第二十二話 残された魔軍将《強者》(1)
「何なんだ!!2日もここで待たされたのが、そこの小悪魔を待つためだと!? 妾を一体、何だと思っておるのだ!ガルディオンは!!」
魔王がいなくなってから、急に怒り出した者は新しく魔軍将に入ったばかりの蛇妃メリューサだ。
「貴様!魔王様を愚弄する気か、焼き殺すぞ!!」
禍々しく燃ゆる剣を抜いた、その者はデルフを即座に捕らえた上位悪魔のベリルだ。
ベリルは業魔から上位悪魔に進化した実力者だ。
生まれた時から上位悪魔として存在する者が殆どだが、進化した者と比べれば、その経験値の差が歴然と表れる。
ベリルにとってガルディオンは王では無く神に等しい、ベリルの前でほんの少しでも魔王にとってマイナスな事を言えば命取りだ。
「あっ!魔剣はガルシア師匠の傑作が一振り赫灼の熱剣!! カッコいいー、本物の観るのは初めてだぁ」
デルフの目がキラキラと輝く。
「上位悪魔が分際で、悪魔を統べる女王の妾に楯突くか!! おや?貴様、自らの玩具で腕が焼けているで無いか♪ そのような脆弱な肉体で良く魔軍将に選らばれた者だ!! フッフフフ」
対してこの者、メリューサは生まれながらの蛇妃、上位の悪魔種にして夢魔・淫魔を従える、例えるのなら小国の女王。
と言っても上位の悪魔種。 その力は強大内在する魔素も、持って生まれる加護も並外れなのだ。
その一つとして、睨み付けた格下の相手の動きを止める力、【蛇眼】の加護の前に為す術もなくその蛇の半身で絞め殺される。
「悪魔を統べる? ハッ貴様のような小物に支配された覚えなだ無いがな! 悪魔をいや、悪魔も魔族も魔獣も魔物、この暗黒大陸を統べる御方はただ一人。」
赫灼の熱剣をメリューサに突き立てるベリル。 その剣熱により、どんどん室温が上がっていく。
「戯れ言を!!蹂躙してやる!!!」
「ヒィ~巻き込まれる!!」
他の魔軍将はピクリとも動かず二人の喧嘩を平然と眺めている中で、デルフが逃げ惑う。 すると、メリューサが何か魔法を放とうとした時、ベリルの魔剣が宙に舞いカランカランと音を立て地に落ちる。 それと同時に辺りに立ち込めていた熱も消えた。
「止めんか!! 二人共!ベリルお前は謁見の間を破壊する気か?」
ベリルの魔剣を吹き飛ばし止めに入ったのは、聖剣殺しのザナドゥだった。
「その極大魔法を止めてよく聞け、蛇妃よ!! ガルシアの魔武器は扱うのが難しい!それも傑作になれば、力無き者が使えば魔武器の呪詛に蝕まれ死ぬ、傑作を使う者の殆どが自分の身を呈して扱ういわば、諸刃の剣! それ故、その威力は天災! お前もベリルの攻撃を受ければ只では済むまい。」
ザナドゥの言葉にベリルも我に返り、そして術名も唱えていないにもかかわらず溢れだす魔力を見て、ザナドゥはメリューサが、最上位の極大系魔法を解き放とうとしていると推測して、 メリューサにガルシアの造った傑作の力を説き、2人の諍いを断ち切った。
傑作とはガルシアの造った魔武器の中でも最強にして最大の威力を持つ3つの武器。 その威力から『天才が造りし天災』とまで言われる最強の魔武器だ。
「あれが噂に聞く名匠ガルシアの傑作……ふん、最上位と今は争う気はない興が削がれた妾は帰る。 そこを退け上位悪魔!」
睨み付けるベリルの横を蛇の半身でシュルシュルと通り、謁見の間を出て行った。
「いや~しかし、マジでビビったねぇ~まさか、グランゼールを消失させた魔剣を造ったのが小悪魔だなんてね♪ そこの三人、小悪魔殺してたら、ガルディオンさんに殺されてたね! いやマジで♪」
その一触即発の一件が治まると、やけに気が抜ける声で軽薄な態度の者が喋り出す。 竜人族のキハーダだ。
そのキハーダの言葉にメリューサが出て行った後も、ずっと扉を睨み付けていたベリルの視線がキハーダに移る。 他の二人もキハーダの言葉にピクッと眉間を動し、ウルズスが怒鳴る。
「バッカスの穴埋めが調子に乗るなよ!!」
「ははッ、あんな変わり者と一緒にするなんてひどいじゃあないか、ウルズスさん。そんなに怒ると自分の牙で舌咬んじゃうよ~」
「グゥルルル、噛み殺す!!」
ウルズスは喉を鳴らし威嚇して飛びかかろうと腰沈めるが、それをベリルが肩に手を置き止める。
「待て、ウルズス。 奴の挑発に乗るな。 アレは俺達の力を観ようとしているだけだ。」
先ほどまで怒り狂っていた様相とは異なるベリルの言葉、そう彼は魔王の事となると少々取り乱すが、それを取ってしまえばとても有能な戦士だ。 彼の加護、【感知】と【索敵】に虚偽は通用しない。 もし、デルフが謁見の間に足を踏み入れた時、何らかの悪意を持っていれば、即座に始末されていたであろう。
「つまらないな~、バレバレかぁ~、そこの吸血鬼のお姉さんは全く動くきないみだいだし~もう帰るわ。」
「一つ、言っておく! ウルズスはお前とバッカスが一緒とは言っていない。 お前はバッカスに劣ると言ったのだ!」
頭に手を回し小馬鹿にしながら、二人の横を通り謁見の間を出て行こうとするキハーダにベリルが言った。 ピクッと少し尻尾を動かしたキハーダの殺気をベリルは感知したが、それをわかったキハーダは何事もなかったように何も言わず出て行った。
この世界の言葉の一部解説です。
『ル』は殆どの人間が信奉する神を意味します。中には精霊又は精霊が擬人化した妖精を信奉する者達もいます。
『リ』は魔法を意味します。
『レッサー』は劣化、初級、使えない物などの意味として使われます。
『ファータ』は初歩、中級、普通などの意味として使われます。
『フィーダ』は上質、上級、更に高みへなどの意味として使われます。
『ファルザー』は極限、極級、頂点などの意味として使われます。




