第四十四話 最凶の魔銃
「出来た!ついに組み上がりました!!」最後のネジを取り付けた所でデルフの声が工房に響く。
作業台の上に置かれたのは、重厚なアダマンタイトの黒が際立つリボルバーが一丁、シリンダーには黄金に輝く弾丸が一発だけ光っていた。 デルフはそれを手に、デルフの声に集まって来たオーガ達に見せる。
「コイツは、スゲーなデルフの旦那! 一体どれ程の威力が出るのか?考えただけでも身震いがするぜ!!」相変わらずのデカい声で称賛するオカシラ。
━━━━オカシラ、全てをそつなくこなす彼は、スーパーサブとしてその腕を振るいながら、七人のオーガ達をまとめ実務と調整を行う管理者として後に世界一の鍛冶屋を作る。━━━━
「スゲーのは当たり前だぜ!オカシラ、俺達も手伝ったんだからよー」ランボーが上機嫌に話出す。
━━━━ランボー、オーガの皆が鍛冶士になったが、彼の探求心はガルシアから受け継がれその技術力は他オーガ達より群を抜くことで後にメイン鍛冶士となる。━━━━
「流石はデルフの旦那!俺もいずれはこういう魔武器を創造したいぜ。」イッカクが腕組み、しみじみと言葉を溢す。
━━━━イッカク、細かい作業が得意な彼は絵心もあり後に設計・製図士となる。━━━━
「俺が溶かしたアダマンタイトがこんな複雑な型になるのか! 鋳造ってのはホント面白いですよ!」ワンリキがウンウンと頷きながらテンションが上がる。
━━━━ワンリキ、その怪力と、窯の熱を浴び続けたことにより得た加護である熱耐性を生かし後に鋳物士となる。━━━━
「………………カッコいい……」ムクチーがボソッと呟く。
━━━━ムクチー、ひたすら寡黙に作業をする彼は後に研磨士となり、正に無我の境地と言っていいほど集中力で±0,0001mm寸法をその感覚で磨き上げ、仕上げ面はまるで鏡の様な抜き歪みのない美しさを出すほどになる。━━━━
「へへへへへっ、デルフの旦那はやっぱりすごいッス♪」ヨーキが頭に手を回してクネクネしながらデルフを讃える。
━━━━ヨーキ、いつもヘラヘラしているがエネルギー伝達、魔素の循環の第一人者として後に工学技士となり、彼の研究成果は人の大陸にも広がっていく。━━━━
「美しいー! 次は是非、グリップ部分に僕の装飾を加えたいです!」ユウガが目を輝かせ懇願する。
━━━━ユウガ、オーガにしては痩せ型のイケメン、その美的意識の高さから後の細工職人となり、彼の細工した魔武器は美術品としても高い評価を受ける。━━━━
「ズバリ!世界一の魔武器でしょー」ルイセンは涙をポロポロ流しながらズレた眼鏡をくいっと直して、がらになく叫ぶ。
━━━━ルイセン、ムクチーよりも目立たないインテリ君の彼は類い稀なるその目利きで後に鑑定士となり、検査・品質保証の第一人者として活躍する。━━━━
━━━━デルフの弟子となった8人のオーガ達は『小悪魔の下僕』、『最下位の更に下』と影口を叩かれ小馬鹿にされているが、彼らに取ってそれは想定の範囲内だった。 オーガ達は自分らに降りかかる誹謗中傷を掻き消すかのように自らをこう呼ぶ様になる『小悪魔の門弟』と。━━━━
デルフはオーガ達の激励を背に魔王が待つ、謁見の間へと向かう。
「魔銃とやらが出来たのだな?」
側付きのベリルとルギナを外へ出し、何処か府に落ちて無い表情で、玉座に腰掛け頬杖をついたガルディオンが問う。
ベリルの鋭い眼孔にビビっりながらも、デルフは言葉を振り絞る。
「はっ、ハイ! コチラが完成した魔銃です、名を『ガンデスベルグ』と申します。」
デルフは傷を付けないように、丁重に巻かれた特殊な布を剥がし魔銃を魔王へと差し出す。
「死の頂き、いや死すら越えた先か……つまり、オーバーキル……大層な名を付けるじゃないか、デルフよ!! ん?この黄金に輝く物は何だ?」
「さすが魔王様!それは今回、回収した人間を素材にして作った弾丸です。一様、名前は『黄金の種』と申します。 これは、この魔銃『ガンデスベルグ』放つ最初の一撃!!この一撃が敵に着弾することで、この魔銃は本当の意味での完成を迎えます! そして━━━」
最初の一撃、それは神々しく輝くオリハルコンの弾丸。 デルフ曰く、これを標的に撃ち込む事で魔銃『ガンデスベルグ』は完成するらしい。 その瞬間がまさにデルフが蒔いた黄金の種となる。
デルフはその後も魔王に対して、魔銃の説明をまるで川の流れが堰を切って流れ出した濁流がごとく喋り続ける。
「もう、良い!! 決めたぞ!」
魔王が急に出した大声に驚きデルフの説明が止む、そして無言のままデルフと魔王は目を合わせる、目を合わせている時間はほんの数分でしかなかったが、デルフは今まで視たことのない魔王のその形相に目を叛けることも出来す、気圧され、何時間も睨まれているかのような錯覚を起こしていた。
