第四十九話 動き出した者達(1)
~フィルムバーグ共和国、連合加盟国エスティスの工場町ジュエリス~
「足場から足を踏み外し骨折、高速回転する砥石に指が接触して裂傷、そして今回は機械に指が挟まれ裂傷……今年に入って何度目だ!! 労災などという大事を何度も起こすとはとんだ体たらくだ!! オルテガ!お前一体何を見ていた。」
工場の応接室で身長130cm程のドワーフが怒鳴り散らす。
「申し訳ありません、ウォーカー組合長 まっ、まさかこのような小さな団体に組合長が自ら訪れるとは思わず、ほら!何をしてるお前も謝れ!」
40代位のチョビヒゲ髭を生やした工場長なる小肥りな人間の男に、頭を押さえられ人間の若者は涙を滲ませ謝る。 若者の指先は機械に挟まれ裂傷したらしく、治癒魔法で治療はしてあるが生々しい傷後が残っている。
「どの工場もどんなに小さな団体でもワシにとっては重要な拠点、何処で何がどのように作られているのか調べるのは当然であろう? そしてここジュエリスの町は魔石細工の町、w・w本部で働く魔石加工技師もジュエリス出身の者は多いからな! それよりも君は何年目だ?」
「はい?」
「君はこの仕事をして何年目だと聞いている?」
W・Wのギルドマスターであるウィリアム・ウォーカーは怪我をした若者に横に広がる白髭を生やした厳つい顔をグイっと近付ける。
「はっはい、二年目になります!」
「では、何故謝る! その様な傷を付けられ謝るなど悔しくはないか?もし、その指が千切れていた一生指が無いままだったかもしれないというのに、俺はいつも言っている筈だ! 五年目までのミスは全て監督者責任だ! つまり、君の指先を抉ったのは機械では無く、そこにいる工場長オルテガ、お前だ!」
「そっそんな、いえ、これは指導員として教えていたビスクの教え方が悪かったのだと、すぐにビスクを此処に連れて来させます!」
「工場長!何か?お前の地位とは、ふんぞり返り自らの仕事すら作業者に回す様な仕事なのか? 工場長という立場故に、確かに小規模な団体とはいえ、作業者一人一人に付きっきりで作業を教え込む事は不可能だが、しかしだ! 指導員が新米作業者にどのような教え方をしているか見る事、その位なら5分もあれば確認できる。 商会の団体の者に媚びをへつらい、作業者の手を止め経営の愚痴を漏らす暇はあるのか?」
「しょっ商会の団体に媚など……誰が一体そんな事を!!侵害ですぞ!組合長、現在グランゼールの件で装備に嵌め込む魔晶石の発注が溢れ、各地の武器又は防具工場への納期遅れが問題になっておるのです、この工場の担当である商会のクラン【パワハラー商会】だけなく、貴族であられるリストーラ男爵の【リストーラ商会】からも督促状が届き、手が回っておりません。」
「確かに実務と調整は商会との連携を取るにあたって、それは重要な工場長の仕事である、っであるがだ! オルテガ、お前が現場で作業をしなくなったのはいつからだ?」
「それは……、しかし!私が現場で作業をしていては作業指示などとても……」
どんどん、声が小さくなるオルテガ、若干その瞳が潤みつつある。
「ハァー、今までもまともな作業指示など出しいないのであろうに。 でっ、お前が責任を擦り付けようとしたそのビスクとは魔鉱石切断の仕事をして何年目だ?」
「ろっ、六年目であります……」
「おかしな、俺が事前に調べたビスクの作業履歴には魔晶石・宝石の加工業に3年、人員が不足してから魔鉱石・金属切断に移動してから3年目とあるが?」
「そっ、それは!……その……ちがっ、いえ……」
「規模は小さいとは言え、ドワーフでは無い人間の身で一団体の工場長に登り詰めるのにはかなりの努力を積んだ筈、惜しいな……その技術を腐らしたのはワシの責任だ!」
「何をおっしゃるので!? なっ組合長!頭をお上げ下さい!!」
「オルテガよ、お前はジュエリスの工場長を今をもって解任する。 もし、それでもW・Wに残りたいのなら、極東のホムラに出向き彼らの鍛造技術と知識をモノにして来い!」
「そっそんな解任!!そしてホムラですと!? 彼処はハーフフットだけで無く獣人や巨人も巣食う魔窟と噂で聞きます!」
「ワシの前でよくその言葉を発したな!! 今すぐ、その足でホムラに行って来い!!!」
