第二十一話 進軍の火種(魔刀)
謁見の間に新・旧魔将達が十数人集まり魔王の前に平伏する。
「遅い!遅すぎる!! もう10日も経った!大方、魔軍将達は集まったというのに! やはり!期日を設けるべきであった!」魔王ガルディオンは貧乏揺すりをしてあからさまに苛立っている。
「魔王よ、何をそんなに苛立っておる?」今の魔王に声をかけることが出来るのは魔軍将の中でもこの者しかいないだろう。
「ザナドゥか!武器だよ、武器!! 俺の武器がまだ来ないんだよ!」魔王は片手の指をバキボキと鳴らしながら言って、座する玉座の肘掛けを叩き壊す。
「武器とな? おお!噂に聞くグランゼールを掻き消した魔剣か! ワシも一度見て見たいと思っとったところじゃ。」
目の前の魔王の行動を平然と流し話しを続ける、この者は魔王軍の中でも三極星魔将といわれる魔王軍の最高戦力、一人は魔王軍の大将『魔王ガルディオン』、二人目は精神体鎧の『不屈の盾バルザーク』、そしてこの者、最上位死霊種『聖剣殺しのザナドゥ』だ。
「ヴォルガディスはもう無い……ハァ~、折れた。」
頭を抱えて悔しがる。魔王は相当、炎魔刀ヴォルガディスを気に入っていたようだ。
「そうか……では今のこの時は、その代わりの魔剣が出来るのを待つ時間というわけか? 主にしては些かその武器に固執し過ぎではないか? 主であれば、その身一つでグランゼールなど滅ぼせていたであろう。 まあ、ワシもだがな。」
「お前はアレを見ていないから、そんな事が言えるんだ。 確かに俺一人でも国一つくらい全壊させる事くらい容易く出来るが、アレはたった一振りで破壊ではなく消失させたのだ!跡形もなく灰塵と化した……俺はアレを進化と同等価値があると確信している。(何より!あの感覚、あの爽快感は忘れられぬ。)」
「一振りでグランゼールを……進化させる武器とな? 聞くだけではやはりパッとせんわい。」
「ふん、お前もデルフの造る魔剣を見れば欲しがるであろうて!」
「デルフ? ガルシアではないのか? 主にここまで言わせる奴がどんな者か見とうなったわ! ヒェッヒェッヒェ」
そこで謁見の間の扉が開く。
「ここに御出でしたか、大広間に御見えでなかったので探しました魔王様。新しい魔刀を御持ちしました。」
デルフは魔刀を乗せた台車を引き、謁見の間に入ろうとしたその時! 扉の近くにいた魔軍将の三人が瞬時に動く。
「小悪魔の分際で魔王宮に足を踏み入れるとは覚悟は出来ているな!」
即座にデルフを取り押さえた者の一人、上位悪魔のベリルが言った。
「何故ここに入ることが出来た! 門番は何をしている!!」
そう言ったのは、人狼族のウルズスだ!
