第三十三話 イメージと違う!!
━━━━インデルバル上空━━━━
「了解シマシタ!」
「『広域振動伝達音』魔軍将ニ告グ、直ニ撤退セヨ魔王様ガウゴカレタ!」
━━━━インデルバル商店街━━━━
キーンと耳がなり、すぐにバイラスの声がインデルバルにいる全ての者に伝わる。
「うぅぅ、何だ!? 何処から聴こえる! 魔王が来る?どういう事だ!」
リフは何処からから聴こえて来る硬質な声に辺りをキョロキョロと見やり吠える。
「えっ、もう時間が来てしまったのですか!? ハァー結局、一人しか捕獲出来ませんでした。」
シアンは沢山の加護を集めて、魔王に褒めて貰おうとしていたのでガクンっと肩を落とす。
「本当に五月蝿い小僧だ、この様な状態で良くそこまで吠えていられるのか不思議な位だ。 おい、鬼姫お前の持っているそいつの様にこいつも出来ぬか?」
メリューサは何度か蛇眼で殺されかけていることにも気が付かず、休止叫び続けるリフに嫌気がさす。
「冷静に、冷静に……何度も言わせないで下さい、私はシアンです! これはかなり魔素を消耗するので、魔素の回復が見込めない人間の大陸での連続使用は丁重に御断りしますわ。」
自分の感情を制御することを覚えたシアンは必死に怒りを抑え、メリューサの頼みを断る。
「ふん、使えんな!鬼姫の小娘は! まあいい、そいつは見るからに冷たそうだ。」
「また言った!! 死ねや蛇糞婆……」
ボソッとシアンは呟く。
「うん?何か言ったか? 小娘。」
「いえ、何でもありませんわ……冷静に。」
「んっ、ミストラルの女がようやく霧を解除したようだ。 全く転送魔法が使えとは厄介な。」
転送魔法を使えば、バイラス達に攻撃を受けるため、素材回収後はインデルバルの正門に集まることになっていた。
「深夜の奇襲も隠密行動も全てヴァンパイアロード様とタイタニス様へのガルディオン様の配慮、その程度の労力は当たり前ですわ。『氷の街道』、『氷の刃靴』」
シアンは路面を凍らせ、氷のスケート靴を造形魔法で作り出し、片手でゴードンを持ち上げながら滑走していく。
「何をする!?寒いではないか!待て、この氷を溶かせ!」
蛇妃は寒さに弱い、それはメリューサも例外無く同じ、メリューサはシアンが凍らせた道を火属性中位魔法で溶かし怒りながらシアンの後を追って正門へ向かって行った。
━━━━インデルバル住宅街━━━━
一瞬の出来事だった、呻き声を上げ横たわる魔法騎士達、立っているのはアルスとマグナ、そしてリングス侯爵のみ。
目の前に三人の前に立つ、ライオットの腕は十本に増えていた。
「ほう、人間に今のを避す者がいようとは、酒呑み……同等と言っていな、もしやバッカスを知っているのか?」
ライオットはリングス侯爵が溢した言葉を聞き流さなかった。
「一戦を交えた事がある……あれほど槍の使い手は今まで見たことがない優れた戦士、いや武人であった……あの行動と言動さえなければだがな! かつて、あれほどに侮辱を受けた戦いは無い!!」
リングス侯爵はバッカスとの戦いを思い出したのか、その時の怒りで剣を握る手に力が籠り雷光が迸る。
「武人……魔族を人として扱うか? フッ面白い、吾も奴には何度か屈辱を味会わされた貴殿の心中を察する。 貴殿!名を名乗れ、バッカスと剣を交え生き残った力を魅せて貰おうか!! バッカスは、今制御が出来る限界、四十四本の腕を吾に出させたが、貴殿らは何本まで耐えることが出来るかな?」
ライオットは魔軍将バッカスと対峙して生き残ったリングス侯爵を強者と認識して更に腕を二本の増やす、心なしかその顔には笑みが見える。
「我名はベスター・リングス! んっ!何だ━━━━」
リングス侯爵が名乗ってすぐ、キーンと耳が鳴り硬質な声が聴こえる。
「吾としたことが、興に流されてしまって時間を無駄にした! 貴殿らに構う暇が無くなったこれで失礼する。 ベスター・リングス!もう手合わせすることも叶わぬがその名は覚えておこう!」
ライオットはバイラスの声を聞くやいなや、慌てた様子で石畳の道を蹴り砕き物凄い速さで撤退して行った。
「なんというスピード、命拾いしたかも知れぬな……」
ライオットの余りも速い撤退にアルスとマグナはポカンと佇む。
「霧が晴れて来た、んっ!視覚強化魔法……やはり少数ではあるが上空に伏兵がいたか……マグナ!何を呆けている!!アルスと共にまだ息のある騎士の手当てをしろ! ワシは先ほど聞こえた声が気になるゆえ、レグルスを追う!」
「はっ!了解しました!」
「雷装脚力強化魔法『快速の雷靴』!!」
リングス侯爵の白銀のグリーグに雷光が灯ると、ライオットに負けぬスピードでリングス侯爵が駆け出した。
━━━━インデルバル正門━━━━
その頃、正門前ではインデルバルに着いたガルディオンとルギナがいた。
