第五話 苦悩と軋轢
魔王の放った剣戟は魔王軍にも魔素の波動として伝わる。
殆どの者はその場から血相をかいて逃げ出そうとする。 そのあまりにも強く濃い魔素にゴブリンやオークは泡を吹いて倒れる者も出始めた。トロール達は立ったまま気を失う。
「気を失うとは何て様だ!」トロールキングが叫ぶ!
「何という力!やはり御御方は最強にしてこの世を統べる至高の存在!!」ゴブリンキングが叫ぶと、他のキング達も固唾を呑み頷く。
そんな混乱の中、意識が飛びそうな波動に耐え、ただ呆然と立ち尽くす一匹の小悪魔がいた。
「折れた……」
小悪魔の頭にはバルザークとの誓い、そして師であるガルシアと試行錯誤して作り上げ2人で跳ね上がり喜びあった、経緯が走馬灯のように繰り返し流れる。
そこに魔王が物凄い速度で何かを叫び、こちらに向かってくる。
「デルフ!、デルフは何処にいる!!」
「まっ、魔王様僭越ながら今ここに集まる魔王軍の中にネームドの方はみえないかと……」あの光景を目にしたからかオークキングが恐る恐る答える。
「いや、付いて来ていた筈だ!一匹だけ小悪魔が何処にいる!!」 それを聞きキング達は唖然とする。
かろうじて意識のあるオークやゴブリン達は小悪魔の方向を向いて道を開ける。
「そこにいたか!デルフ!!」魔王は小悪魔に近付こうするが、そこにゴブリンキングが立ちはだかる。
「おっ!お待ち下さい魔王様!!小悪魔に名をお与えになられたとは誠でありますか!」魔王は立ち止まり黙る。
「何故、何故ゴブリンと同じ下位の中の下位である小悪魔に……いや!この私!他の者よりも強い魔素の元に生まれたボブゴブリンの私よりも先に小悪魔などに名をお与えになられた!!」
「などに、だ、と!?邪魔だ退け!!」
魔王は立ちはだかったゴブリンキングの首を跳ねた、その光景にキングの支配下であったゴブリン達はその場から逃げることを忘れ、顔は青ざめ泣き崩れる。
首を跳ねられたゴブリンキングは過去を思い返す。
(何故、生まれた時からどのゴブリンよりも優れ若くしてゴブリンの長と成り、食べることしか頭にないオークや、すぐに頭に血が昇るオーガ、常に呆けているトロールに決して負けることの無い魔素を持って生まれた私が何故、首を跳ねられた!! ゴブリンで初めてネームドになる夢が、あの御方の御側で指揮をとる夢が何故あんな小悪魔ごときに……)首だけになったゴブリンキングの頬に涙が伝う。
「皆もコイツと同じ考えであろう!!よく聞けい!そこの小悪魔こそ先の戦いで俺が振るった魔刀造りし者、今をもってネームドを名乗ることをこの俺が許した! 何か言いたい者がいればコイツと同じように前に出ろ!!」
(ネームドとは名前持ち表し、魔王から魔軍将またはそれと同様の位が与えられたことを意味している。)
「あっ、あの者が……」他のキング達も同じ考えなのだろう。ゴブリンキングをチラ見して、苦虫を噛んだような顔をして魔王に皆が平伏する。
他のオーガやオーク、ゴブリンは信じられないと言った様子でひそひそと話あっている。そんなことは気にせず魔王は小悪魔のデルフに近づき話しかける。
「おい、デルフ!聞こえていないのか!小悪魔お前ことだ!」
デルフは今まで感じたことの無い感情に苛まれ、何も耳には入らないようでずっと遠くを見つめ呆然と立ち尽くす。
「この俺を無視するか!!おい、デルフ!どうしてこのヴォルガディスは砕けた?これは直すことが可能なのか?(何で折れるんだよ!もうこの一国を丸飲みした斬戟の名前を考えようとしてたのに、ヴォルガスラッシュとかヴォルガバーストとか……)」
魔王はぼーっと呆けているデルフを揺すり、折れた魔刀の破片を差し出し問いただす。
「!?、うっうわぁぁー」
デルフは折れた魔刀に気が付きその瞬間に耳を塞ぎうずくまる。
「どうした!?」魔王は何もしていない。
「こっ声が、武器の声が聞こえるんです。」
「武器の声を聞くだったか? そんなことどうでもいい!どうして折れた理由はわかるか?直せるか?」
デルフは怯えながら少しずつ耳から手を外し、問いに答えた。
「ヴォルガディスは上位赤竜種ヴォルガード様の肺や逆鱗を軸に翡翠晶で吸収力を最大限に高めて魔王様の得意とする魔法属性である火に特化して作りました。 しかしそれでも尚、強すぎる魔王様の魔素を上手く魔刀自体が循環することが出来ず暴発したのでは無いかと、もう同じ魔武器ヴォルガディスを作ることは出来ませんが、ヴォルガディスの破片から使える素材を集めて魔王様の一番不得意な魔法属性を軸に特化させて作れば、折れることを抑えられるかと思います……」
魔王は考え込み、ふっと顔を上げ答える。
「俺の不得意とする属性は土だ! 帰ったらすぐに取りかかれガルシアの工房は今からお前の工房とする。 俺はこれから新たな魔軍将の編成をする。 3部族のキング達よ!各地に派遣していた生き残った魔軍将達に戻るように伝えよ。 そしてゴブリン共!ヴォルガディスの破片を一つ残らず集めてデルフの元へ持ち帰れ!」
魔王は指示を出すと物凄い速度で飛び去った!
小悪魔はこの後で皆の態度と噂を耳にして自分がネームドになったことに気が付いた。




