第二十六話 暗き森の深層の館と火山の巨大都市
オーバーケイル深層の高台に聳える古いが豪華な館の窓から、暗黒大陸から出た、北の氷雪地帯にある人間の帝国、魔族に対して鉄壁の要塞都市『ルークリスタ』の水晶で出来た宮殿と聳え立つ水晶の塔を普通の魔族でも微かにしか見えないが、その少女の眼は確かにそれを捉えている。
「とても美しい、ハァー」
っと、呟きため息をつくのは金目銀目の瞳に真紅に染まるショートボブの髪、生気を一切感じられない、まるで人形の様な美少女。深紅のレースが際立つ黒いドレスはとても美しくも邪悪にも感じられる装いだ。
「七つの水晶結界を一度に破壊出来れば、水晶の城は私の物になるというのに近接ならば一撃なれど、広範囲の正確無比な遠距離攻撃となると専門外。ハァーどうやって奪い取ろうか。」
彼女はおよそ100年間こうして、水晶で出来た魔族に対して絶対の防御壁がある帝国を我が物にしようと策を練り続けている。
「御嬢様、客人がお見栄になられました。」
銀色の目をした執事の様な吸血鬼が言伝てると、真紅の髪の少女は気怠るそうに言う。
「通せ━━」
「またせたな!ホレ見ろ!この魔刀を!!準備は整ったパーティーと行こうじゃないか!紅き地獄よ!」
少女の言葉が終わる前にものすごいハイテンションで部屋に入って来たのは言うまでもなく魔王ガルディオンだ。
「そう、剣でどのような見世物を出してくれるのかは楽しみだけど、もし、つまらなければ魔王軍を潰す、それでよろしくて?ガルディオン。」
対極に少女の方は冷めきっていて淡々と話を進める。
「ああ!構わない!! 新しく編成した魔軍将達は中々の粒揃いそう簡単には潰れんと思うが……まぁー、お前が相手では1時間耐えれれば称賛に値するだろうな! もし、俺のショーがつまらなければ、俺は手を出さない!我が軍はお前の好きにするがいい!!」
「ふふ、私を相手に1時間耐える?冗談でしょ。 でも、もしその話が本当ならば少しは楽しめそうね。」
「おいおい、待て! もし、俺の見せるショーが面白くなかったらの話だぞ! あと、忘れるなよ。明日の完成披露パーティーが気に入ったら俺の傘下に入れよ。 そしたら、お前と魔軍将全員にプレゼントもやるつもりだ。ハッハハハー」
「ふふ、誰が人間に負けた者の下につくか。」
「なっ!負けてなどおらん!!」
「愚弟が死んだのといい、気にはなっていたけど図星みたいね。 その傷、普通隠すでしょう殺られかけたのが見え見えよ。ガルディオン!」
「殺られてなどいない!それにウィルザードは俺がグランゼールごと消し飛ばした!俺の勝ちだ!!ハッハハハー」
「そういうこと、愚弟は勇者に負けたの……」
「ああ、引きこもりのお前にも勇者ウィルザードの噂は届いていたのか? 奴は強かった。 イヤ、神聖剣が凄かった! しかし、今となっては俺の魔刀に敵はいない。ハッハハハー」
「お前はそのままインデルバルへ向かってくれ、俺はジジイのところに火山へ向かう。 じゃあな!ちゃんとインデルバルに行けよ!転送」
怒涛の様にガルディオンは去っていった。
「ふふ、相当な自信ね。ガルディオン、あの憤怒の大火も呼ぶとはね。」
少女の顔に少し笑みがこぼれる。
* * * *
バーデル火山5合目巨人族の国『タイランド』全てにおいてビッグサイズ、宮殿の礼拝堂に座り込み酒を飲むのは9m~10m位ある一際デカイ巨人、黒く靄がかかり悪魔の様にも見えるその肌は強大な魔素を帯び覇気を放っている。
「また来たか最上位悪魔!何しに来た早く帰れ!!」
転送魔法で現れたガルディオンが巨人に近いて行く。
「まだ、こんな所でアトラスの為に酒を酌み交わしているのか? 後、ついこの間来て伝えただろうがパーティーを開くから参加してくれと! 暗黒大陸を出たすぐ先にあるインデルバルという国で明日ショーを開くことになった時間が無い一緒について来い。」