「ルギナ、良くやった! どれだけ素材が回収出来たか分からんが、インデルバル内で作戦を実行した者達から順にデルフに魔武器の作成を頼む予定だ。」
「申し訳ありませんが魔王様。 魔素の塊でも無い限り私は武器を持つことが出来無いので、魔武器は必要無いかと思いますが?」
ルギナは霊体である自分に物質を掴むことは不可能と言う。
「そう思うか? ならば魔素の塊を武器とすればいいのではないか? デルフはそれを可能にすると俺は思っているがな!」
「あの小悪魔が実体を持たない武器を作れると言うことですか? それほどまでの信頼を……。」
ルギナは驚きと同時に考え込む。
「あっ!!ルギナ様!?ガルディオン様と二人で何をお話しで!!」
そこへ、シアンが物凄い勢いで滑走して現れた、その後を遅れて物凄い爆音を響かせながらメリューサ、その爆煙を潜り抜けライオットが到着する。
「ルギナ様!やはり抜けがけをォォォオオ〰️〰️」
「何を言っているのだ?お前は?」
着くやいなや睨みをきかせ歩みより、怒り出すシアンにルギナは訳がわからずキョトンとしている。
「何をしているシアン、主君の御前でする事か?」
ライオットがシアンに注意する。
「はぅ!ガルディオン様!?申し訳御座いません。」
シアンはゴードンを地面に下ろし、膝を付き頭を垂れる。
「今はそんな事どうでもよい!あと、どうやら客人が来たようだな?」
「ん?奴はベスター・リングス! 何と、吾の速度に付いて来たのか、さすがはバッカスから生き延びただけはある。」
そこには雷光に全身包まれたリングス侯爵が立っていた、眼前の魔王にその顔は引き吊っていたが、戦意は失ってはいない。
「本当に来ていたのか……」リングス侯爵が呟く。
「ほう、あの人間はあの戦争の生き残りか……良いだろ!お前達は今すぐ撤退しろ! アイツは俺が片付ける。」
深夜だというのに、その刀は月よりも輝く。 しかし、その黄金の輝きは神々しいというよりも禍々しく思える。
ガルディオンはイルガディスを構えた、ルギナ、シアン、メリューサ、ライオット達はそのただならぬ魔素の気配にすぐさまその場を離れた。
「バイラス!!聞こえているか!」
『ハイ聞コエテイマス。』
「直ぐにウルスズ達にもインデルバル周辺から更に遠くへ撤退するように伝えろ!それが終わったらお前達も上空から速やかに撤退いいか!! 俺はお前達の動きを見て魔刀を振るうぞ!」
『了解シマシタ直ニ!』
「何をしようといているのか分からんが!!このベスター・リングスを前にそう容易く事を運べると思うな!!!雷属性上位魔法『雷神に請う使徒の叫び』」
リングス侯爵の聖剣に落ちた雷はそのまま斬戟となった。神々しく白く輝く雷光はガルディオンに直撃する。
「まだだ!魔晶が全てが砕けようとも魔王は私が止めてみせる!!! うぉおおおおおおお!!!」
リングス侯爵の鎧に埋め込まれた魔晶石が一つ又一つと砕けて全てが砕け散った時、攻撃が止んだ。
「まさか、馬鹿な!!あり得ない!!!無傷だと…………」
リングス侯爵は斬戟を放つ前と何一つ変わらない魔王の姿を見て、膝から崩れ落ちる。
「まさか、この大陸にいながら上位魔法を撃てる人間がいるとはな、フッフハハハハ!やはり人間とは面白い。 ふん、バイラス達も逃げたようだな!次は俺の番だ、押し潰されるがいい!」
ガルディオンがイルガディスを振るう、するとヴォルガディスの時と同様にとても強い魔素の波動が広がる。
そして、インデルバル全域を砂塵が包み込んだ。
「何だ!?これはイメージと違う!!俺はもっと、こう、タイタニスの創作魔法の様に岩盤が盛り上がり押し潰す様な感じを……ただ砂埃が舞っただけだし、アイツは生きているみたいだし、後でデルフには説教だ!!」
* * * *
━━━タリタアーリア大平原━━━━
「さすがはガルディオン様!何と禍々しい魔素の波動ですわ!」
「あの魔刀とやらが、これ程とは……」
「フン、魔素質量は確かに大きいが、妾が見るにあれではただの砂に遊びではないか?」
シアン、ライオット、メリューサが逃げながら話をしている。
「貴方達、ゆっくりインデルバルを観察している暇はなさそうよ。」
ルギナが立ち止まり、険しい顔をする。 ルギナの目の前にはタイタニスの肩から降りて来たヴンパイアロードがゆっくりとこちらに向かって来ていた。 その殺気は遠くからでもよく分かるほどだった。
「やっぱり、こうなったわね。 時間を無駄にしたわ。 それじゃあ、貴様ら魔軍将には約束通り穴埋めして貰うわね━━━」
ヴンパイアロードの殺気に魔軍将達の背筋もゾッとして、嫌な緊張感と冷や汗がながれる。
「待て!最上位吸血鬼まだ終わってはいないようだぞ。」
タイタニスはインデルバルを指差し、魔王軍の殺戮を開始しようとしたヴァンパイアロードを止めた。
「何よ、アレは━━━━━」
次回、ヴンパイアロードの見たものとは!? リングス侯爵の運命は如何に━━━




