第二十八話 インデルバル開戦
「待たせたな! ふぅ、さすがに魔素デカいジジイを連れてリポートすると疲れるぞ。」
ガルディオンがタイタニスを連れて現れたのは暗黒大陸を出た先そこはかつて、人魔大戦の戦場となった地『タリタアーリア大平原』よく見ると瓦礫や死骸を包むように草が生い茂っている。
「死海から上がれないラークとダンジョンを任せたザイアス以外は全員集まったな。」
ガルディオンが現れると集まった魔軍将達が膝をつき平伏する。
「本当に来たのね、憤怒の大火」
そう言うとその声の主は8~9mという高さをひょいっと軽くジャンプして最上位巨人族の肩に乗る。
「その名で呼ぶな!最上位吸血鬼、人間が付けた名など耳障りなだけだ。」
「そう?ガルディオンが呼んでいたから認めているのかと思っていたわ、タイタニス。 ふふふっ私は何と呼ばれようと気にならないけどね。」
わざとらしく、名前を強調して言い直す。
「茶化すな、コイツ(ガルディオン)に言っても意味がないから無視しているだけだ!」
「そうか?いい呼び名だと思うがな。 俺様が一番気にった呼び名は『暗黒大陸の覇者』だ! どうだ!格好いいだろ! 人間というのは良いネーミングセンスをしている。はっはははー」
「ふん、やはりお前は愚か者だ!お前には最上位悪魔という尊き名があるにも関わらず、人間の付けた名を褒め称え、ましてはその真似事をするなど、ワシには到底理解しがたいわ!」
「何度も言うが頭が硬いだよジジイは、俺は強いから負けない同様に俺が格好いいと思えば格好いいんだ!簡単なことだろう?」
「何の理屈だ?よくわからんわ!」「それには同感ね。」
タイタニスとヴァンパイアロードの意見が合う。
「ふんっまあいい、言ってわからんなら見せてやる! ベリル!!デルフはちゃんと連れて来ただろうな?」
「はっ!こちらに!」
するとベリルが行けと言わんばかりにデルフを前へ押し出す。
「魔王様、何か」
「インデルバルの外にゴーレムと言う名の魔道具の様な物が配置されているのが見えるか?」
「いっ、いえ私にはインデルバルすら僅かにしか確認することが出来ません。」
「そうか、まあいいがあのゴーレムという金属の塊は、恐らくグランゼールを潰したことで魔王軍を警戒して配備されたのであろう。 その身体を動かす為に魔獣や魔物ましては魔族を核にしているらしい……。」
「はぁ、そうなのですか……。」
「本題はここからだ!あのゴーレムは取り込んだ魔獣や魔物の加護引き出せるようにしているらしい。 俺が何を言いたいかわかるか?」
「えっ、えっと、凄い技術だなと思いますが、わっわかりません……。」
「俺はこのデモンストレーションが終わり次第、ここに集まった者達皆にお前の魔武器を渡そうと思っている。 それにあたり素材不足を改善する為、このインデルバルの人間共の加護が使えないか?デルフお前の意見が聞きたい。」
はっ、と表情を変えデルフが答える。
「人間達を素材にですか……人間の技術とは違うかもしれませんが恐らくは可能かと、ガルシア師匠の集めた書籍には加護とは魔素と遺伝子の結合による恩恵という説が有力と書いてありました。 しかし人間には魔素を保存する器官が無いため生け捕りにする必要があるかと……また、神への信仰心が深い者は神聖属性が邪魔をして魔素の融合が上手くいかず魔武器にならない恐れがあると思います。」
デルフは即座に魔王の考えを理解して、その質問に答えた。
ガルディオンは少し考えて口を開く。
「死ねば魔素がすぐ抜けるか……そういうことならまず、第一陣は幻影魔団!ルギナの加護発動と同時に国への進軍を開始、メリューサのサキュバス達にインデルバルの戦う力の無き者共を速やかに無力化せよ! 騒ぎを立てず事を進めよ、頼むぞルギナ、メリューサ。」
「お任せ下さい。」
「殲滅ならともかく無力化なら妾の出番は無いわね。 お前達、そこの上位霊体種に付いて行ってやりなさい。」
伏した状態でルギナが答え、メリューサはやる気の無さそうに妹達に行けと手を振る。
「はい、御姉様!」答える妹達。
「……。」
メリューサに、お前は来ないのか?と冷たい視線を送るルギナ。 それに気づいたメリューサはハイハイ、行けば良いんでしょという感じで動く。
「ライオット!お前の部下、千獣闘壁団はどうした?」
