第四十二話 作業開始!(1)
「ハァ~(もの凄い怒られた……) うっ!?」
とぼとぼ、落ち込みながらデルフが歩いていると何かにぶつかる。
「んっ?小悪魔、何だぁ~オメェさんは? おっ!もしかすっとオメェさんがあのデモ~~ンズスミスか?」
「えっ!?あっ!ぶつかってすみません。(どうしよう!牛頭族だ!?)」
「気にすっな!それより兄貴の斧を魔王様の武器に使ってくれたみてぇだな……あんがとよ、あの世で兄貴もきっと喜んでっぞ!モッハハハハァー♪」
「魔王様の武器? 牛頭族ということは……えっ!では、ザイロン様のご家族の方ですか?」
「そっだ!オラァ~兄貴の弟、あの世に行った兄貴のお役目を引き継いで迷宮最下層の宝物殿で宝と秘密を守っとるザイアスだ!」
「えっ!あの新しく魔軍将になられたという、ザイアス様でしたか!? 本当にすみませんでした。」
「いいって言ったろ?オメェ、しつけぇな~モッハハ! それよか、オラにも武器を作ってくれや。 兄貴よりもデカイ斧が良いなぁ、モッハハハハァ~」
「はぁ~デカイ斧ですか? 戦斧バルバドスより大きくとなると……大丈夫ですか?アダマンタイトの比重は鉄よりかなり大きいから、500kgは軽く超えますけど……」
「気にすっな!ちっとくれぇ重かねぇと使ってる感じがねぇだろ? あっ!いけねぇ~魔王様に呼ばれてたんだ。 そんじゃ、よろしく頼むぞぉ~。」
「あっ、えっ、はい! 行っちゃった……どうしよう、ヴァンパイアロード様の魔銃にライオット様の手甲、そしてザイアス様の斧、早く作らないと何を頼まれたかわからなくなっちゃうよ!」
この後、予想はつくだろうがザイアスは魔王の所に行くがもう既に事は終わった後なので、魔王の機嫌も悪く、遅いと怒鳴られて迷宮へ帰った。
そんなこんなでデルフは工房に戻った。
「デルフの旦那、心配したぜ!」
オカシラがデルフに声をかけると、他のオーガ達もデルフの周りによってきた。
「皆さん、お騒がせしてすみません。」
「無事に戻ったんだから、そんな事はどうでもいいんだが、ヴァンパイアロードの武器を作るんだろ? 何か手伝うことはないのかい?」
「魔銃は図面を修正しなければいけないので、とりあえず、今は皆にお願いすることはありません。 でも、製図が終わったら細かい部品の製造をお願いしたいです。」
「おっ、おう!わかったぜ。デルフの旦那!」
オカシラが答え、他のオーガ達も意気込んで頷いた。
「あっ!そうだ、ついさっきザイアス様に斧を作ってくれと頼まれたんでした! この前の黒い魔導機兵を溶かして何時でも型に流し込める様に、約600kg~700kgの素材にして置いて貰えると助かります。 残ったのアダマンタイトは2等分にして下さい。」
デルフの頭の中は今、魔銃で一杯危うくザイアスの斧を忘れる所だった。
「ここで暴れやがったあの魔導機兵だな!任しとけ!! しかし、スゲーな旦那また注文が入ったのか、次は新しい魔軍将のザイアス殿か!ぐぅはははー」
魔軍将の武器を作るというデルフの話を聞き、嬉しくなったのかオカシラは耳にキーンと来るほどの高笑いをした。
デルフはオーガ達に告げると、直ぐに製図室に籠ってしまった。
━━━━━デルフが製図室に籠って3日後━━━━━
「おい、デルフ(あいつ)はもう、何も食わずに丸3日も図面の修正をしてるぜ。」
ランボーが工房の整理をしながら、製図室の扉を見て呟く。
「さすがに小悪魔でも魔素を摂取しなきゃ倒れるんじゃないか? おい、お前ら!ちょっと様子を見て来い。」
オカシラの指示を聞き、慌てて製図室の扉を開けて中の様子を覗こうとするイッカクとワンリキ。
「ぐっはっ!!」
ちょうどその時、物凄い勢いで製図室の扉が開いてイッカクとワンリキにぶつかってそれに驚いた二人は尻餅を着いた。
「出来たーー!!出来ましたよ皆さん! あれ?ワンリキさんとイッカクさん何で、そんな事で抱き合ってるんですか?仲がいいんですね♪」
