第二十九話 捕獲作戦実行!
「何を言ってやがる小悪魔!魔王様が人間を好きだと!!」モノリスが猛り叫ぶ。
ヴァンパイアロードはニタニタと笑い、タイタニスは呆れた顔をしている。
「…………。」側近のベリルは黙ったまま立ち上がり腕を組み目を瞑る。
「デルフ!!ちょっとこっちに来ようか?」ガルディオンはデルフの首根っこを掴んで連れて行く。
「えっ、あっ、はい……」
「いいか、デルフ!俺は下等な人間のことが嫌いだ!脆弱なその身で徒党を組めば技術を研けば、いつか最上位の俺達にも勝てると思っているところは万死に値する。 だから、グランゼールを沈めた。 インデルバルも、タイタニスをリポートして連れて来た時に減った魔素が回復し次第に全力で潰す。よく覚えておけ俺は人間が嫌いだ!」
「はっはい、すみませんでした。」魔王の覇気に萎縮するデルフはペコペコと何度も何度も謝る。
「もう、よかろう。それ始まるぞ!」
ザナドゥがそう言うとインデルバルの灯りが一つまた一つと消え始めた。
* * * *
「メリューサ、サキュバス達に催眠の加護が効かない奴らに出くわしたなら、抗戦せずに即時撤退して私達四人の魔軍将の誰かにその者の位置を伝えるように指示を出してくれ。 私は貴方達の行動範囲を広げるために霧をインデルバル全域に広げる。」ルギナが指示を出す。
ルギナはその妖艶な姿に似合わぬ程の高い指揮力とまさに軍人と言わんばかりの無駄のない動き、そして何より気配や溢れる魔素や魔法を出す時に出る魔力を完全に遮断することが出来る加護により、ベリルと同じように魔王ガルディオンの側近として、勇者襲撃後バルザークの抜けた穴を二人で担っている。
「ふん、上位霊体風情が妾に命令するな! お前達今の話を聞いていたな!三人はサキュバスを指揮しサキュバス達が『悪魔の子守唄』歌っている間に幻術を展開しなさい。」
「はい、かしこまりました。御姉様!」三人はまず固まり灯りが灯っている酒場を襲撃しにいく。
「さぁ、歌いなさい貴女達!」
イルーサの号令でサキュバス達が悪魔の子守唄を歌いながら四方八方に散っていく。
その催眠の乗った歌声を聞いた人々は深き眠りへと誘われて行った。
辺りが静寂とルギナの霧に包まれた頃、エキドナ達の方向感覚を狂わす幻術魔法『ラビリンス』が発動する。
「それじゃ、計画通りに貴女達はこの国から徹底しなさい。」
任務の終え帰って来た部下達にメリューサが指示を出すと、軽く会釈をして妹達とサキュバスはスッーっと霧の中に消えて行った。
すると、一人のサキュバスがメリューサに耳打ちをする。
「そう、この霧と幻術の中で動いていた人間がいたの。」メリューサが呟く。
それが聞こえたシアンがピクッと動きメリューサに問う。
「メリューサ様、ラビリンスの効果時間は?」
「妾の妹達は優秀な幻術使いよ。この作戦中に魔法が消えることはまず無いと思いなさい。 しかし、上位の加護を持つ者がこの国にいるのならば、幻術を掻い潜り脱出する者がいるかもね。」
自分の部下の有能さを誇らしげに話して、完全ではないと注意を促すメリューサ。
「そうですか、では早めに素材を集めて余裕を持って行動した方が良さそうですね。」
そのメリューサの答えにシアンが答える。
「それでは、吾はこの主君から頂いた『奈落の風穴』に貴重な金属が使われていそうな人間の魔法道具を片っ端から回収するとしよう。」
ライオットはそう言うと一人霧の中に消えて行った。
━━━『奈落の風穴』魔王が所持する誰が作ったモノなのかわからない伝説級の魔法道具で古の魔法道具ともいう。
二つの袋が一対になっていて強力な転送魔法で繋がっている。 片方に何かモノを入れるともう片方の袋から入れたモノがバラバラになって出てくる。 超長距離での使用が可能だが入れたモノは必ず破壊されてしまうので移動手段等には使えず手に余っていた代物。━━━
現在もう片方の『奈落の風穴』はデルフが持っていて、ライオットから送られて来たスクラップを魔武器の素材として使える物とそうでない物に仕分けする手筈になっている。
「私は霧に集中する必要がある、派手に動けないので人間の捕獲はメリューサ、シアン、二人に任せます。」
ルギナは今、インデルバル全域をほぼ自分の加護を混ぜた霧で覆っている。これにより内部も外部からも魔素や魔力の感知がされにくくなっている。
「わかりましたわ。 ルギナ様はそこにいて下さい、嗚呼、早くより多くの素材を集めてガルディオン様に褒めていただかなくてわ!」
そう言うと、メリューサに耳打ちしたサキュバスが来た方へ我先にと駆けて行った。
* * * *
━━━━━俺はゴードン・アストマン、今の俺は完全に怒頭に来ている。 あっ、何がそんなにムカつくかって?そりゃあのクソ生意気な餓鬼と組まされたのもそうだが、何より俺が唯一尊敬する男の中の男スタンリーさんが死んだと皆が言いやがる。
クソが!どいつもこいつも、好き勝手に言いやがってあの人は仲間の残して死んだりしねぇ!グランゼールが滅びようが、何が起ころうがあの人の盾は決して砕けないことを俺は知ってる。
一体、どうやったら加護も強化魔法も無しであんな肉体になれるのか?どんな鍛え方をすればああ成れるのか?その身体の傷は人魔大戦を経験したという証と噂される生きる伝説! そんな人が死ぬ筈ねぇんだ!
今は情報を集めるんだ、暗黒大陸に近いこのインデルバルで魔族の動きを探りグランゼールで何があったか、少しでも情報を!そう思いここの傭兵にゴリ押しして就いたのはどうやら当たりだったらしい━━━━
「この歌は……まずい!サイレスか!! 聴覚保護魔法」
俺は耳に手をかざし防御魔法をかけ、サキュバスの歌が聞こえてくる方向へ走った。
「いた!待て!」
サキュバスの方も俺に気が付いたらしい、気に食わねぇな俺と目があった瞬間即座に逃げて行きやがった仕掛け来てとんだ腰抜け、いや━━━
「何だ!おかしいぞ、追いかけているはずなのに少し歌が遠くなり始めた……そうか!幻術魔法か幻惑系統、中位ならワンダラー上位ならラビリンス辺りか?ラビリンスなら上位魔族も彷徨いている可能性があるな。」
さっきから霧もだんだんと濃くなって来ている完全に襲撃だ!歌も止んじまった、だがサキュバスは近くにいるはず!なら━━━
「幻影解除魔法、これで動ける!」
俺は余り解除魔法が得意じゃないから聴覚保護魔法も一緒に解けちまう。でも、サイレスが止んだなら構うことはねぇ。再び、走り出そうとして直ぐそいつは向こうから現れた。
「見つけましたわ人間!それで、貴方は加護はお持ちですの?」
「その角の形……テメェはオーガか?」
俺の前に現れた魔族、ソイツは角の形を見るからにオーガに違いないが、だかソイツにはオーガの特徴と言うべき茶褐色の肌ではなく、こちらに住み着いたエルフのようにいや、それ以上に白く透き通った肌をしていた、何よりもソイツは……雌だった。
どたまとは関西弁であたまの上という意味らしい、文中に出てくる怒頭とはイメージで付けた当て字なので、お間違えの無いよう。




