第三十話 獅子王なる武人
「すっ、すごいです魔王様!ライオット様から魔法道具がどんどん送られて来ます。」
少し怒っているのか、興奮しているデルフを横目にそれがどうしたという感じでスルーするガルディオン。
「これは紅蓮晶!?、温熱機や加熱機器に使用しているのかな? うん?こっちは氷結晶だ!冷蔵庫か冷凍庫かな?お!?白迅鉄と合わせて使用していたのかな?やっぱり冷凍庫だ! しかし、凄いですよ!人間の魔法道具には貴重な属性付きの魔鉱しかもかなり純度の高いモノが使われていますよ!!」
目を輝かせてスクラップを物色していくデルフを見て、他のモノは何をそこまで興奮しているのかわからない様子だ。
「そうか、それでその珍しい魔鉱とやらは魔軍将達の武器に使えるのか?」
ガルディオンが口を開く。
「はい!素材としては十分かと思います! いや~♪これだけ純度の高い属性付きの珍しい魔鉱を、魔素少ない人間の大陸でどうやってこんなに沢山集めたのか、そして人間の魔法道具これは魔族が使う物よりずっと性能が良さそうですね! やっぱり、魔素が自由に使えない人間だからこそ、こうした魔法道具の研究が進んでいるのですかね? あっそうか!そういえば、ガルシア師匠の書物にあった錬金術という方法の中に魔鉱の魔素量を上げる方法と書いてあったような……確か内容はとても難しいく失敗すればただの石ころになるとかだったような。 もし、簡単に魔鉱しかも属性付きの魔鉱の魔素量を引き上げれたとすれば、これは一気に皮金の素材不足の解消に繋がりますよ!!」
デルフは弾丸のような早口でペラペラと呪文のように喋っている。
「そっ、そうか……ならよい。(よくわからんが、深く聞かんでもまあいいか。 あと、暗黒大陸を出るとやはり魔素の回復速度が落ちるなもう少し休んだら、フルパワーで魔刀を振るうとしよう。」
「これは、雷煌鉄!このビリビリとした感じ相当、雷の魔素を溜めているに違いない、おお!そして、魔素の吸収力と循環を助ける翡翠晶これは……ぶつぶつぶつぶつ。」
デルフの呪文は仕分けが全て終わるまで続くのだろうと、皆が呆れた様子で無視している。
* * * *
「おい、どうする。あれは獣人……魔族がいるぞ。」
霧がかかった見ずらい環境でその四人の若者達は皆が寝静まる民家に入っては何かしている獣人を追っている。
「奴は一匹のようだが、どうだ……見えるか?マルクス。」
気が付かれないようにヒソヒソと話をする若者達。
「この霧はどうやら、魔素の感知を遮断しているらしい……俺の感知魔法じゃ他に敵がいるかはわからない。 奴がこの霧を操っていないとすれば、どこか近くにいる可能は十分にあるな。」
「まっ、マルクス君がそう言うなら、しっ、慎重に動いた方がいいよね、あっ、あの魔族がもし上位魔族だったら僕達じゃあ敵わないよねノートン君……。」
「見る限り、アイツはどうやら魔法道具を物色しているようだ……ニック、上位魔族が盗みをすると思うか? もし魔法道具を集めているにしても普通はゴブリンみたいな下位の魔族や部下に任せるだろう? 少し体格はデカイが俺の読みだとアレは猫人族で間違いないだろう。」
ノートンという青年は街灯を壊して袋に詰めている魔族の様子と微かに見える二又の尾を見て下位の魔族、猫人族だと推測した。
「ノートン、まさか俺達で奴を殺る気か? 確かにインデルバルから多くの兵士が駆り出されて今この国にいるのは魔法騎士が数人残るだけだと噂に聞いたが……とりあえずこの事を屯所に伝えに行った方がよくないか?」
「そっ、そうだよノートン君……ヤーン君の言うように屯所に行こうよ、僕達はまだインデルバルの兵士にも成れてないから勝手なことするとお兄さんに怒られちゃうよ……。」
ヤーンという架台のいい青年とニックという気弱そうな青年はこのパーティーのリーダーなのだろう青年ノートンに忠告する。