「小悪魔、悪戯が過ぎたな! 死で償なさい!」
っと、最後の一人吸血鬼のヴィーナスがその牙をデルフに突き立てようとする。
デルフはぷるぷると震えて目を瞑り思う。(殺される~)
「何をしているお前達!! 俺が待っていたのはデルフだ! 魔軍将は他の領地の統括で外へ出ていて知らなくてもおかしく無いが、そいつは俺が認めたネームドだ! 今すぐ手を離せ!そうすれば知らなかったという事で罪を許そう。」
三人の魔軍将達は速やかにデルフから手を離してデルフの側から離れるが、三人を含めた他の魔軍将も今の言葉に唖然としている。 だが、ゴブリンキングのように取り乱し魔王の言葉に異を唱える者はここにはいない。
「おっ!お前は、あの時の小悪魔か!いつしか現れ無くなったから死んだ思っておったわ!」
魔軍将達が皆、黙り込む中でその沈黙を終わらせ、口を開く者がいた。 そうそれはザナドゥだった。
「何だ?ザナドゥ、デルフを知っているのか?」魔王は問う。
「小悪魔は聖剣を見にワシのところにちょくちょく来とったんだが、3年前くらいからパッタリと来んくなった。 いや、まさか!ネームドになっとったとは、たまげたわい!ヒェッヒェ」
「おお!そうか、ガルシアだけでは無くザナドゥとも知り合いだったとはお前は本当に面白い!ハッハッハッハー」
「ザ、ナ、ドゥ? おっ!おじいさんが!? あっ!あの魔王様と並ぶ魔王軍、三極星魔将の一人聖剣殺しのザ、ザナドゥ様でしたのですか!? それであれほどの聖剣を所持して……。」
「久しいな小悪魔よ、ヒェヒェヒェッ あの時は世話になった。(ワシの集めた聖剣達の叫びを小悪魔を通して聴く事はとても楽しかったが、まさかネームドに成ったとは……)」
親しげにデルフと話すザナドゥが『世話になった』と言う発言に流石の魔軍将達もざわつく。
「いっ、いえ!わっ私こそ、あれほど美しい聖剣の数々をおっ、御見せ頂き有り難う御座いましたー!!」
深々と頭を下げお礼を言うデルフ。
「うっ、うん! 話は後にしてくれザナドゥ! デルフよ!早く出来上がった魔刀とやらを見せよ!」
「おお! これは失礼した魔王よ。 ワシもお前の造ったという魔剣が見たくなったわい。」
「はっ、はい! これが新しい魔刀『金剛哭刀イルガディス』です。」
刀身剥き出しの刀には鞘が無いので特殊な布で巻いてある。 デルフは台車から刀を下ろし魔王に献上した。 魔王が王座から立ち上がり受け取とると、玩具をもらった子供のように巻かれた布を剥いでいく。
「こっ、これは美しい!(こいつはヴォルガディスよりもカッコいいじゃあないか!?)」
魔王は現れた、神々しく輝く黄金と黒のコントラストが何とも言えぬ調和と威厳を放つその刀身を直ぐに評価する。 今までデルフに戸惑いの目を向けていた魔軍将達もデルフの造った魔刀に目を奪われる。
「デルフよ、最高の出来だな誉めてつかわす! しかしだ!何故10日もかかったのだ? ヴォルガディスは3日で仕上げた筈だ!」
せっかちな魔王はどうしても発注から10日経ったのが許せないらしい。
「申し訳ありません。あれから、色々ありまして一つはガルシア様が工房を出て行ったこと、二つ目に素材の金属が足りなかったこと、三つ目は私は力が無いので魔刀を研磨するのに時間を要してしまいました。」
デルフは魔刀が出来上がるまでの経緯を語る。
「ガルシアが出て行っただと!?(工房を勝手にデルフにあげたからからだよな~きっと……) そうか……ならば仕方ない!」
ガルシアがいなくなったと聞き、しぶしぶデルフを許した魔王は次のように言い放つ。
「聞けぇい魔軍将達よ!! 我が軍は明日、ここから一番近い国インデルバルにイルガディスの公開披露を行うことにする。ここにはお前達全員の参加とし、事前に特別ゲストも招待しておいた! 招待した者達はとてもシャイで人間の目を気にするため、進軍時にインデルバルから一人も人間を出さぬようにお前達の配下に指令を出せ! 明日、公開披露をやることを特別ゲストに伝えるため、俺は今すぐここを出る。 それでは各自、明日に備えよ!」
突然の魔王の言葉に皆が唖然とし、本人は話を終えると急かさず転送魔法を使い闇に包まれ消えて行った。
「日時も伝えずして、招待したと言えるのかのぉ~? 魔王は本当に変わらんのぅヒェッヒェッヒェ」ザナドゥがいつものことの様に呆れて首を振る。