「はっ、はいぃぃ~!?」
ウォーカーの怒号に血相をかいて部屋から飛び出して行くオルテガにやれやれと腕を組み頭を振るウォーカーは眉間を押さえる。
オルテガと交代するように部屋に入って来た人間の男は、オルテガの形相に何事かと首を傾げていたが、すぐにウォーカーを見て話し始めた。
「此処においででしたか!! ウォーカーさん!本部から外へ出る時は幹部の誰かにお声がけをするように、毎回言っているではありませんか!」
「おー、ルベンディー! しまったな、ワシ、誰にも言っとらんかったか?」
「言っておりません。 作業者以外は幹部を含め皆で貴方を今も探しておりまぞ!」
「はぁ、何故皆でワシを探す?何故だ?」
意味がわからんと頭を大きく傾げるウォーカーに対してルベンディーはハッと思い出したかの様に話し出す。
「そっそうだった!大変ですよグランゼールのみならず、あのインデルバルも消滅したと知らせが入りました! 生き残った者や目撃者は一切おらずグランゼールとは異なった滅び方をしている為に、魔王軍の犯行かも分からず各国が混乱している状況で事もあろうか、あの英雄ベスター・リングス殿が死んだと言う噂が広まり各地の団体は勿論、本部にも受注が殺到し大変な事になっています。」
「何に! よもやあのベスターが……何も遺せずに死んだか……ワシがキミドリ草を砂利砂利と食べ始めた時のあいつ顔には笑ったが、そうか……惜しい奴を亡くしたな。」
いや、気にするのはそこではないでしょう!と興奮するルベンディーを無視して話すウォーカー。
「それにしても『雷鳴の剣』と『電導聖鎧』は高純度ミスリル銀と雷煌鉄を使い 、特に鎧には魔晶石の中でも飛び抜けて雷属性に適した魔素を多く含むが非常に脆く加工の難しい晶石、『黄麟晶』をふんだんに敷き詰めた自慢の子達だったのだがな……(ウィルの言っていた通りやはり、『死の森のオーガ』は遂に神話の域にまでその技術を上げて来たか、神聖剣ル・グランにて【魔剣キリネクライネ】を追い抜いたと思うていた自分は愚かであった……)」
ポケットから徐に紙を取り出して、ウォーカーは考え込むとボソッと呟く。
「一体,あの馬鹿息子は何をしているんだか? ウィリアムが持つ危険で、ウィルザードなどと名付けたのが間違いだったか? 本当に危なっかしいたらない、あいつは何処に行ったのやら。 放浪癖まで俺に似てしまったか。」
「ルベンディー丁度いい!先ほどここの工場長を解任したからお前がここの工場長に就け、あと幹部の奴等に俺は少し旅に出ると言っておけ!」
「へっ?ちょっ!ちょっと!?困りますよ。 まっ、待って待って下さいウォーカーさぁーん!!」
っと、ルベンディーに告げるとウォーカーは窓から飛び降りヒョイヒョイヒョイっと走り抜けまた何処かへ行ってしまった。
ぽつんっと残された若者とルベンディーの目があう、ルベンディーの目ひ顔から、その痛々しい傷が残る指へと移り「ああ、そういうことか……」っと呟く。
「君の名前は?あの人に何か言われたかい?」
ルベンディーは若者に声をかける。
若者は組合長と話しをしていた向かい合ったこの人が誰か?など考える暇もなく半ばとんでもない話しを聴いてしまって混乱の中その問いに答えた。
「はっ、はい!トーマス・クラシコです! 組合長には、『何故謝るのか?』と聞かれましたが……私は答えることが出来ませんでした。」
「そうか、その答えでは内容が今一つわからないが、しかし、君はツイているあの人はとても忙しい人でね指示もいつの間にか書面を置いてすぐ別の場所に向かわれてしまう、幹部でも話す事は少ない。 きっと君にとってあの人、ウィリアム・ウォーカーと話しをした事がこれからの人生で貴重な財産になる。僕がそうだったようにね。 僕があの人に初めて会った時何て言われたか聞きたいかい?」
「えっ、あっ、はい!!」
「良い返事だね!僕があの人に言われたのは『出来るか、出来ないかではなく。 やるか、やらないかだ!』僕が仕事でミスをした時の言葉なんだけどね、出来る筈がない理不尽な加工を任され見事加工不良! こっぴどく現場監督に叱られていた時、いつの間にか僕の後ろにあの人が立っていて肝が冷えたよ!
