第三十一話 雷帝と魔法騎士
「集まったか、先程の住宅街から聞こえた爆発音とこの霧……敵襲とみて間違いないだろう! 応援来たA級冒険者達が先に動いてくれている。 我らも彼らに続くぞ!」
リングス侯爵は魔法騎士を招集して、指揮をとる。 しかし、インデルバル兵のほとんどが遠征に出ているので、集まった人数は数20人も満たない。
「皆!馬に乗り、リングス殿下に続けぇ!」リーダーらしき男が言うと、皆リングス侯爵の後ろに付く。
「待て……その槍を貸せ!」後ろに付いた騎士から槍を貰うリングス侯爵、すると彼は強化魔法かけ矛先を天空に向け槍を構える。「『筋力増幅魔法』!!」
魔法騎士達はリングス侯爵が何をするのかいち早く察知して、リングス侯爵の側から少し離れた。
リングス侯爵の身体から蒼白い光が流れ始め、バチバチと音を立てるその光はリングス邸の石畳の床を砕き、次の瞬間━━槍は閃光となり霧を巻き上げながら真っ直ぐ天を貫いた。
「おお!初めて見た。あれが王国騎士を束ねる王国騎士団長にまで上り詰めたリングス殿下の加護『雷装』!!」
「人魔大戦時に活躍された生きる伝説の一人。 さすがは国王から侯爵という爵位と『雷帝』の称号を与えられた御方、退役されここインデルバルの領地を任された今も尚その武勇は健在ですな。」
そのリングス侯爵の空に放った一撃は才能ある選ばれた騎士達から見ても称賛の声が上がる。
「アルス!何か見えたか?」リングス侯爵はアルスという騎士に問いかける。
「いえ、申し訳ありません殿下!まるで私達を閉じ込めているかのようにすぐに霧が戻り、何も見つけることは出来ませんでした。」
リングス侯爵の一撃は上空に敵の伏兵がいないか確認するためのモノだった。 阿吽の呼吸で、それを察知した騎士アルスは視覚強化魔法を使用して空の様子を凝視していた。
「悪魔や竜の軍勢を置いているかと思ったが……しかし、これでこの霧が人工的なものであるとわかったな、雷装の威力も多少上がっている気がする。 皆!この霧を余り吸わない様に防魔防毒面を着けよ。魔素は勿論、弱体化魔法や毒魔法を乗せているやも知れん。」
そう言うと、リングス侯爵は天を仰ぎ見て呟く。
「こちらの位置は今のでわかっただろうに、攻撃はして来んか……(何かが可笑しい……インデルバル全域を包んでいるであろうこの霧といい、襲撃にしては先程の爆発音の後に何も聞こえて来ない。)」
スコルピオンマスクという魔法道具は装着してから人間の大陸で約1日、空気中の魔素を99%カットして多少の解毒作用も付いている。
暗黒大陸を抜ける氷雪地帯のある反対の大陸へ向かう時にしている。 暗黒大陸では約6時間までの使用と決められ過ぎれば命の保証は出来ないとされている。6時間で暗黒大陸を抜けるのは、まず無理なので一人2個以上は所持しなくてならない一個グランゼール貨幣だとグラン白金貨1枚(約100万)、暗黒大陸の探索や北の大陸の交易品はそれだけの価値があることを示している。
その毒々しい名前の由来は単純に蠍のような形をしていることからだ。
* * * *
━━━インデルバル上空━━━
「うん?バイラスさん、何か出て来るぞ!」
キハーダ霧の動きが変わったのを見て、バイラスにも注意を促す。
「リポート、デハ無イゾ!アレハ━━」
すると、物凄い勢いで霧を破り雷がキハーダとバイラスの間を通り抜けた。
「アレハ槍ダ、攻撃ヲシカケテキタカ?」
「あの霧は魔素の完全気配遮断だろ?その中にいながらこちらに気が付くだと!いやまさか?ハハハ、そんな化け物が人間にいるはず無いぜ。」
「ソウテイガイダ、魔王様ニ報告シテ指示ヲアオグ━━位置捕捉、『振動伝達音』!!」
「魔王サマ、テキノ攻撃トオモハレル、槍ノ通過ヲ確認イカガシマスカ?」
『もう少ししたら俺が向かう。 お前達はそのまま空で待機し、転移魔法する者だけを撃ち落とせ。 また攻撃が来たら伝えろ。』
「了解シマシタ━━━キハーダ、ココデ待機ダ。」
「ハハハ!まっ、焦ることないわな~りょーかい。」
バイラスは空気の振動により遥か遠くにその声を届けることも聞くこと可能だ、しかし、他に騒音の無い場所に限る。
* * * *
━━━インデルバル住宅街━━━
「何だ!アイツ腕が生えた!!」
マルクスがライオットの加護を見て思わず声を出す。
「馬鹿!喋るなっ!」
ヤーンが叫ぶ。
「ふん、子供騙しか触れれば投影が実体を持たない事がわかってしまう逃げる事を優先にするのならもっと良い使い方があったろうに……獣人の五感とは人間のソレとは比べるに値しないほど発達している例えば足音や話声それはどの辺りから聞こえて来るのか?視界が悪かろうと大方把握する事が出来る、そして━━━」
まるで指導するかのような口調で独り言を言うと、次の瞬間ライオットはヤーンの後ろに移動していた。
「えっ!?」
