第四十七話 悪魔の威信
何故【悪戯】などと、ふざけた種族加護持つ小悪魔などがアレほどの武器を作ることが出来る、一体、コイツは何だ……。
ベリルはデルフを睨み付けながら、ルギナと共に謁見の間から出て行った。
「ベリル、あの武器……魔絹の布で包んでいたのに魔素を感じとれる、あなたなら魔王様の魔剣とあの得体の知れない魔武器どちらが強いかわかるでしょう? 教え貰えないかしら。」
ルギナにでも分かるほど魔銃から伝わってくる魔素に、ベリル見解を問う。
「おそらく、あの魔武器だ……」
「そう、ですか……、インデルバルを滅ぼしたあの時、霊体のままでは武器を持つ事は出来ないと言った私に、魔王様はこう告げました。」
『ならば魔素の塊を武器とすればいいのではないか? デルフはそれを可能にすると俺は思っているがな!』
「まるで、あの小悪魔なら実体の無い武器が作れる、いや、私には望む武器を与えてくれると言われている様だった。 ならば私は……私はこの上位霊体の姿で物理攻撃を使える武器が欲しい━━━━」
「霊体で物理攻撃など不可能だ……」
アレはかなり上質な魔絹、おそらく生体マデュラスキュラの【水耐性】持ちの糸か……上手く熔鉱炉のオーガ共を手懐けた様だが小悪魔に望みを叶えて貰うなど下らない。
━━━━マデュラスキュラ、マデュラス遺跡周辺の森に生息する蜘蛛の魔獣、【硬質化】と【弾力増加】の加護によって生み出す『伸縮硬糸』は粘着性を失っているため小物を捕らえる蜘蛛巣の様な虫取り用の罠としては使えないが、絡み取られれば最後、有機物で世界一硬いと言われる糸がゴムの様に伸縮し暴れば暴れるほど自らを締め上げ、上位魔法で焼き切る他に逃げる手段が無い、大物を捕獲するための罠となる。 そのため生体の蜘蛛は体長2mを超えるものあり上質な糸には様々な加護が混ざっていることもあるらしい。━━━━
「待て!!なんだこの魔素量は!?」
ベリルは謁見の間の中から漂う異常な魔素の流れを感知して直ぐに部屋の中へと駆け込む。
「魔王様!この魔素は一体なんで、すか?」
何だこの魔素は魔王様と似ている……、敵意は感じ無いがしかし、何故此処に入って来れた!
「何者だお前は!!この魔素量…デーモンいや、あの姿はデアデビルか!? 貴様何処から入って来た!」
「待てそいつは━━━━」
馬鹿な!あり得ない何故最強である魔王様があの様な姿に!? 何故、俺は気が付かなかった!
「き、貴様かぁああああああ」
デアデビルなんぞに、あの御方を傷付けることは出来ない!何かの間違いだ!!それでは俺は…………考えるな!!!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる━━━━━
━━ベリルの回想━━
100年前、オーバーケイルを実質的に統治していた吸血鬼達が急にその身を見せなくなった。 それと同時期に南の大陸から暗黒大陸への人間の進軍が各地で確認され、魔獣や魔鉱の乱獲が年を追うごとに多くなっていた。 自らの棲みかを荒らされた魔獣達は他の地形へと移動を始めていた、このままでは……
「このままでは、いずれ人間共はこの『フルマーシュ』も荒らし来ます。 吸血鬼達が姿を眩ました今、我々悪魔が暗黒大陸を統治しなくては!」
デアデビルは数多くの悪魔達が暮らす沼地『フルマーシュ』で数十体のデーモンの前で懇願する。
「何をビビっている、いやデアデビルよ!お前はただ戦いに飢えているだけあろう。」
「そうだ、もしこの沼地に来たのであればその時に滅ぼしてやれば良いだけだ。」
「フッ我々、上位悪魔は下等な人間共が何をしようが興味はないよ。」
デーモン達にとって人間の進軍など脅威にならず、デアデビルの進言を棄却するがデアデビルは食い下がる。
「しっ、しかしデーモン様の方々人間共にも【水衣】【風纏】【雷装】【炎鎧】など戦闘に特化した上位加護を持つ者も現れていると━━ぐっ、はぁ!!」
ベリルはその身に上位魔法を受け吹き飛んだ、沼に落ちドロドロの身体を引き摺りながら立ち上がる。
「デアデビルごとき中位の悪魔が我々に指図するか! よもや我々が人間なんぞに負けると言うとは余程劣化させられたいらしい。 生きているのなら二度とこのフルマーシュに立ち入るな!!」
事実上、追放を言い渡されたデアデビルは一人、人間達を暗黒大陸から追い出そうと各地を駆け回る。
そんな戦いに明け暮れいた時、はぐれ鬼人族が一人でオーバーケイルの端に住み着き、武器を作っていると聞き付け、ボロボロの身体で立ち寄った。
「お前が、この暗黒大陸で一番の鍛冶士か。」
「業魔か、【再生】はどうした?えらく傷付いてるが、何しに来やがった。」