「確かに、俺達はまだ兵士でもないでも、俺らもやっと今年で18だ次の入団試験で必ず全員採用される為、箔を付けておく必要があると思わないか?」
ノートンは悪い顔をしながら、三人を諭す。
「確かに……、でもなるべく戦闘は避けるべきだよ上位魔族が近くにいたら直ぐに逃げれるようにしとかないとこっちが殺られたら意味がない……俺がサイレスにすぐ気が付いて聴覚保護をお前らにかけれたから良かったがサキュバスはこの近くに必ずいるぞ。」
マルクスは討伐ではなく撃退なら、と心が動くが他に魔族が彷徨いていることが確定している状態での不意討ちを示唆する。
「何弱気なこと言ってるんだ、もし中位悪魔や上位魔族が来ても、こっちにはニックがいるんだニックの加護があれば逃げることだって出来る、俺達は魔法騎士を目指してるんだろ、俺の兄貴の部隊は上位魔族の上位巨人族を仕留めたんだ。 俺達だって上位魔族にビビっていられるかよ……しかも相手は下位だ俺達なら必ず殺れる。」
皆の顔つきが変わる、どうやらノートンの話に乗るらしい。
「覚悟は出来たか?」
ノートン問いにマルクスとヤーンの二人が頷き、二人が頷いたのを見てから遅れてニックも頷いた。
「よし、いつも通りの作戦でいくぞ。 マルクスは後方支援を頼む、ヤーンは俺のサポートしつつ敵の注意を逸らしてくれ、そしてニック、お前は少し下がってマルクスを守りながら、敵に増援又は俺達がヤバい状況になった時すぐ加護を発動してくれ……それじゃあ行くぞ!」
ノートン、ヤーン、ニックは腰に携えた鉄製剣を抜き盾を構える、マルクスは魔法使いなのか、緑色の魔晶石が先端に付いたロッドを構え魔法道具を漁る魔族の元へ駆け出す。
「おい!魔族何をしている!!」ノートンが剣を構え、威嚇する。
「何かコソコソしている者がいるとは思っていたが、出てきたか。」
そこにいたのは黄金の鬣が威厳と威圧感を放つ、猫形の獣人だった。
「こっ、コソコソしているのはお前だろう!その魔法道具をどうするつもりだ!(付けていたのがバレていた?……この風貌前に一度見た猫人族とは違う、まさか!上位か!)」
ノートンは対面したからこそわかるその王者の風格に、自分の判断の甘さ噛みしめながら、震える声で虚勢を張る。
「ふん、参ったな観るところ童が四人……主君から任された任務は魔法道具の回収であって人間の捕獲ではないのだがな。」
「何を言ってやがる!大人しくこの国から出て行けっ!さもないと━━━」
口では敵を挑発しているが、剣を握るその手は強張りガタガタと震えている。
「ノートン君!ダメだ!!その魔族はヤバいよっ!逃げよう!」
ニックが叫び、加護を発動した彼のスキルそれは『投影』ノートン、そして他の三人が数十人に増えて映し出された。
ニックは恐怖で全身に力が入り動こうとしないノートンの腕を引き走り出すと同時に叫ぶ。
「屈折して!」
すると、『投影』によって産み出された分身はオリジナルの四人とは違う方向、バラバラに散り始めた。
「これは加護!?、そうか童と遊んでいる時間はないと思ったが、加護を持っているなら話は変わってくるな……千獣王拳━━四肢の構え━━、とりあえず人数分の腕でいいか?」
そう青年達が挑んだ相手こそ、まさに上位魔族の天辺とも言える魔王軍が幹部、魔軍将獅子王のライオットだった。
ライオットは自らの腕を更に二本生やし、自らが編み出した武術『千獣王拳』の構えをとる。
インデルバルの青年達は二つの間違いを起こした。 何一つ危険のない、優秀な兵士や騎士に守られたこの国に生まれた者ならば、本当の強者にあったことの無い者ならば、その判断ミスは仕方の無いことなのかも知れない。 そう圧倒的な経験の無さから生まれた過ち、しかしそれはもう後戻りすることの出来ない後悔念すら掻き消されるほどの地獄絵図を生むこととなる━━━━
インデルバルのくだりは30話で終わらせる予定でしたが、魔軍将を戦わせてみたくなったのであと2~3話続きます。




