第四十話 未完成の武器
「あっがっ!?」
(こっ、声が出ない!? 早く答えないと殺されちゃうよ! あつー!?がっ、我慢)
ヴァンパイアロードの問いに答えたくても喉がカラカラで、上手く声が出せないデルフは執事が淹れた、熱々の茶をイッキ飲みする。 ティーポットを片手に立って、その様子を観ていた執事は少し不機嫌そうな顔をしている。
「がっ、銃という武器にしようと思っていまふ!!」
デルフは舌の熱さを我慢ながら、振り絞って声を出す。
「ガン? 聞いた事無いわね。 ソレはどういう武器なのかしら?」
「はっ、ハイ、銃という武器は人間が『魔法を使え無い者にでも強力な遠距離攻撃を可能にするためにと』考えられたモノらしいです。 しかし、聞いた事が無いのも無理はないでしょう。 この銃という武器は火薬という熱により起爆性を持つ粉を弾丸というモノに詰め、銃に取り付け打ち出し攻撃します。 使用するにはかなりの鍛練が必要になり、未熟な者が使えば火薬の爆発の反動で肩が外れたり、爆発音で鼓膜が敗れたりと外傷を伴い、狙いも定まらずまともに使用出来る者が少なかったとか?、そして何よりその精密性が異常で大量生産に向いていない事から生産と開発が中止された『未完成の失敗作』です。 利点は詠唱をする必要がなく、更にノンモーションで攻撃できる事くらいですかねぇー。」
ヴァンパイアロードはデルフの長く、そして、何より銃という聞いた事の無い武器に何の魅力も感じる事の出来ない説明に苛立ちを隠せず爆発する。
「時間を無駄にした、私はお前を過大評価していたようね、『未完成の失敗作』などと!! その度胸は最早、命知らずでは済まさぬぞ!」
ヴァンパイアロードがソファーから腰を上げると、金と銀に輝く瞳がカァーとまるで紅鳩玉のように赤みが増して色を変えていき、デルフの薄汚れた服の胸ぐらを掴む。
「おっ!お待ち下さい!? まだ、はなしは、終わっていませんっ、開発が止まった銃はあくまで未完成! 私がこの世で最強の武器に!ヴァンパイアロード様だけの完成した武器にして見せます!」
(ヒィ~~!? ボク、何か怒らせることでも言ったかな? やっぱり、銃はまずかったかな? でも、ガルシア様が置いていかれた魔武器の設計図の中で銃が一番、ヴァンパイアロード様の注文内容に適していると思ったのだけど……)
「ほぅ、その最弱を私が持つに相応しい物に、最強に変えるというのね? で、その上手く行くのからもわからない未完成の武器が完成するのを私に待てというの?」
ヴァンパイアロードは胸ぐらを掴んだままデルフを引き寄せる。
「ぐっがぁ、いっいえ、もう既に80%は完成していると言っていいと思います。 何故なら私の師匠、ガルシア様が手掛けた設計図があります! その名前は『魔銃』魔素を込めて放つ弾丸は魔剣同様に呪詛を宿す筈とおっしゃっていました。 あとは私が上手く作ることが出来るか……。」
険しく睨みを効かしていたヴァンパイアロードは目を丸くして、ふっーと息を抜くとデルフの胸ぐらから手を放し、上げた腰をストンとソファーに下ろす。
「魔銃?、なるほどガルシアかその者の話は前に爺から聞いている。 何でも暗黒大陸で一番の魔武器鍛冶士だとか……いいでしょう、そう言えば私の得意な属性を伝えていなかったわね、私の得意な属性は水属性よ! フフッ火属性だと思ったでしょ?」
「水属性ですか!」
「何か問題?」
「いえ、むしろ……」
「?」ヴァンパイアロードは首を傾げる。