「俺の息子には神祖から頂いた上位巨人という種族名がある。そんな人間被れた名前で呼ぶな!! そして俺は言った筈だ! そんなもんに行くかと!」
「ふん、ジジイは考え方が古くていかんな! お前の息子は俺の付けた名前を気に入っていたがな。」
「バカな息子だ! 何故、アイツを助けなかった?最上位悪魔!お前ならアイツを救えたであろう!!」
「おい、見くびるなよ最上位巨人族! 戦士の闘いに手を出すほど俺は愚か者ではない!!」
「━━━━なるほどな戦士としての心得は持っとったか……息子の最後の闘いはどうだった?」
「ん? 実に豪快、観ていて爽快!殺られ方もとにかく豪快!戦士の名に恥じぬ闘いだった。」
「グッ、グググ、ガッハハハハー、殺られ方も豪快だったか!良いだろう!! インデルバルとやらに付いて行ってやる最上位悪魔。」
「そうか、ジジイやっと気が変わったか!」
「条件付きでだ!国の表に出ろ最上位悪魔!! 中々、俺の力を試せる奴が少なくてなぁ~、俺の創作魔法を受けきることが出来れば、お前のパーティーとやらに出向いてやる。」
「そう来たか!良いだろう久しぶりに本気を出すか、ハッハハハー」
すると、二人は国の外へ移動する。 国の民の上位巨人族や巨人族は首領が魔法を放つ聞いて大慌てて家に帰り、これから起こるであろう大震災に備える。
「皆、家に入り窓から離れて伏せるんだー」っと上位巨人族の兵士達が叫んで注意を促す。
『タイランド』の入り口からちょっと離れた所に立つ最上位の二人、常人じゃなくとも近付けば死を意味するのは誰でもわかる。
「さぁ、いつでも来い! ジジイ、俺がお前の創作魔法とやらを評価してやる。」
「ボケッと余裕こいてると死ぬぞ若僧! 土属性極大魔法『抑えきれぬ隆起』!!」
「なっ!ノンモーションだと!?」
最上位巨人族が左足をグィと捻ると山肌が無数の岩の槍となりガルディオンを襲う、まるで山まるごと攻撃の様な光景の中、ガルディオン岩の中に閉じ込められていく。 すると、その魔法による大地の振動により火山が噴火した!! 巻き上げられた溶岩と火山灰がタイランドに降り注ごうとしていた。
先ほど魔法とは違い、最上位巨人族の口の周りから溢れ出す魔素が放とうとしている魔法の威力を表していた。
「ちぃとばかし、加減が足らんかったか? そんじゃ、もう一発!! 風属性極大魔法『打魂怒輪空』!!!」
巨人族の国の首領が口から更に放った魔法がリング状の波紋となって広がり、上空のマグマや火山灰を遥か彼方に吹き飛ばした。
その強大な魔法の風圧が押し寄せる中、最初に放った極大魔法で盛り上がった岩の壁を魔刀は使わず、手を前に押し当てて岩盤をぶち壊して、ガルディオンが飛び出て来た。
「さすがは巨人族最凶の戦士憤怒の大火!!! これ程の強大魔法をイメージして、ノンモーション打って来るとは持って生まれた才能か! 更に連続使用した風の強大魔法は上位風精霊もぶっ飛威力だったな!」
「生きとったか……」
「手加減なんかしやがって、当たり前だ! 俺を殺したければ、自分国ごと崩壊させる位の全力の極大魔法を打って来い、まっそれでも俺には傷一つ付ける事は出来んがな!ハッハハハー」
「やはり、そうかお前は……、良いだろう!インデルバルとやらに行ってやる!! ただ、お前の下に付く気はないぞ。 ガッハハハハー」
「俺の魔刀の力を見れば、ジジイの気も変わるさ。」
「所で話は変わるが最上位悪魔、俺が出向くにあたって!その……何だ、お前の軍には可愛い夢魔や美人の巨人族に化けれる淫魔いるのかのぅ~」
「ん?あぁーいるにはいるけど、それがどうした?」
「うぉほぉん!あっ、イヤ何でも無いいるのならそれでいいのだ!ガッハハハハー♪」
話をはぐらかし、高笑いする最上位巨人族にガルディオンは首をかしげる。 まもなくして、インデルバルに行った事が無いと言う、最上位巨人族をガルディオンが一緒に転送魔法でインデルバルへ運んで行った。




