第二十四話 残された魔軍将《強者》(3)
いつしか謁見の間に残ったのはデルフにザナドゥ、そして漆黒の鎧を身に纏った死霊騎士のみ、ベリルや妖麗な女性の霊体もいたような気がするがいつの間にかいなくなっていた。
「オマエが、オレの、国を滅ぼしたのか……次はインデルバルだ、と……。」
そう言うと、今まで伏して微動だにしていなかった漆黒の騎士が腰にする剣に手をかけ、瞬間!デルフに向かって斬りかかる。
「服従しろ!ひれ伏せぃ!!」
そう叫んだのはザナドゥだ。 漆黒の騎士はデルフまであと一歩という所でまるで重力にでも押し潰されかの如く床に叩きつけられる。
「ヒィィィ~、アダマンタイトの鎧この方は一体!? そして、その剣はもしかしてフルスパーダ様!!」
「如何にも、我輩は上位霊体が亜種であり、精神体魔剣のフルスパーダである。 ザナドゥ殿!何ゆえこの我輩がこのような輩と組まねばならぬのだ!!」
振りかざされた剣にビビリながらも、目の前にある魔剣に興奮するデルフの問いに、ギョロギョロと動く目を持つ魔剣が答えた。
「くぅ~、何て禍々しい様相! 流石はガルシア師匠の傑作、混沌の堕剣に取り憑いたフルスパーダ様!!! そっ、その目は見えていらっしゃるのですか?」
「当たり前だ!無礼者!小悪魔、先ほどから五月蝿いぞ!! ザナドゥ殿、まさか!この輩がバルサークの代えとでも申すのか!?」
デルフは口に手を当て、ペコペコと土下座する。 しかし、その目はキラキラと輝き、フルスパーダに釘付けだ。
「仕方あるまいて、お前を使える者などそうはいない。 ワシの【死霊支配】を一時でも払い退ける魔素を持っておる上位死霊騎士だ。 現にホレ今も、お前を持てているであろうが! しかし、まさか生前の記憶をここまで鮮明に覚えているとは……ガネル・キルガーロン噂通りの男じゃ、これなら確実に人魔大戦時に投入した竜を殲滅した【滅竜】の加護を受け継いでおるわい! ヒェッヒェヒェ」
「我輩を持つことが出来たとて!ただブンブン振り回すだけなら他の魔剣で十分出はないか!! 我輩の力を使うことが出来ねば意味が無い! 嗚呼!何故先に逝ってしまったのだバルサークよ!! 勇者め!我輩を持たぬバルサークを倒したところで意味が無いだろう! 我輩とバルサーク合わせて三極星魔将の一角であろうが! バルサークもバルサークだ!何故!我輩とただの魔剣の見分けがつかん!! 我輩が寝ていたとはいえ、発するオーラが違うだろう!!」
「まあ、そう言うな。 少しすればワシの支配が奴の精神を侵食して立派な三極星魔将候補の出来上がりじゃわい。ヒェッヒェッヒェッ」
「それまで、我輩はブンブンと振り回される訳か? 嫌だ!それは嫌だ!! そうだ!ルギナはどうだ! 彼女なら魔素の質も高い、ザナドゥ殿ならこの輩の様にルギナに受肉させることは可能であろう?」
「馬鹿を言え、ルギナは上位霊体だからこそ、奴に備わった加護が活かせるというのに、それをみすみす、ワシの手で壊す訳が無かろうが! 」
「しっ、しかし、嫌なのだ! 臭いし(嗅覚何て無いけど)、手汗は凄いし(嘘だけど)、臭いし(イメージで)、とにかく他の者にぃ~」
「その辺にしておけ、フルスパーダ! ワシもそろそろお前を相手するが面倒臭くなってきたわい。 (バルサークはわざと、コイツを置いて行ったのやも知れんな……) とにかく、ワシ等も明日に備えるぞ。 付き従え、ガネル!」
ザナドゥが、そうガネルに命令すると抵抗するかの様に重く立ち上がり、ザナドゥの後ろに付いた。
しかし、その腐った死骸の目は今もデルフへと向けられている。
「コイツもそうだが、デルフ!お前を良く思わない者は少なくはないであろう。 ワシやガルディオンがいつも側にいるわけでは無いぞ。 殺されん様に自ら用心しておけ。 ヒェッヒェッヒェ」
そうデルフに告げると、ザナドゥはガネルを引き連れて謁見の間を出て行った。
「嫌だぁ~、待ってくれぇ~、コイツだけは勘弁してくれぇ~そうだ!英雄達の成れの果てへ行こうあそこなら誰か…………」
「ガネルがこうして上位死霊種として生まれたのが、そのアヴァロンだわい! 分かったら観念してついて来い。」
「い~や~だあぁぁぁぁぁっ」
謁見の間を出て行ってからもフルスパーダの叫び声がこだまする。
「ハァ~、何か凄かったな……」
デルフは次元の違う格上達に呆気にとられ、しばらくそこを動けなかった。




