第二十五話 蛇の女帝と鬼の姫君
そこは魔王城の北西、オーバーケイルのすぐ横にある古い古代都市『マデュラス遺跡』魔族の中での通称『蛇の国』と言われている。 国の主である魔軍将メリューサは荒れている。
「何だ!あの生意気なデーモンは!! 忌々しい最上位共め、見ていなさい! 必ず、妾はその域に達するぞ。」
蛇妃のメリューサは廃墟の遺跡の奥に玉座を構え、そこに座る。 抜け落ちた天井から差し込む薄い光りがスポットライトの様にメリューサを照らす。
壁に神書が書かれた廃墟の神殿、マデュラス遺跡は蛇妃メリューサを女王に、メリューサの妹が7人の蛇妃を重臣として、淫魔と夢魔を配下に悪魔帝国と化していた。
「アルーサ、イルーサ、ウサール、エルーサ、オルーサ、カルーサ、キルーサ!いるのでしょう!! 出てきなさい!!」
すると、四方からシュルシュルと7人の妹達がメリューサの前に出てきた。
一般的に魔族達は種族名で呼ばれ、個に名は無く、種族間での呼び方は年功序列が一般的で父、母、兄弟、姉妹などだが、強さを基準した場合やその他、種族の風習よっては王や旦那や頭や主などと呼ばれる者達が生まれる。
しかし、現在では魔王からの憧れからか魔軍将の中には自分の配下の幹部達に名付ける者も少なくない。
「御姉様、いかがなされましたか?」五女エルーサが尋ねる。
「アルーサ、どう思う? 魔軍将に引き上げられたが未だ埋まらぬ、最上位とのこの差を!!」
「姉様は私達と比べても、その魔素の力は別格いずれ最上位へと進化される御方━━」
「私はアルーサに聞いているのだ! そして、お前達と比べるな!妾は最上位との違いを聞いておるのだ!」
「キャッ」
メリューサの蛇の尾がべっしーんっと音を立て、五女エルーサの頬を叩く。
「もっ、申し訳ありません……」エルーサはズキズキと痛む頬を抑えながら謝る。
「まだ、見つからんのか!! 妾を最上位へ導くであろう六大宝剣は!!」
「はい……ドラグヘルゼを名乗る国の人間の王が宝剣を手にしたと言う情報が各国々に潜伏させたインキュバスとサキュバスから報告が入っていますが、その宝剣が覇竜との事で竜の血が流れる我々では部が悪いと……無論インキュバスやサキュバスでは宝剣相手では手が出せない状況です。 他の宝剣についても探らせてはいますが一切、有力な情報はありません……」
次女アルーサは恐る恐る、途中息詰まりながらも報告を終えて、そっーとメリューサの顔を伺う。
「そう、報告ありがとうアルーサ。 そんなに怯え無くてもいいのよ~、貴女は次女なのだからもっと自信を持ちなさい。」
メリューサは年功序列を重視していて、妹達への差別はあからさまだ。次女アルーサは引っ込み思案でイルーサやエルーサよりも力が弱いが誰よりもメリューサに可愛がわれている。
エルーサを筆頭にオルーサ、カルーサ、キルーサの四人はそれが気に入らないので鋭い目でアルーサを睨んでいる。
「さぁ、行くわよ!アルーサ、イルーサ、ウルーサ!! 配下の使える夢魔を連れて妾に付いて来なさい。」
* * * *
ここは鬼人族の集落、その光景は言うなれば和一色、木造建築の家に瓦屋根、魔族達生活は意外にも発達している鬼人族の街の景色は極東の国『ホムラ』を真似たものらしい。 その中でも一際デカイ屋敷に魔軍将のシオンは入って行く。
「良く戻った!で暗黒大陸の幹部達はどのような者達が集まっとった?」
「デーモン、レグルス、ヴァンパイア、ドラゴニュート、ライカンスロープ、エキドナ、一つ目のギガンテス、ナイトリッチ、ミストラル、サクソン他にも来ていない者達もいるみたいでした。」
