第二十七話 インデルバル候国
その国、小国ながらも高い兵力と、インデルバル周辺で獲れるススキのような猫じゃらしにも似た草、キミドリ草を灰して造る綺麗な翡翠色の高級硝子細工『インデグラス』で国を守り立てている。
だが、国が豊かになったのはつい最近の話で昔はとても貧しい国だった。
リングス侯爵は今でも城では無く、インデルバルでは一番大きな屋敷に住んでいる。 国を囲む城壁は無く、気高く統率の取れたインデルバルの騎士達によって治安が保たれている。 中でもインデルバルの魔法騎士といったら子供から大人まで誰もが憧れる職業だ。
それと言うのもリングス侯爵の機転により、フィルムバーグに拠点を置く3つの大規模組合のうち二つのギルド、商業組合アーキナイト商会と産業組合ワークス・ワークカンパニー(W・W)に国の財政再建の依頼出してからだ。
最初に動いたのがW・Wのギルドマスター、『ウィリアム・ウォーカー』ドワーフである彼が目をつけたのがキミドリ草、その時は誰もがその草からあれほど美しい硝子が生まれるとは思いもしなかったと言う。
キミドリ草を元にした硝子が出来てからの再建は早かった、最初は渋っていたアーキナイト商会のギルドマスター、『フィンラル・アーキナイト』も美しい上に床に落としたくらいじゃ割れることの無い最高級の硝子細工『インデグラス』を交易品として扱うこと躊躇うことはなかったと言う。
こうして、インデルバル候国はグランゼール領の国で一二を争う権力を持つ国となり、人魔大戦時の英雄としても名高いリングス侯爵はグランゼール国皇からの絶大の信頼を拝している。
しかし、リーディア法国、W・W、アーキナイト商会とのパイプは太いが自国の兵が優秀なため、もう1つの大規模組合冒険者組合に頼ることなど無いと思っていたリングス侯爵は、周辺各国から支援金と依頼の成功報酬で冒険者達に給料が支払われている冒険者組合に支援金を納めたことが一度もなかった。
「良く来てくれた! まさか、A級冒険者を二人も我が国の防衛に付けてくれるとは思ってもみなかった。 ローソンとリーディアに向かわせた兵、90名もの空いた穴を最悪は残した数人の魔法騎士とワシで何とかしなくてはと考えていたが、A級が二人いてくれれば何とかなりそうだ。」
ヘッド・ウラジールにより、暗黒大陸から近い国や対応に遅れの出る地域から順に高いランクの冒険者を派遣するように指令が出ていた。
「リングス殿下、ボクをそこいらのA級と一緒にして貰ったら困りますよ。 傀儡士のボクが動かす魔導機兵達はS級にも負けない力を持っているのだからね。すでにインデルバルの外に6体、このリングス邸の門の前に2体のゴーレムを配備していますので、ご安心を。」
「おお、噂に聞く魔導機兵か!それは心強い!」
年端もいかない少年の冒険者は隣のテーブルの上に足を乗せ、ふんぞり返ってソファーに座っている明らかに柄の悪いもう一人の冒険者を見ながら言った。
リフ・ラーイングAランク冒険者、彼は若干16歳にして、加護【誘導操作】で魔導機兵達を複数台同時に操る天才傀儡士だ。 支配系統の加護はそれだけでAランク以上の加護と認定される。 特別な加護に恵まれた彼はゴーレム達を操る、策敵と防衛のスペシャリストである。
魔導機兵とは魔素を核つまり、魔獣や魔物あるいは魔族を核に燃料として動く、魔道具の一種、人間の造り出した最新鋭の兵器。 魔族からしてみれば、金属で出来た死霊種のイメージである。
「餓鬼てめぇ、俺に喧嘩打ってんのか!あっ」
ゴードン・アストマンAランク冒険者、彼の加護【鉄血】はその血全てが彼の防具であり、武器でもある。 彼が戦場で血を流せば流すほどに敵は恐怖と苦痛に身悶える。年相応の礼儀を知らない尖ったなりからか、リフに小馬鹿されるヤンキー、年齢は30歳。
「やだなぁ、暑苦しい。 ゴードンさんはボクの足を引っ張らないように、お庭の草むしりでもしていて下さい。 警備はボクの魔導機兵がしっかりとこなすので。」
「殺すぞ餓鬼、お人形遊びが得意かもしれねぇが俺にお気に入りの玩具を壊されたくなければ黙ってろ、カスが!!」
「傷付かなきゃ、使えないカス加護何かで、ボクのスペシャルな魔導機兵が壊せるとは思えないけどね。」
「試して見るか!あっ!!」
リフは傲岸で意地悪な性格、ゴードンは傲慢で血の気の多い性格どちらも不遜で相性は最悪だ。
「おっおい!止めろ!! 喧嘩させる為に冒険者を呼んだのではないぞ!」
「おっと、これは失礼しました、リングス殿下。 馬鹿な大人に構い過ぎました。」
「馬鹿はてめぇだ! リングスさんよ!こんな礼儀の知らねぇガキと組まされたんだ。 報酬はたんと頂くぜ。」
「ハハッやっぱ、馬鹿じゃないか。 報酬は本部と依頼者との交渉により決められている僕達の出る幕じゃないよ。 規約に逆らう気かい? ゴードンさん━━━」
「わかってるよ!そんな事!! クソガキは冗談もわからねぇのか! てめぇ、ギルマスに言ったら殺すぞ!!」
「おっおおぅ、報酬額は冒険者組合との交渉は終わっているが、A級が来てくれたのだ! これからは相応の額の支援金を支払おう。 宿は用意しておいた、今日はゆっくり休んでくれ。(ふぅ、何なんだコイツらはまるでどちらも子供、本当に大丈夫だろうか?)」
「あぁ、そうさせて貰うぜ、もうこのクソガキとは一秒たりとも話たくねぇからな!」
そう言うと、ゴードンはソファーからひょいっと立ち上がり扉へと向かおうとしたがそこで立ち止まった。
「おい、おかしいぞ……」
「何がですか?おかしいのはあなたの頭ですよゴードンさん。」
そんなリフの言葉を無視して窓の外を凝視するゴードン。
「あそこらへんには酒場があった筈だ、まだ深夜0時を過ぎたくらいだっていうのに灯りが全く灯ってねぇ……」
「確かに酒場の辺りに灯りは見えないな……」リングス侯爵もゴードンの言葉に窓の外を見て呟く。
「何でもないですよ!僕のゴーレムには魔力感知機能があるし何もゴーレムからの信号も届いてないんですから、客が来ないから早めに店を閉めたんでしょう。」
すると、ゴードンは疾走とリングス邸の客間から出て酒場の方へと向かって行った。
「ゴーレムには反応は無いと言っているのに、何処まで馬鹿何だ! いや、どうせ酒が飲みたかっただけでしょう……(いやまさか、微かだが魔素の感知はある、でも感知した魔素量はゴブリンの魔力以下、大気中の魔素かゴーレム自体から出ているものだと思っていただけど……)」
リングス侯爵は窓の外を鋭い視線で見つめていて、リフの言葉など耳に入っていないようだった。
「ボクもやることがあるのでこれで失礼します。」
そう言うとリフも客間から出て行った。
「まさか、来たのか━━━」一人客間に残ったリングス侯爵が呟く。




