第四話 真なる魔王
あの戦いから3日後、グランゼール皇国の城下町の酒場で勇者ウィルザードは酔いつぶれていた。
「あと、少しだったんだ~!あと少しで倒していたんだ~!!」
「おい、もうその辺にしとけお前は勇者何だぞ、さっきから他客達の視線が痛いぜ全くよ。」
一緒に飲んでいた男が見るに堪えずウィルザードに声をかける。
男の名はスタンリー・ダングス、190cmはあるだろう大柄で横を刈り上げた短髪で顔や至るところに付いている傷が目立つAランク冒険者、100㎏あるタワーシールドを片手で扱う勇者パーティーのタンク役、冒険者達からは鉄鋼のスタンリーと呼ばれている。
「いや、止めね~止めれるか!!何で心臓を穿ったのに死なねぇ~んだっよアイツ!」
「おい、ウィル!本当に心臓に神聖剣をブッ刺したのか?ハッハハ!」
ウィルザードの酒を止めようとした男とは違う男がウィルザードをからかう。
ウィルザードをからかう,細身で長髪を後ろに束ねる男はレイソル・カーティス、Aランク冒険者で足具に刃が付いた武器『ブレードレッグ』と脚力強化魔法で敵を切り刻む、冒険者達からは剃刀レイソルと呼ばれている。
「何だど!こら!!、お前らがあの場にいなかったせいでこの様だ!!」
「無茶苦茶言うなよ、暗黒大陸でまともに動けるのはお前くらいだぜ。ヘヘッ なぁ!スタン」
「……。」
レイソルは微笑を浮かべ、スタンリーは目を瞑りやれやれと首を振る。
「あの野郎!暗黒大陸から出て来た時は今度こそ息の根止めてやる!」
そうして、いると他の客達が外が騒がしいことに気が付き、同時に警鐘が街中に響き渡る。
「何だぁ~、ヒクッ、うぃ~」
酔っぱらいウィルザードもその異変に気が付く、するとローレリアが血相をかいてウィルザード達の元へ来た。
「魔王軍が攻めて来たのよ!ウィルこんな時、こんなに酔っぱらっててどうするのよ!!」
「雑魚モンスターの……ヒクッ、千や~二千っこの俺が瞬殺してやるよ!」
「何に言ってるのよ!一万を下らないオーガ、オークとゴブリンの武装した軍隊、その中にはトロールが数百体は混じっているみたいよ! 魔軍将達はあなたが倒していないみたいだけど、各種族のキング達も揃っているという話を聞いたわ!バカの事言ってないでさっさと戦闘準備するわよ!あなた達もよレイ!スタン!」
「なっ!一万だと!これは骨が折れるぜぇ」
「しかし、ウィルよ!魔王も相当お前に頭にキテるみたいだな。ここグランゼールには冒険者組合があるって事を忘れているんじゃないか!」
レイソルが愚痴をこぼし、スタンリーはウィルザードに声をかけた。その言葉にウィルの顔もちょっとニヤつく。
「それじゃ、酔い醒ましにひと暴れするか!!」
そうウィルザードが言うと、他のテーブルに座っていた客達も一斉に立ち上がり『ウォオオオオー』掛け声が酒場内を震わした、そう彼ら他の客達も皆、冒険者達だった。
* * * *
「全部隊止まれ!!」オーガキングが指示を出す。
グランゼールまであと7~8㎞という所で魔王軍が並び、足を止める。
「魔王様!グランゼールに着きました!如何致しましょう!」オークキングが指揮を仰ぐ。
「ふむ、全軍このまま待機!何があろうと指一本手出しは許さん!!」
「ハァ!御意のままに!」オークキング、オーガキング、トロールキング達が平伏して魔王を仰ぎみる。
* * * *
グランゼール国街門前にBランク以上の冒険者達がおおよそ役200人、王国騎士団800人は集まっている。すると、騎士団を統括する騎士団長が声を張り上げる。
「私は王国騎士団総統ガネル・キルガーロンである!! この門の外に群がるモンスター達は筆頭する者を省いて上位種族の確認は無い! キング達の相手は我々、騎士団長そしてAランク以上の冒険者で対処すれば、一人の犠牲者無く勝利することだろう! ただ勝つことだけを考え剣を振るえ!!」
勇者ウィザードのパーティーが遅れて到着する。
「さすがはキルガーロン殿この場の不安と畏れを消し飛ばす見事な覇気だ!」
スタンリーがキルガーロンの指揮力を賞賛する。
「勇者の俺が来たってのに!誰でも気が付きもしねぇのな。」
ふて腐れるウィルにローレリアが答える。
「当たり前じゃない、あの方の人気と名声はこの国の国王よりも高い竜殺しの英雄よ!」
しかし、その奮起の歓声に一瞬で静寂が訪れる。そう、空から聞こえた、その怒声に誰もが忘れていた畏れを呼び戻す。
「ウィルザード!!この俺様が来たぞ!!!!!」
ウィルは驚きの言葉を漏らす「まさか……まおう……」
それの呟きを聞いた冒険者達が叫ぶ。「まっ!魔王だぁーー!!!」
その叫びに腰を抜かす者や、その場から逃げ出そうとする者まで出て来た。「ひぃいいいい!」
勇者の前には何時しか魔王への道が開く、その瞬間ウィルの酔いは完全に醒めその眼孔に火が灯り神聖剣を構える、っと同時にローレリア、スタンリー、レイソルも戦闘態勢に入る。
「ここに来たってとこは、俺に消される覚悟が出来たのか、ガルディオ…………!?その手にしている物は何だ?」
魔王はやっと気が付いたかと、とても嬉しそうに手にするその黒々と輝きこの世物とは思えないほど禍々しいオーラを放つそれを見せびらかす。
「こいつか?造った奴によると、刀の名前は『炎魔刀ヴォルガディス』俺にでも振るうことの出来る武器らしい。俺の心臓を穿った見返りにウィルザード!お前のいるこの国を刀の試し切りに使わせて貰おう!」
「つく、った、だと……ローレリア!!周囲に防御障壁を二重、いや!三重貼れ!!」
「おい!ウィル話が違げぇじゃあねぇか!何だあの武器はあんなヤバそうなの見たことねぇぞ!!」レイソルが叫ぶ。
すると、ガルディオンは躊躇無く炎魔刀ヴォルガディスを渾身の力で振るった。
「スタンリー!!二人を守れ!」
ウィルはそう叫ぶと神聖剣ル・グランと共に周囲を光で包み込んだ。しかし、炎魔刀ヴォルガディスの放ったドス黒い炎がグランゼール全体をドーム状に包み込む。
「でかい……」誰もが呟く。
「何故だ!何故何だぁーーーー」ウィルの悲痛の声は魔王に届く筈もない。
グツグツと煮たつマグマのようにグランゼールの跡地は変わり果て、そこには建物の影すらなく灰が細かい灰が燃えながら舞う。
「クックックハッハハハーハ、これだ!これは素晴らしい最高だ!俺はさいきよ、う?」すると、バリンと音を立て刀が粉々になった。
「なん、だとーーーー!!!」