「そうか!そうか!やはり上位の各部族達は揃えているようじゃな……でかしたぞ、シアン! 我々、鬼人族から明確に魔軍将になった者はおらん。 唯一、魔王の側にいるガルシアとは縁が切れておる始末。 これで我々、鬼人族の地位も保たれるわ。ヘッヘヘ」
「あぁ、それとガルシア様なら魔王軍をお出になられたみたいですよ。 あと、婆様! やはり、ガルディオン様はとても凄い御方でした。あの常時発せられる『負の波動』 敵意すらも抱くことを許されざると言った感じで身震いがしました。シオンは生涯あの御方に添い遂げようと思います。」
シオンは現在、オーガを取りまとめる女王の鬼姫に会議の状況を報告する。
「ガルシアが魔王軍を出た?何をゆうておる? そして、魔王は止めておけ、お前は確かにワシや大婆様よりも魔素に愛されて生まれてきたが、ワシは人魔大戦で魔王の戦いをみたが魔王は次元が違い過ぎる。 お前とは住む世界がかけ離れておる、相手などされぬわい。 ホレ、良く見ろ若いオーガ達の中にも中々素質に溢れた者達もいる。 そして見よ!このワシの可愛いオーガキングをグランゼールを消滅させた魔素の波動を受けてもピンピンしておるわ。ヘッヘヘ」
人間でいえば、60歳くらいの風貌の婆様と呼ばれる鬼姫は、40歳くらいに見えるオーガキングとイチャ付いている。
「そうだぜ、お嬢!若いオーガ達にも『豪腕』の加護以外の加護を持つ者もちらほらいる。 きっと、その中から俺の様な立派な族長が育つ筈だぜ。」
女王に褒められた、グランゼールに出向いた族長は上機嫌にシアンに言った。
「いつも言っているではないですか! シアンの前で族長達とお戯れになるのは止めて下さいと! あと、婆様の言うていることは間違っています。 シアンは自分より弱い者と添い遂げることなど決してありません!!」
「何を言うておるのだ!お前より強い者など男から生まれてくる筈があるまい。 お前の代で鬼人族を滅ぼすつもりか!」
「そんなこと知った話ではありません! それにこのシアンと言う名前この名前が表す様に私はラプラシアンの一角を担うと目をかけられているのです。 時期に私はガルディオン様のお側に━━」
「扉を開けよぅ~~」
そんなシアンの話を遮り、若い美形のオーガ二人が襖を開くと、そこにはたくさんの若いオーガとイチャつく見た目100歳くらいの鬼姫の姿があった。
「大婆様!また、そんなにオーガ達を集めて!!止めて下さいといったではないですか!お年を考えて下さい!!」
シアンは女王の後ろの襖から現れた大婆様の様にカンカンだ。
「これぇばっかりはやめれんのぅ~、それより若姫よぅ~。 ラプラシアンとはぁ魔族の中で最悪つまり最強を意味する、逆三角から来ているのでぇあろぅ~ お前の名前はただ、お前の髪と目の色を見て決めたに過ぎないと思うがのぅ~」
「えっ!そっ、そんなことは……無いです!! この名前はガルディオン様からの寵愛の証なのですから!」
『そこまでぇ~強い意志があるのならもぅ~ワシは何も言わないよぅ~好きにぃ~しなぁ~。』
「おっ!大婆様何を言うているのですか!!大婆様もシアンを止めて下され!」
女王は慌てて大婆様に注意するも、大婆様のいる襖はもうすでに閉められていた。
「は、はい!大婆様、私は必ずガルディオン様を手に入れて見ますわ!! グランゼールでは下級のオーガは役に立たなかったと聞く、族長クラスの者達を揃えよ!時間は無い直ぐに準備を整えよ!!」
女王はハァーと深いため息を付いて、先程までイチャついていた族長に手を振り行けと合図した。
━━インデルバルへの魔王軍の進軍が始まる。━━




