第三十ニ話 その血は鉄!その氷は愛?
━━━インデルバル商店街 ━━━
「その角の形……テメェはオーガか?」
その身に角を持つ種族は3種族のみ、悪魔種は山羊や羊の様に捻れた角、牛頭族はその名の通り牛の角、そして鬼人族は真っ直ぐ天を衝く様に伸びた角をしている。 このことからゴードンは前に立つ異国の白装束を纏う魔族を鬼人族と判断した。
「……」
アクアマリンの瞳と髪を持つ白きオーガは不機嫌そうに首を傾げる。
「クソが無視とは良い度胸じゃねぇか!! って言っても俺は魔族でも女相手に本気にはなれねぇ、おまけに飛び抜けて美人ときた、ったく本当にツイてねぇな、オイ!!」
「何を言っているのかよく分かりませんが、もう一度お聞きします貴方は加護をお持ちですの?」
「そんな事言う訳ねぇだろクソ女、こっちはなぁクソ魔王のせいで俺の尊敬する先輩が行方不明でイラついてんだ! グランゼールで何があったか話して貰おうじゃねぇか?」
ゴードンは短剣を手に取り白きオーガに向ける。 白きオーガは何やらプルプルと震えて次の瞬間爆発する。
「ガルディオン様の何処が糞だぁ!!糞なのは貴様の方だぁ!『氷華葬!!!』」
その魔力は上位魔法級だろうか、白きオーガの腕に巻き上がった水流がゴードンに放たれ、それは地を這いまるで花が開花する様に凍って行き無数の氷の刃となってゴードンを襲った。
「何だと、氷!?加護か!」ゴードンの視界に広がる無数の氷の刃、既に避わす事など不可能。
「私は人間ごときに何と侮辱されようと構わないが!ガルディオン様を、私の愛しい御方を侮辱する事は決して赦さんぞ!!! ハァッ!しまった!?私ったら何て事をもし彼に加護があったらどうしましょう……。」
顔を抑えて落ち込む白きオーガ、っと怒鳴り声が聞こえる。
「いきなり何しやがんだぁクソ女!! 見た目は女だがやっぱりオーガはオーガだな!!」
「今ので生きていますの?……フッフフフ♪どうやら、今日の私は運が良い様ですガルディオン様! そう言えば、名乗っていませんでしたね。私は魔王軍が魔軍将鬼姫のシアンです。 大人しく、捕まってはくれませんか?」
怒りながら霧と冷気を抜け出て来たゴードンの身体を見て、シアンはそれが加護であることに違いないと判断する。
ゴードンは自らその肩に短剣を突き立て、加護による防御に成功した。 彼の加護【鉄血】ゴードン曰く、「それは絶対防御『血染めの装甲』は如何なる攻撃も弾き返す」との事らしい。
「魔軍将……(オーグレス、オーガの上位か?聞いたことねぇな、初めて相手にするが一対一で戦って勝てるか?とりあえず、アイツはオーガ同様怒り安いことがわかった揺さぶるか。)━━━俺が大人しく見えるか?だとしたら侵害だ!オーグレスと言ったな!お前、クソ魔王に惚れているようだがな、ハァ!見た目は美人くても、そんなせっかちで乱暴だと相手に何かされねぇだろうな!」
そう、鬼人族は生まれながらに皆が短気で生まれてくる者が多い、鬼姫であってもその気質変わらなく、ベリルと同様にシアンも魔王の事となると見境が無くなる。 経験からそれをいち早く察知したゴードンは格上であろう目の前にいる魔族への勝機をそこ見出だし、肩に刺さる短剣を抜き挑発する。
「えっ、ちょっと待って……今何て言ったの?」
シアンはゴードンの挑発にピクッと耳を立て、聞き返す。
「聞こえてんだろうが、クソ魔王って言ったんだよ!」
「違う!!!その後に言ったことです!、せっかちで、らっ……乱暴だと!なっ何故相手にされぬのでしょうか?」
シアンは必死に怒りを抑えて、言葉の意味を聞こうとしているようだ。
ゴードンはイメージと違う反応に少し戸惑ったが、その問いに更に挑発を加えてシアンに突き付ける。
「そりゃあ~そうだろうよ!強い男っていうのは、決して声をあらげる事のないおしとやかで、自分の一歩、二歩後ろを下がって歩くそんな女を横に置きたいもんだ。」
「そっ、そんな!それでは……あの女ぁ〰️、うっううわあああぁぁ〰️」
シアンの頭にはいつも魔王の一歩、二歩後ろにいるルギナの事を思い浮かべて涙を流した。流れた涙は氷の玉になって地面を転がる。
「オイ何だ?いきなり泣き出して何が起こった?」