「い、いや!これは!?」「おい、離れろ!」デルフの言葉にイッカクとワンリキはケンカを始める。
「ほう、出来たか!!見せてくれ。 ━━━━おお!?これ全てが一つ武器の図面なのか!一体、何枚書いたんだ? んっ?なんだぁこの変な文字みてぇなのは?」
そこへ、二人のケンカを割って入って来たオカシラが製図室の中へと入って行った。
「フレーム、シリンダー、ハンマー、トリガー、それから細かいネジやバネ等々、図面の枚数は20枚は超えていると思います。 鉱石を鍛練して作る剣とは違って、魔銃は幾つものパーツを組み立て完成する超精密な武器なので、どうしても図面の枚数は多くなってしまいますね。 後、その記号はガルシアさんが考えた、『GAS規格』という定められた基準に伴って考えられた記号です。例えばこのギザギザした記号の後に続く数字の場合は加工したモノの表面の荒らさを示しています。」
「ガルシアの旦那が定めたものかぁー、うん? でも、この書いてある数字は桁を間違えてないか? 0,0002って、これは0,0002mmって事だろう?どうやって測れば良いんだ!」
ランボーもオカシラの横から顔を出し、図面を見てその細かい寸法に驚く。
「確かに測定する道具はありませんが、ガルシア師匠が言うにはこれは平行度と面粗度からいうと、面と面を合わせると密着して、接着剤等を使わなくても張り付いて金属同士が離れなくなるレベルらしいです。」
「そういうことか……要は技術と経験で見極めろってか?」
ランボーが呟く。
「でも何でガルシアさんは、こんな規格何てまどろっこしい基準を作ったんだ?」
「確かにそうですね、『GAS規格』というのは元々、人間の『WIN規格』W・Wという人物が考えた『誰が作っても同じモノが出来る』様にするための基準らしいです。 一人で作業していたガルシア師匠には規格何てモノは必要なかったのですが、ガルシア師匠の持つ書物のほとんどに出てくる、W・Wという人物に対抗してその更に上を行く為に作った過剰な程の高精度に設定した俺だけの規格だと言われてました。 後、『W・W!こいつは天才だ! 冒険家であり、科学者であり、製作者である。 一人の力で此処までの探求心を燃やす者はこの俺以外にこいつだけだろう! 一度会ってみたいものだ、まさに開拓者だ!』とも言われてました。」
「ほう、ガルシアさんが武器ではなく、ましては人間に興味を持つなんて珍しいな。」
デルフの言葉にオカシラ呟く。
「あの書物を読めばW・Wという人物の凄さ嫌でも分かりますよ、ボクも会ってみたいです。 話は変わりますが、今回の魔銃では作成に時間がかかる金型ではなく、砂型の鋳型を使用したいと思います。 大量生産の面で考えれば繰り返し使える金型は最適とも言えますが、これは単に時間の関係だけではなく魔銃のフレームにはアダマンタイトを使用する予定なので、多少耐熱性持たせた金型を使用したとして、その融解したアダマンタイトの熱で金型自体が変形、又は金型自体が熔ける恐れがあるからです。」
「そう言う事なら砂型は任しとけ! でっ、木型の図面も出来てるのかい?」
「良かった、鋳造の知識もオーガの皆さんは持っているんですね。 木型の図面はフレーム2枚に、シリンダー1枚作るのはイッカクさんとサポートで今はたたら場にいるムクチーにお願いしたいと思います。」
ムクチーというのは、とても寡黙なオーガで反応は薄いがイッカクの次に器用で、その真面目さはオーガの中で一番だ。
「では、ボクは人間を素材としてプシュケルターラーを回して来ます。」
デルフはそう言うと、そそくさに他の工房へ向かって行った。
━━━━『高速撹拌凝血魔素精製機』、高速回転で一定方向にかき混ぜられた血液は不純物と魔素を分離した状態で固まり、それは精霊がその生涯を終えた時に落とす魂結晶石と似た素材『魂塊』となる。 性質は同じだが魂結晶石の様な鉱石とは違い、『魂塊』は砂の様な状態になる。━━━━




