第四十八話 作業開始と異変
「では、あのデアデビルはデルフが進化を遂げた姿で、この小悪魔の姿に変種として戻っていると?」
ベリル様は眉間に皺を寄せて、フランベルジュによって溶けた腕を組んでいる。 僕が魔王様の血を飲んだという事を伏せた魔王様の説明にベリル様は納得がいかない様子、それはそうだろう僕自身だって正直何が何だかなのだから……
「大方はそんな感じだろう、俺は灰にならずに劣化した者を今まで見た事が無い、ましてや!それほど早く劣化する者などいないと言っていいだろう! すなわち、デルフは劣化して縮んだのでは無く!進化したまま縮んだのだ!! そう考えれば、俺の素材に触れる事が出来るようになった事も理解出来る。」
いや後者には貴方が前例としているし、進化とはそれほど容易く出来るものでは無い事をその身を持って知っているのだが、魔王の言葉に異を唱える気は無いと、ベリルはデルフへの不信感を押させ込んでいた。
「そうだ! 今回ルギナはデルフとベリルの両方の命を救ったと言っても過言ではない、デルフの存在によって大きく進展した俺の計画にベリルの力は重要だ! この事からルギナへの褒美として、デルフが作る最初の魔軍将の武器はルギナのモノする。」
「しかし、私はれい……いえ、その御言葉恐悦至極にございます。 もし可能でしたら物理攻撃を主とした武器を頂きたく思います。」
ルギナはその言葉を返そうとするも、ガルディオンのその有無を言わさぬ冷たい視線に、発しそうになった言葉を止め即座に頭を垂れる。
「ほう、武器を持つ事すら難題の霊体が更に物理攻撃を求めるか……何故だ?」
「それは……」
ガルディオンは目を細め物理攻撃を要望したルギナを見つめる。ルギナは言葉を詰まらせるが、ルギナが答える前にガルディオンが談笑する。
「まあ良いだろう!面白いではないか!! 今まで守りの面で動いて貰っていた、お前が全線で武器を振るう姿を観るのも悪くない。」
「作れるな?デルフよ!!」高笑いをしながら魔王はデルフに問う。
ビクッと驚き肩を揺らしたデルフが答える。
「私がルギナ様の武器をですか!?……物理攻撃……考えはあります……が上手く行くかは分かりませんが善処します。」
ルギナ様は物質を掴むことは不可能に近い、霊体であるルギナ様が武器を持つと言う行為が出来るとするならば、可能性は一つ!そう、それはデュラハン━━━
ルギナやその場にいたベリルもそのデルフの答えに驚きを隠せないでいるが、魔王ガルディオンだけはウンウンと頷き上機嫌だ。
「デルフ、分かっているとは思うが俺の魔刀が最優先だ! 出来たら直ぐに伝えに来い。」
そう、言い残すとガルディオンはリポートを使用して、闇に包まれその場から消えた。
「ん、ベリル様何を?」
「何をだと!それはこちらの台詞だ、魔王様の素材が劣化する前に直ぐに運ぶぞ。」
ルギナの姿はいつの間にかその場から消えていて、残ったベリルは魔王の命令通りにデルフと素材を工房へ運び出した。
「腕は此処で良いか?」ベリルは作業台の上に慎重にガルディオンの腕を置いた。
いきなり工房に入って来た魔軍将にしてバルザークに続く事実上、魔王軍のナンバー4であった『熱源の知将ベリル』がインプに連れられ荷物を運ぶ姿にオーガ達は言葉を失う程に驚愕していた。
「有り難う御座いました! ベリル様のおかげで直ぐに魔刀の作成に入れます。」
「では、俺は戻る。」
ベリルもオーガ達のなんとも珍奇なモノを観る様な視線を気にしてか直ぐにその場を立ち去ろうとする。っが!