あっ、話がそれたね『やるか、やらないか』これは何も【イエスマン】になれと言っているわけではないと僕は捉えた。 まあ『はい』や『分かりました』即答する者は結局の所、弱い者に自分が受けた物事を擦り付けるしかなくなる。 ようは出来ない事があるのなら、何故出来ないのか考え、動き、発言する事、出来る事こなし出来ない事を突き詰める、そう『探求心』が大事何だと言われたと僕は感じたんだ。君は『やるか、やらないか』この言葉を聞いてどう思うかい?」
「やるか、やらないか……私にはまだよく分かりせんが、私も答えが出せるように頑張りたいと思いました。」
「よく分かないかハハ、そう分かない事を理解する事、君は良い技術者になれるかもね、ところでトーマス君、何故か僕はここの工場長になってしまったみたい何だが、現場監督が誰か教えてくれないかい?」
はい!と元気よく返事をしてトーマスはルベンディーを案内した。
~暗黒大陸、西部ベルデ山地ゴブリン集落~
暗黒大陸西部ベルデ山地にあるゴブリンの集落は乾いた土地で木を柱に土塊で固めて建てられた住居が立ち並んでいる。
女と子供は乾いた土地でも育つ、ゴブリンの主食となる魔素含んだ緑色の皮の芋『グルイモ』を育て、建てられた家を見てわかるだろうがゴブリンは物を作る事に関しては点で不向きその為、男達は賊となり人間達から生活に必要な物資や多種族との物々交換が出来そうなを調達する。
ベルデ山地では年に一度の雨季に豪雨が起こる事があり住居が半壊する事があるが、大地の精霊を崇拝するゴブリン達は地神の慈雨と崇め、壊れた家々を治しながら、人間達からかっぱらった盗品を自慢したり、飲めや歌えやと祭りを開き、地神の慈雨の際は何処の集落も眠らない夜を明かすが、今回は少し違っていた……今はもう止みかける雨がポツポツと降る中、壊れた家々をほったらかして有り合わせの木材と泥で作られた棺が崩れないように皆で囲い覆う様にして、交代しながら夜通し慈雨から守っていた。
「「「グギャー!」」」
村の入口の方から見張りのゴブリン達の物々しい声と悲鳴がゴブリンの村に響く、ただ事ではないその声門となる柵に装備を整え駆け出すゴブリン達の足音が響く。
門の前で待ち構えていた者は、外套のフードを深々と被っているが、隙間から見え隠れする顔や手に今も焼け爛れる様な火傷の跡を残し、右手には緑色の血が流れポタポタと垂れる黒い剣を握っている。 門番達は斬られて死んでいる。
「ギギッ、貴様何者だ! 人間ごときが一人で此処、第一集落に攻め混んで来るとは……キングを失った話しでも聞いて来たか?……愚かな。」
人間から盗んだのであろう、片刃の大剣を背負ったボブゴブリンが剣を構えると、各々にかっぱらった装備を付けぞろぞろと火傷の男の前にゴブリン達が溢れ出て来る、その数200強。
そう、此処ベルデ山地ゴブリン第一集落はグランゼールの件で死んだゴブリンキングがまとめいたゴブリン達の精鋭が集まるいわば総本山、全ての集落を統括していた亡きキングのカリスマ性に惚れ込み同じボブゴブリンでありながら部下となった者達も多くいた。
「メローネ街道で拐った女、子供を返せ……」男がボソッと呟く。
