倉に吸い込まれて行った。
「そう、足りない魔素は私から吸われるわけね……ん?ちっ、逃げたのね『リノウスーテラ』の小娘が……何故この国はクゥーをその座に置かなかったのかしら?まあ、だから今、終わりを迎えるのだけど……」
クリスタルの塔の最上階に辿り着いたヴァンパイアロードは、そこで長年再会を待ちわびた旧友を目にする。
「ああ、やっと逢えた、私が滅ぼした。 オルディルーエ帝国第三王女にして、私の愛しい真の勇者、今はここルークリスタの女神とでも言うわけ? 『クゥー・ファビウス・オルディス・オルディラント』クリスタルの中に閉じ籠っていては勇者の名が泣くわよ。 そうでしょ、クゥー?」
「馬鹿め!吸血鬼風情がケイセルケルクに踏み込み徒では済む筈があるまい。刺し違えても此処で貴様は我々、『神聖潔・七晶師』が滅ぼしてくれる!」
現れたのは、七人のソーサラーその手には水晶で出来たロッドを携える。
「馬鹿なのは貴様らだ!御嬢様が愛する殿下を幽閉し弄んだ罪は永劫の地獄の中で罰せられる。」
ヴァンパイアロードの影から、現れたのはいつもの雰囲気とは違うルドルフの姿、その憤怒に満ちた表情は悪魔その者。
「そうね、ルドルフありがとう……でも、余り外に出ていると貴方消えてしまうわよ。」
「御嬢様を長年苦しめた奴らが赦す事が出来ず申し訳ありません。 ですがやはり、ルドルフはお辞め下さい、これまで通り爺で構いませんぬ。ここでその名を呼ばれると、どうしても昔を思い出してなりませんゆえ。」
「ルドルフ……まさか!ルドルフ・ブルーノーツか!!勇者の右腕が嘆かわしや不老不死に眼が眩んだか!!!」
たじろいだ七人の一人が叫んだ。
「いやはや、右腕を名乗った事は無いのだが老兵であった私を側に置いて下さった殿下の為にも、彼らの始末は私にお任せ下さい、御嬢様。」
「確かに私が此処でそいつらを殺れば、塔に傷が付いてしまうかもしれないわね……残念ね……じゃあ私はクゥーを解放するわ。 爺、その間にゴミを片付けておきなさい。」
爺と呼ばれた瞬間ルドルフの顔が明るくなり、軽くお辞儀をすると身体が靄の様になった。すると、同時に断末魔の叫びがその場を包みこむ。
「さあ、薄汚れた魔素を注ぎ込まれて貴女も、さぞ苦しかったでしょう……やっと助けて上げられる。 これからはずっと一緒よ……」
クリスタルに包まれた『水晶の勇者』の前に立ち、ヴァンパイアロードはちょんとクリスタルに手を翳す、その手は高位の神聖属性に焼かれるが、徐々に赤い魔素がクリスタルを浸食してルークリスタ全体が間もなく深紅の帝国へと姿を変えた。
一人、また一人と悪魔貴族達が塔の最上階に集う、そして、魔王ガルディオンも現れた所でヴァンパイアロードが水晶の勇者を背にし、話し出す。
「これより、私は魔王軍の軍門に下り以前からの目標を達成する! さぁ、席代の悪魔貴族達よ! 新しく、構えたこの『復讐の館』ならぬ『復讐の城』で神へ反旗を翻す!!」
「おっ、おい!?何故勝手にお前が決めているのだ!そうだな……まず、お前に名を与えて……ラプラシアンに……」
「はぁ?デルフならともかく、貴方の付ける名前何てダサくて名乗れる筈無いじゃないの?」
「そうね、私は今から神を意味する『ル』と東方で呪いを意味する『ジュ』を繋げ、神を呪う者『ルージュ』と名乗る!私の名は吸血卿ルージュよ!」
「おっ、おい!? 勝手に話を進めるな!!」
(笑っている? あのスカーレットヘルが……いや、今はヴァンパイアロード・ルージュか。 幸福を振りまく者か……間違いではなかったな、デルフ!!)