「ヴァンパイアロード様に合わせて作るので少し設計図の修正が必要ですね。 手の大きさから考えると小型のフレームを使用した、火力を考えれば中口径の物がいいですかね? ガルシア様の考えたモデルは火を吹くと言う意味の『リボルバー』モデルです。 しかし、小型フレームにすると大きさから7発以上の装填が出来なくなる可能性がありますね……七発の弾装は必須ということなので、弾種は水属性と言うことなので何とかなりそうですが……少し火力が落ちるかもしれませんが小口径を使用するモデルの場合、弾は8発以上装填する事が可能になる筈ですがどうされますか?」
「何を言っているのかわからないわ? でも、七発以上は必要無いの、火力は落とさ無いようにして貰えるかしら。 デルフ、貴方の作る武器で私が破壊しようとしているソレは貴方に話した『水晶と吸血鬼』の実話の続きにも繋がる、クゥーの加護『創成結晶』により命をかけて創られた七つの水晶結界、これはまさに魔族にとって最悪の結界、魔素を分解・乖離させる最上位級の神聖属性が込められているの。 そしてここからがクゥーの凄い所よ!魔法では同じ最上位級以上の魔力をぶつけなければ破壊が不可能な上に七つを同時に破壊しなれければ、再生するのよ♪ 破壊するならメイン属性に邪霊属性を乗せた混合魔法が必須ね。 しかも、びっくりしたのが水晶結界を破壊すると砕けた水晶が刃に変わって攻撃した者を貫くのよ!! どう?凄いでしょ♪」
「はぁ、凄いですが楽しんでいませんか? あと……お聞きしたいのでが、水晶の剣とはもしかして……そのクゥーと言う人の加護によって創られたモノなのでしょうか?」
再び、水晶の勇者の話しをしている時の上機嫌が一変して、デルフが気なしに言った言葉により、ヴァンパイアロードの目が赤みを増していく。
「小悪魔風情が!!気安く彼女の名を呼ぶな!!!」
「ヒィ~、すっ、すみません!!!」
デルフはソファーから跳び上がり地べたに頭を擦り着けて謝罪する。
「いい、次は無いわよ。 ───そうね、確か水晶の剣も出していたわね、クゥーが創るモノは全てとても美しいかったわ。っで、それがどうかしたの?」
ヴァンパイアロードはスッーと元の目の色に戻るとデルフの問いに答えた。
「えっあ、いっいえ、何でもありません……。」
(さっき、命をかけてって言ってたよなぁ~、はぁ~もう見れないってことかぁ『水晶の剣』一度は見てみたかったなぁ~。)
ヴァンパイアロードはそれからデルフに2時みっちり水晶の勇者について語った。 方やデルフは水晶で創られた武器の話し以外は全く頭に入って来なかった。
「っと、言うことでデルフ、魔銃とか言ったわね? 出来たらすぐに教えなさい! 爺、デルフをガルディオンの所まで送って上げて。」
「はい、かしこまりました。御嬢様。 では、デルフ様こちらに。」
部屋の扉を開けて執事はデルフを待つ。デルフは不適切な笑み浮かべて手を振るヴァンパイアロードに一礼して、そそくさに開けられた扉の外へ出て行った。
執事にエスカレートされながら館の外へでると、執事はデルフに話しかける。
「貴方もお気付きでしょうが、本当であれば私も含め館にいる者全てがデルフ様、貴方を殺しにかかっても可笑しくは無かった。 あの館『吸血貴邸』とは決して混血の侵入を許さぬ場所。 人間の北の大陸でいわば、ルークリスタの『久遠を巡る水晶宮』、巨人族ならタイランドの『巨宮の礼拝堂』、死霊種なら『英雄達の成れの果て』、それらは限られた者しか踏み入れる事を許されぬ場所、魔王城にもそういう場所があるでしょう。 貴方も私と同様にあの場所では異質。 しかし、御嬢様があの様な顔をされたのは私が知る限りでも100年前以来、デルフ様、私達は貴方に感謝しなければならないのかもしれませんね……だが、お忘れにならない様に貴方は踏み入れてはならない領域に足を入れた重みを時期に知ることでしょう。」
「はっ、はい……」(私と同様? はぁ~、怖かった。)
「それでは行きましょうか、転送魔法!」