「はぁ?人間を拐った?何の話しだ! 奴を殺せ生きて帰すな!キングの死に付け入る様な輩が今後、訪れぬ様ズタズタに引き裂き見せしめに吊し上げるぞ!!」
「「「「「「グオォー!!」」」」」」
地鳴りがするかの様な咆哮が木霊すが、火傷の男は怯む様子無く「そうか……」と一言呟くと黒剣をスッーと静かにゴブリンに向け構える。
様々な種類の剣その中には大きく彎曲した鎌の様な剣ショーテルが目立ち、斧や槍、両手にダガーを持った者など前衛の戦士達が火傷の男に襲いかかる。
「ギギィ~」「グギャッ」二人のゴブリンが瞬時に斬られ血を流す。
「強いな……ギッ何をしている回復部隊!! 負傷した者に回復魔法をかけろ!」
指揮を取るホブゴブリンが叫ぶが、後衛の部隊の様子がおかしい。
「そっ、それが回復魔法の魔法は既にかけています!それなのに……」
斬られたゴブリン達の傷はふさがっているが、しかし、ゴブリン達は尚苦しみもがいている。
「グギギッ、あの剣はもしや……馬鹿な呪詛か!? 人間が魔剣を持て筈がない!あり得ん、前衛部隊後ろに下がれ!! 後衛部隊!矢と魔法を放てぇええ!」
火傷の男は一切その攻撃を避けようとせず、不気味に歩きながらゴブリン達に近いて来る。
人間とは思えない動きで矢を斬り落とす男にゴブリン達は唖然としているが、ゴブリン達の下位魔法が男に当たった瞬間、ゴブリン達が活気付く。
「この程度の魔法では俺はダーメジを受けない……、女、子供はもうどうでもいい、質問を変えよう魔王の剣を作った奴は今何処にいる?」
外套が魔法で吹き飛び姿を現れた男は、暗黒大陸では誰もが知っている有名なお尋ね者だったが、しかし、それはあり得ないとゴブリン達がどよめく。
「何故だ!?お前は確かに魔王様が!! その剣のGの紋様は傑作だけに刻まれるガルシアの魔剣【キリネクライネ】何故生きている『魔剣士ウィルザード』!!」
一人のゴブリンが同様を隠せず叫ぶと、ニヤッと不気味に笑い「あそこにいた奴か?」と呟くと駆け出す。
ゴブリンの村は女、子供を除き壊滅闘える者は残っていないウィルザードは一人のゴブリンの胸ぐらを掴み持ち上げる。
「何処だ!あの剣を作ったオーガは何処にいる?」
「オーガ?何、言ってやがる グギッ」
「どういう事だ!あの魔剣を作ったのはオーガでは無いのか!! 言え誰がアレを作った!!」
ゴブリンを向かって来るゴブリン達を一掃する時もその冷徹な姿勢を崩さなかったウィルザードだったが、魔王の魔剣がオーガの作ったモノでは無いと知るや否や明らかな動揺を見せ、「言え、誰だ!」を繰り返す。 そんなウィルザードの姿を見てゴブリンはニタッと笑い一言「言うかよ、バカ……」っと言い舌を噛み自決した。
残され、ウィルザードに包丁を持って「父さんの敵ギギギィー」突進して来たこの子を軽く、払い退けフラフラとその場を後にした。
このあと、ウィルザードは人さらいのゴブリン討伐を依頼した冒険者達を切り裂いて姿を消した。
陰の実力者は面白いですね! さすが、No.1って感じ常に主人公がボケ続けているのに話がまとまって行く感じがとても良い! きっと作者さんは銀魂が好きだと予測しますw