「さぁ、作るぞ! 集中、集中……」
すると、ボフッ、という音が鳴りデルフを魔素が包んで行く。
「この魔素はあの時の!?」
ベリルは自然と腰に携える剣に手をかける。
「着いて来て正解ね。 止めといた方がいいわよベリル、アレはデルフ……」
すぅーと、ベリルの前に現れたルギナもその現象に唖然としてデルフをまじまじと見つめている。
「まさか、本当に進化していたとは……俺はこの事を魔王様に知らせに行く。 ルギナ、お前は後を頼む。」
ルギナが頷くとベリルは急ぎ工房を後にした。
「おっおい!?何だ、何が起こった!デルフの旦那が進化しちまった!!」オーガ達もまたデルフの姿を見て皆、狼狽としている。
「おっおい旦那!その姿はどうしたんだ!?」
「ん?何が、えっ、これは!一体!?」デルフが自分の姿に驚くと再びボフッと音が鳴りデルフはインプの姿に戻ってしまった。
またインプになったデルフの姿を見てあわてふためくオーガ達を無視して、ルギナはデルフの耳元で呟く。
「一つ聞きたい事があるの、どうやって私の武器を作るつもり?」
「はっ!へいぃ~、えーと、ですね、霊体であるルギナ様がもし武器を持つとすれば、方法は二つ上位死霊か精神体鎧になるしか無いでしょう。」
自分はどうなっているのか混乱している中でいきなりルギナに話しかけられたので変な返事をしてしまったデルフ、だったがデルフはその問いに答える。
「それでは私は━━━」 フッとルギナはデルフから少し距離を置き睨み付ける。
「えぇ、ザナドゥ様が言っていた通り死霊になるとルギナ様の貴重な上位加護が使え無くなります、おそらく精神体の鎧又は武器でも同じでしょう。」
「では、どやって?」
「ルギナ様には武器を使う一瞬だけ、デュラハンいや精神体の武器になって頂きます。」
「一瞬? 精神体鎧は死霊と似ていると言えど全くの別物、物への執念と鎧又は剣を自身だと思い込む圧倒的強固なイメージによって成される進化そう容易く出来るものでは無い上に一度憑依してしまってはもう戻ることは決して無い、だから崇高な種族名を持つデュラハンなのです。 考えも無しに、にぃ……いや、バルザーク様を愚弄するのなら魔王の刀鍛冶といえど殺しますよ。」
「そんな、バルザーク様の事など何も!? 考えならあります! 一瞬なら可能な筈なのです一瞬なら……霊体では大きく重い物を動かすのは100%不可能ですが、ルギナ様の足元の砂埃ならどうでしょう? 謁見の間でも見ていましたがルギナ様が動く時に微かに動く時があります。 霊体であるルギナ様が動いたとしても風が起こる事無い、つまり何度も往き来する内に無意識のうちにその場に落ちている砂に憑依していると考えます。 そしてそれは隷属される事無くすぐ離れ落ちていた。」
「ふざけているの? それとも私の武器は砂埃だとでも言いたいのかしら?」
「いっいえ、決してその様な! イヤでも間違いでもないのかな?」
最上位吸血鬼の時もそうだが美人に睨み付けられるということがこれ程までに怖いとはデルフは思いもしていなかった。
「何!!」
「いっ、いえ、ルギナ様が操るのは魔王様の魔刀を作る時に出たオリハルコンの切粉です! 溶かして還元し再利用する為に残していましたが使い時でしょう。」
「何!?魔王様の剣から出た屑、そっ、そっ、それはバババ!!バルザーク様の鎧も中に混ざっていると言う事なの?」
「えっ?えぇ、おそらくは、ルギナ様には保管してある切粉を魔王様の魔刀が出来るまで、意識して自由に扱える様にして貰いたいのです。」
「兄様の、あっいや、しかし!それでは武器では無いのでは?」
ルギナは何やら仕切りに顔が緩むが、いつも冷淡な顔を取り戻しデルフに問う。
「ルギナ様は【形状記憶】と言う加護をご存知ですか?」
「確か、水銀蚯蚓が持つ加護ですね?」
「はい、ルギナ様がオリハルコンの切粉を操れる様になったら、その切粉を炉で溶かしガルシア師匠が作った魔鎌デスサイズの金型に流し込みます。 この時、抽出した【形状記憶】の魂塊を一緒に入れ、ルギナ様の魔武器を作りたいと思います!」
「素晴らしい!! 漸く私にも分かったわ、その出来上がったデスサイズとやらを再び削り切粉にするということか! 私の魔素に浸かったオリハルコンは、私が切粉に魔素を注ぎ込み操ることで形状記憶が発動し武器の形を成す!」
「そう、大体あっていると思います……」
「こうしてはいられない!兄ぃ様待っていて下さい直ぐにルギナが参ります! 何をしているオーガ達!!私を早く兄様、いえオリハルコンの切粉がある所に連れて行きなさい!」
オーガ達はルギナに逆らえずに、皆慌ててルギナを保管庫に連れて行った。
あっ、行っちゃった……いけない!?早く魔刀を作らないと、まず鱗を剥がし、肉は上薬の材料に、骨は灰に混ぜ、血は水に混ぜ魔氷を作る━━━再びボフッという音が工房に響いた。
ルギナの武器に使われる鉱石はアダマンタイトでは無く、バルザークは黄金騎士なのでオリハルコンでしたm(__)m
最近、ミスが多いのに確認しても気が付けない……80時間残業のせいだろうか? 気を付けますm(__)m
話の続きは3月末に五十話キャラクター一覧と同時に更新できたらいいな~と思っています(^-^)/