「はっ、我が領土『リブレジャングル』に戻り、リポートが出来ぬ軍を連れてくるには些か時間がかかるうえ、単騎での参戦をお許し下さい。」
「そうか……良かろう!ではお前はルギナ達と行動し、ルギナ達が国民共無力化してから、インデルバルにあるデルフが武器の素材として使えそうな金属の回収を頼む。」
「御意のままに。」
魔王の命令は強奪それはゴブリン共の専売特許そうしたイメージからか、モノリスとキハーダがクスッと笑う。 しかしライオットは動じず伏して、魔王の指示を受け取る。
「次にシアン!この魔刀の威力がどれ程かまだわからんから、お前の鬼人族達は、インデルバルの外で逃げ出して来る人間共がいないか見張りながら、自らもすぐに逃げれる位置に配備しておけ、そしてシアンはルギナ達に付いて行け。」
「はい、しかしオーガ達の指揮は誰がとりましょう?」
「今、ここに来ている者は族長達であろう。 今の話を聞いていれば、各々その場の状況を判断して行動出来ぬのか?」
「申し訳ございません、失言でした。 ガルディオン様の言う通り、この状況で族長達に指揮官は必要ありません。」
「気にするな、今は少数人でインデルバルの中を探り速やかに強い加護を多く集めたい。 サキュバス達とエキドナ達は幻影魔法を展開し次第撤退。 その後ルギナ・ライオット・シアン・メリューサは素材を回収し帰還。 四人の帰還命令は俺がバイラスに指示を出す、それまでに多くの素材を集めてくれ。」
「了解シタ。四人トモ俺ノ声ガ、イツデモ聞ケルヨウニシテオケ。」
「では私達は行きましょうか━━『完全遮断』」
ルギナの加護、【完全遮断】は【隠蔽】の上位加護でルギナが出した霧の中に入れば、溢れる魔素や魔力を感知できなくなる。
ライオット、シアン、メリューサ、妹達とサキュバスがルギナの作った霧の中に入ってインデルバルへの進軍を開始した。
「次に第二陣に機動力に長けた、不死の軍勢はウルズスを筆頭に人狼族でインデルバルの裏手に回れ、ヴィーナスお前も付いて行きサポートしろ。」
「はっ!かしこまりました!!」
ウルズスとヴィーナスは伏したまま顔を上げ、答えるとすぐに立ち上がりヴィーナスがウルズスに話かける。
「インデルバルに魔素感知の優れた者がいるかもしれない、十分インデルバルから距離を取り移動しましょう。」
「ああ、奴らに俺らの動きがバレれば大失態だ!了解した。」
ウルズスはヴィーナスに賛同して、親指と人差し指を口に添え口笛を鳴らて走りだす。 すると、伏していたウルズスの部下の人狼族10人が続き動く、ヴィーナスはその後ろを付いて行った。
「万が一インデルバルから逃げ出た者がいた場合に備え、ザナドゥは死霊騎士団達をいつでも動かせれるようにインデルバル付近の地中に呼び寄せておいてくれ。」
「ワシとこやつはここに残ればよいかの?」
「目的は破壊ではない、とりあえずザナドゥはここで観戦しておいてくれ、そいつを動かすかはお前の判断に任せる。」
黒き上位死霊騎士ガネルは不気味に伏したまま頭を垂れる。
「最後にキハーダとバイラスはもしリポートを使う奴らがいたらお前らの加護で撃ち落とせ!」
「了解でーす。ガルディオンさん!」
「了解シタ、全テ撃チ落トソウ。」
キハーダとバイラスが答える。
「あっ、あの~魔王様、俺は何をすれば……。」
不安そうにモノリスが問う。
「んっ、お前は目立からここで待機だ。」
「そっ、そんなぁ~暴れるつもりで準備をしたのに……。」ガクッと肩を落とすモノリス、そして何よりタイタニスの方をしきりに見てはとても居心地が悪そうな顔をしている。
皆が配置に付いた中、デルフがぽろっと口ずさむ。
「けど、本当によろしいですか?魔王様は人間がお好きなのでは?」
その言葉に魔王を含め、その場にいる最上位達と残されてたモノリスはきょとんとする。
「えっ?」「はぁ!」「へっ?」「ん?」「うん?」「……。」
* * * * *
そんな中で深夜0時を過ぎた頃作戦が実行される。
「では、灯りが多い所から制圧にかかるとしましょう。 インデルバルを完全な闇に包み次第合図を送ます。 ライオットとシアンは私の霧の中で待機を。」
ルギナが指示を出し、メリューサが妹達アルーサ、イルーサ、ウルーサとサキュバス数十人を連れてインデルバルの中に潜入する。