「ヒクッ、冷静に、冷静に……わかりましたわ貴方の問にもお答えします。ヒクッ、私はグランゼールに行っていないから詳しい状況までは分かりませんが……でも、グランゼールはガルディオン様が小悪魔が作った魔剣を使用して滅ぼしたようです。」
「いきなり何だぁ、小悪魔だと!ちっ、ふざけるな!!悪いが魔軍将と聞いた以上、女だからといって手加減する訳にはいかねぇ。」
そう言うと、ゴードンの服を覆う血が変形していく。
ゴードン曰くそれは変幻自在の最強兵器『血の塊刃』
ゴードンが血を刃と変え空きだらけのシアンに斬りかかろうとした時、凍える様な寒気が襲う。
「何だと!?空気が凍って行く、がぁはっ━━━」
「ありがとうございました! 私の至らない点に付いての指摘とても参考になりました。そして、見えていなかった恋敵まで見つけてくれて何とお礼をすれば良いのやら、ですが、貴方が加護を持っていると知った上で逃がしてしまっては、それこそガルディオン様に嫌われてしまいます。 せめて、痛みの無い捕縛を『凍える空間・内部凍結保存』」
ゴードンはその場で動か無くなり、その身体は白く霜で覆われていた。
「本当は魔獣を腐らせない様に使う魔法でしたけど上手くいきましたわ♪」
すると、シアンのとなりにあった高級硝子店から何かデカいモノが燃えながらぶっ飛んできた。
「何!?」
ぶっ飛んできたモノは魔導機兵、そして大破した高級硝子店からシュルシュルとシアンの方へ向かって来るのはそうメリューサだった。
「あら、颯爽と出ていった割にはまだこんな所にいたの鬼姫?」
「メリューサ様!私の名前はシアンです!せっかく捕獲した人間をもう少しで殺してしまうところだったじゃないですか!? もう少し慎重に動いて下さい。」
あわや、捕らえたばかりのゴードンをぺしゃんこにされそうになったシアンはカンカン。
「妾に命令するな!そんな所にいた貴方が悪い、それとサイレスは精神支配の様なもの一度かかった者はそう簡単には起きることはない慎重に行動する必要が何処にあるの?」
メリューサは至って毅然とした態度をとる。しかし、その手には何やら暴れる者を連れていた。
「離せ!!ボクのゴーレムがお前何かに負ける筈がない起きろ!起きて早くボクを助けろ!」
メリューサ首根っ子を掴まれ暴れる少年、それはリフだった。
リフの命令で燃えながらに動こうとする魔導機兵だがあっちこっち部品が壊れているので立つことができない。
「五月蝿い、小僧だ殺してしまおうか?」
「駄目です!加護を持った人間はめったにいないと聞きますから!それはガルディオン様が欲している大切な人間ですわ!」
「なっ!ゴードンさん!?何突っ立っているんですか!ちょっとこんな時まで冗談は止めて下さいよ……クソ!何で他の魔導機兵にコンタクト出来ないんだ!!!」
ゴードンはゴールドスリープ状態、頼みのゴーレム達とはルギナの霧によってコンタクトが取れない。
「そう、この方とお知り合いですの? この方は中々珍しい加護をお持ちでしたわ。」
と言うと、シアンはヒョイッとゴードンを片手で持ち上げ歩き出す。 メリューサも暴れるリフを鬱陶しく思いながも探索に戻った。
━━━━━タリタアーリア大平原━━━━
「さぁ、行くとしようか!」
ガルディオンはそう言うと、金剛哭刀イルガディスの刀身を包む巻布をゆっくりと外した。
「やっと、始まるのね?待ちくたびれて帰ろうかと思ったわ。」
最上位悪魔が退屈そうにあくびをしながら言った。
「バイラス!聞いているか?━━━準備は整った今から行く。 魔軍将達を撤退させろ!」
次回ついに、振るわれるデルフの作った新しい魔刀!!
シアンの技名はもっと中二感を出したい改良の余地ありです。あの、ゴードンとの出会いの後シアンの口癖は「冷静に!」になったそう。 なお、シアンの恋について今後本編では進行しない予定ですm(__)m
っと言うことで3月20日にシアンの技名を改定しました。 中々、いい響きになったと思います。
本編ではルギナ側のストーリー展開が主流かな、もし書くとしたら、息抜き枠で今考えている設定の『夜の蝶カンザス』と同様におまけかな。