ヤーンが気が付いた時にはもう既にライオットの鋭い爪が喉笛を掻ききられた後だった。
「そう獣人を相手にするのなら、もっと落ち着き冷静に動くことだ。」
「ヤーーーン!?クソがっ、火属性中位魔法『爆炎』!!」
怒りに任せてマルクスがロッドを構えライオットに向けて魔法を放つ。
「先程言わなかったか?声を出せば位置が分かると━━━」
マルクスが渾身力を込めて撃った魔法はライオットの掌で弾けたが、まるで何事もなかったかのように注意を聞かなかったマルクスを睨み付けるライオット。
「ばっ、けっば化け物~!!」
ライオットに背を向けて逃げ出そうとするマルクスに対してライオットが呟く。
「魔法の撃ち方を教えてやろう、背を向けていては避けることは出来んぞ雷属性上位魔法『昇りつめたる雷公』」
ライオットの爪に蓄積した雷が地面を抉りながら、マルクス目掛けて五つの雷撃となり襲いかかる。
「ぐぅわわわわああああぁぁっ!」
マルクスの魔法の時とは比べモノにならい爆発音がインデルバルに響き、血の滲むヤーンと焼け焦げたマルクスが路地に転がる。
「放せっ!!」
ノートンは爆発音を聞き、必死で前だけ見て走るニックの手を払い、圧倒的な強者と戦う仲間の元へ向かおうとする。
「ダメだ!ノートン君!!」
「お前もあの爆発音が聞こえただろ!マルクスが魔法を使ったんだ……分かるだろ! お前の加護は奴には通用しない!すぐに追い付かれる!!なら━━━━」
ノートンは後ろにあの時と同じ王者の気配を感じる、ニックはガクガク震えて膝から崩れ落ちる。
「はっ!?」
「マルクス、ヤーン……『筋力増幅魔法』、『脚力強化魔法』覚えておけ獣人野郎!!俺はインデルバル最強の魔法騎士なる男だぁ!!!」
剣は逃げる際に落としてきたノートンは自らに強化魔法かけ、ゆっくりとこちらに向かって来るライオットに向かって駆け出す。
「吾に拳で向かって来るか? このような判断力に欠ける童に武器を持たせ騎士を名乗らせるとは人間とは実に不快だ……哀れな童よ!己が師を呪うがいい!!千獣王拳獣拳壁」
攻撃こそ最大の防御を掲げるライオット曰く、武器に頼ること無く研ぎ澄まされた感覚と圧倒的な手数で敵を圧倒する己の拳こそ最大にして最強の武器である!っという。
その言葉道理、ノートンの目の前には無数のライオットの拳が広がり、その拳圧に圧され踏み出した足を止めてしまうほどだった。
何かとてつもなくデカくて硬いモノに叩き付けられた様な衝撃がノートンの全身を走り、その身体はまるで紙のように宙に浮く。
「ぐっあはっ!!」
「ノートン、くん……」
ニックは最早、恐怖で動くことができない。
「抵抗はしないことだ!殺してしまっては意味がないらしいからな。」
ニックの顔面を掴み持ち上げ歩き出す、よほどの恐怖を味わったのかニックに抵抗する仕草はみられない。
「んっ?何か来るな……」
ライオットは立ち止まり、多くの足音の聞こえる方へ目を凝らす。
「止まれ!」
それは馬に乗って現れたリングス侯爵と魔法騎士達だった。
「その青年を離せ!!」
目の前に佇み青年捕らえいる魔族にリングス侯爵が怒鳴る。っとその後ろで路上に転がる全身は青く腫れ上がりボロボロの死体を見て、一人の魔法騎士が叫ぶ。
「ノートン!!ノートンなのか!?」
「アルス二等!待てどうしたお前らしくない隊列を乱すな死ぬぞ!」
いきなり、飛び出して行きそうなるアルスの腕を隊長が掴み止める。
「ぐぅ、マグナ隊長……彼処に転がる死体は恐らく私の弟です。」
アルスは何とか怒りを抑えている。
「何だと……しかし、今隊列を乱せば我々もお前の弟と同じようになるだろう、俺の見立てが正しければ今、我々の前に立つ魔族は上位魔族の中でも最強の戦闘力を持つという獅子王だ。」
「マグナ、お前の言う通り魔族は獅子王だろうな。 恐らく兵の数を増やした所で勝算は変わらんお前達第一部隊残して良かったと今心から思うぞ! アルス!!お前の弟のことは残念だ、生きていれば必ずお前と肩を列べる騎士になったであろう!その怒りを力に変えろ!!」
リングス侯爵は聖剣を抜き、雷纏わせる。魔法騎士達も戦闘体勢に入った。
「もう、話は済んだ様だな! そちらはこの童達とは違い正式なインデルバルの騎士と見受ける。吾は魔王軍が魔軍将獅子王のライオットである。 この童の名を知っている者がいるようだが、師であるのなら前へ出よ騎士として剣を握るに値するか見てやろ。」
魔軍将という言葉に部隊が一瞬ざわつく。っとリングス侯爵が一言呟く。
「『酒嵐の黒槍』と同等か━━━」
『酒嵐の黒槍』とは元魔軍将バッカスの事です。 彼の口癖は「いつでもオレは絶体絶命故に最強、故に無敵!!」、酒を呑みながら躍る様にアダマンタイトのトライデントを振るう様から人間達が付けたあだ名、神聖属性付きのミスリルで出来た装備は魔族である自分の魔素をあえて削り、危機的状態化を楽しむ戦闘狂だったとか。