小さな工房から出てきたオーガは、ふらつきながら近付いてくるデアデビルに睨みを効かせる。
「お前が作った武器で一番最強の武器を俺に寄越せ!」
「フッ、馬鹿を言いやがる!そんなズタボロの身体で俺の剣が振れると思うな! 俺の武器は自殺の道具じゃねぇだよ帰りな!!」
「自殺だと、馬鹿にするな……俺はもっと強くならねばならんのだ! この暗黒大陸の治安を秩序を俺が! 早く渡せ!」
虚勢を張るが、言葉とは裏腹に片膝を地面に着け体勢を崩す。
オーガはボロボロになりながらも鋭い目で自分を見るデアデビルを置いて工房の中へと戻って行った。
「待て!!」
すると、直ぐオーガは戻って来て剣をデアデビルに差し出した。
「そこまで言うなら抜いて見ろ!俺の傑作だ お前が剣を使いこなせなければ呪詛に溶かされ、いずれ消え失せるだろう。」
「魔剣か、此処に来たのは正解だった……ぐっ、わぁあああ!ふぅううー」
受け取り鞘から抜いた剣はデアデビルの腕を溶かし始める、しかしある程度皮膚を溶かした所でその進行を止めた。
「耐えたか『赫灼の熱剣』だ、持って行け!」
剣を鞘に戻し立ち去るデアデビル。
「言われ無くともそうする。」
限界への嘆きに強行手段をとる俺を皆は許すだろうか……考える暇はない動けこの身が果てるまで━━━
オーバーケイルを後にしてデアデビルが訪れた地はフルマーシュ、デーモン達がぞろぞろと集まってくる。
「この地に二度と踏み入れるなと言った筈だが?」
「魔法……右から上位魔法」
「!?」
軽く、身体を揺らし魔法をかわすデアデビル、そして腰にした剣を抜くと魔法を放ったデーモンを斬り裂いた。
「『赫灼の熱剣』」
「何だと!? アイツがデアデビルに一撃で殺られるばずが!?」
デアデビルは止まらずにすかさず、一番近くにいるデーモンに進撃する。
「舐めるな!デアデビルがぁ!水属性最上位魔法ぐっぎゃあああああ」
膨大な魔素を漏れらす最上位魔法が放たれるより先に、デアデビルの剣がデーモンの腕を斬り落とす。
「あと、12体……次は左後ろか。」
唖然とするデーモンがいる中、魔法を放とうと構えるデーモン達の腕が、デアデビルによって斬り飛ばされて行く。
「次はかわせないか……」
そう言うと背中に火属性上位魔法を受け、両膝を泥に着ける。
「今だ殺せー!!」
5体のデーモン達はその好機を逃さず武器を取り、デアデビルを殺しにかかる。
「うぉおおおおおおー!」
その直後、眼前のデアデビルに異変が起こる身体のあちこちがひび割れ、魔素が溢れ出す背中には蝙蝠の様な羽が生え、角が捻れる正にそれは!
「進化しただと!?」デーモン達は突然の進化に驚くがもうその攻撃を止めることは出来ない。
そうか、この力があるなら怠惰な上位悪魔らは必要ないか? そう思い、デアデビルは瞬時に5体のデーモンの胴体を泣き別れさせる。
だが、直ぐに異変に気付く最初に斬り裂いたデーモンの方から漂う肌を刺す様な感覚。
「何だ……この魔素は? 劣化いや、早すぎる!?」
進化してデーモンとなったデアデビルは今の時点で最強であると一瞬でも思った自らを恥じて、その強大な魔素に震えが止まらなかった。
腕を斬り飛ばされて者、上半身だけになった者も含め、他のデーモン達は何が起ころうといているのか全くわからず、灰を見つめる進化したデーモンを呆然と見ている。 だが彼は最初に斬り裂いたデーモンの灰に魔素が集まるのを、鍛え抜かれた【感知】により感じとっていた。
「馬鹿なそれでは俺は何故この地に生まれたと言うのだ、ふざけるなラプラスの箱などこの俺がぶっ壊してやる!」
灰より生まれ出たその悪魔は何か激怒している。
「貴方は、まさか最上位の悪魔様なのですか!!」
魔剣に腕を溶かされながらデーモンは突如現れた見馴れぬ悪魔に問う。
「うん?俺は最上位悪魔、お前はデーモンだな?この世界で最も強い奴は何処にいる?」
「おそらく、オーバーケイルの深層に棲まう吸血鬼かと、聞いてどうなされるので?」
「ん?仲間にする、この世界は俺が変えてやる。」
ああ、この為だ!この時の為に俺は戦って来た!!元より俺では無かったのだ、この御方こそが暗黒大陸を統制するに相応しい御方。
「願わくば、この私を貴方の配下にして頂きたいオーバーケイルの深層、吸血貴邸まで案内致します。」
魔剣をその場に落とし溶けた手を胸に当て、目の前に佇む黒々と輝く鱗に包まれ、巨大な四枚の翼をはためかす最上位の悪魔にひれ伏し懇願する。
「好きにしろ!連れて行け。」━━━━
ベリルは叩き付けられた謁見の間の扉で目を覚ます。
「俺は一体、アイツは!?」
「起きたか?ベリル、デルフが素材を運ぶのを手伝ってやれ!」
この状況は何だ?先ほどのデアデビルは何処に仕留めたのか?