だが、その錯覚を予想だにしない出来事が打ち砕く、ドス黒い紫色の血渋きと共にデルフの目の前に放り投げられた腕、その太く黒々と輝く硬質な鱗に纏われた腕はデルフのモノでは無く、玉座に座る魔王ガルディオンの腕に間違いなかった。
「!? こっ、これは一体、どういうことですか!?」
「お前が言ったのであろう! この俺の素材を使えば決して折れることのない究極の魔刀が打てると、其処に転がした腕で爪、骨、肉、鱗、血、5つの素材だ、そして可能な限り全てとも言っていたな! さあ次はどの部位が欲しい?言ってみろ!!」
「しかし……いや、分かりました━━━あとは角、牙、羽、尻尾、眼、最後に…………」
魔王のその真剣な眼差しと、切り落とされた腕を見て最早、何も言えなくなったデルフは何の躊躇も無く次々と必要な部位を言っていく、その度に魔王は自らの角を折り、牙を抜き、羽を毟り、尻尾を千切り、眼を抉って行った、そこでデルフの言葉が詰まる。
「はぁっはぁ、すっーぅ最後は……最後の部位は何処だ!!」
魔王は荒い息をたて、深く深呼吸をした後、口を閉ざしたデルフに問いかける。すると、デルフの口が開く。
「最後に…………心臓を━━━━」
「なっ、心臓だと!?」
「申し訳ありません、可能であればという意味ですので、最後のは聞き流して下さい……」
「この俺に心臓をよこせだと!!! フッ、フハハハー、可能だと思ったからこの俺の前で口にしたのであろう! 何処で気付いたデルフ?」
「えっ、あ、いや、勇者との戦いで魔王様は確実に心臓を貫かれていた筈でしたが、劣化すること無く今も御健在ですのでもしかするとと……」
「まあ、あの時みていたから当然か、そう!この俺ガルディオンには二つ心臓がある、だがウィルザードとの戦いの傷は思いの他酷く治らないこともあると言われた心臓だ!そして、心臓は先日奇跡にも再び鼓動を始めた……良いだろうデルフ!お前にくれてやる!!」
ガルディオンは、この奇跡にはこの時のため、デルフの素材として必要不可欠であるから心臓がまた鼓動を始めたとしか思えなかった。
「ほっ、本当ですか!! ありがとうございます!」
「だがしかし!! おそらくだが、今回の治りの遅さからみて心臓をまるごと抉り取れば、最早再生は不可能であろう。 デルフよ!俺にとって究極の魔刀はそれほどの価値があるものだと、知った上で必ず完成させて見せよ!!」
「そんなっ、もう、心臓は再生しない……はい!必ず決して折れること無い魔王様の魔刀を作って見せます!」
「良く言った!! では、俺は傷が治り次第、魔銃をスカーレットヘルに持って行くとする。」
「えっ、ですが!」
「お前にはやることがあるだろ? 早く俺の部位を持って行け! いくらでも待ってやる、すぐに作業に取り掛かれ!」
デルフは魔王の言葉に頷き、素材へと手を伸ばすがしかし━━━━
「うっ、つっ」
デルフは魔王の素材に近く度に、意識が遠退く感覚に襲われふらつく。
「どうした、デルフ! まさかお前!? 俺の素材から溢れ出る魔素に当てられているとでもいうのか!!」
「たっ、たぶん、そうだ、と……申し訳ありません!ここまでして頂いたのに、これでは、触れることすら出来ないのでは……」
「ばっ馬鹿を言うな!!! そんな事はこの俺が魔王ガルディオンが許さんぞ! 何とかしてみせる何とか!!」
「しかし━━━」デルフの目からはその絶望により、涙が流れ落ちる。
「そうだ! デルフよ!!死ぬ覚悟はあるか?」
何か思いついたかのように玉座から飛び上がった魔王がデルフに問う。
弾丸の名前は最初エニシダにしようと思いましたが、ぐぐったらイニエスタが出てきたので、個人的に好きなイニエスタに決定しました。 尚、サッカー要素は取り込みません。
重大なミスをしていました!オーガの人数は7人では無く、8人ですm(__)m オーガ達って7人の小人みたいだなぁ~って思いながら書いてたら7になってました。
ということで、ついでに小話を! 7という数字はこの世界の魔族の中でとても縁起が悪い数字となっています。 最初にガルシアについて行くと決めたオーガ達はオカシラを筆頭にランボー、イッカク、ワンリキ、ムクチー、ヨーキ、ユウガの7人だけ、このままでは旅立て無いと困った7人は元々、優れた観察眼を持ちオーガの中では頭も良かったルイセンを、主にオカシラとランボーが、ルイセンが泣いて嫌だと駄々をこねる中、無理やり仲間に取り込み連れ出して今に至ったとのこと。 でも、安心して下さいルイセンは後悔などしていないようで、今に至ってはむしろ感謝しているみたいです。
今後、オーガ達の物語まで書ける時間があるかわからないので、まとめてありますm(__)m 50話まであと6話かぁ~正直遠いです(TT)




