第十九話 新たなる魔刀
途中で切ると訳がわからなくなりそうなので、魔刀の完成まで一気に書きました。
何人かのオーガはたたら場に残り、今まで通り素材の精製をして、交代でデルフから鍛治技術を習うということで意見がまとまったらしい。
デルフと頭を含む数名のオーガ達は工房で作業を始める。
「うん、いいオリハルコンですね! ですが、たたら場の炉ではやはり不純物が取りきれていないので鍛練と同時に不純物も洗い流していきます。」デルフは目を輝かせて言った。
「何!俺らの精製したオリハルコンがきたねぇだと!! どこ見て言ってやがる。」
オーガ達の精製技術はもはやゴブリンとは比べものにならない位の腕だった。オーガ達もプロとして手を抜かずに作った高品質のオリハルコンだったのでデルフの言い方が頭にきたようだ。
「いっ!いえ、これでも十分に最高級の剣を打つことは出来ますが、今から造るのは刀です! より硬くより錆びにくい美しい刀を造るには少しの不純物も残してはいけないんです。」デルフは誤解を解くように説明した。
「そっ、そう言うことか……すまん、続けてくれ。」オーガはデルフの説明を理解したようだ。
「はい! まず、今ここにある焼き窯は、たたら場の炉と同じで上位赤竜種の鱗でコーティングされていますが、たたら場の炉はアダマンタイトの転換式の炉です。なので大体2500℃前後が限界でしょう。しかし、ここ工房の窯は土に上位巨人族の肉を混ぜた魔粒土で出来ています。 3000℃強まで耐えることができる筈ですが、炉の内部の温度は約2000℃これは炉のにいる上位火精霊の最大火力で合わせています。どちらもガルシア師匠が考案した炉と窯です。」
デルフが焼き場の窯の説明をする。
「流石はガルシアの旦那!あの人はやはり天才だ!」オーガ達が騒ぐ。
「次に加工方法です。 何回か、へし折り半分に折り畳み鍛練します。 この時に上位黄竜種フィンクス様の素材を混ぜます。 心金(中心部)となるオリハルコンは本当はもっと鍛練したいのですが素早い加工が必要となるので五回が限界かと、皮金(心金を覆う)アダマンタイトは約十回の鍛練をします。 この時アダマンタイト2500℃以上でオリハルコンは2000℃以下~1700℃以上で鍛え上げます。」
「うわー!これがあの魔軍将フィンクス様の素材かぁー!すげぇ輝きだ!」オーガの一人が手に取りはしゃぐ。
「ちょっと!勝手に触っちゃダメですよ!」デルフは慌て注意する。
「何だよ!ケチぃ~な、ちょっとくらい良いだろ! あっ!」オーガの手からフィンクスの黄金の角がすり抜ける。
「危ない!!」デルフはヘッドスライディングして何とかフィンクスの角をキャッチした。
デルフは床に倒れ込んだまま、ぷるぷる震えて動こうとしない。
「おっ、おい、大丈夫か?」角を落としたオーガが問いかける。
デルフは大切そうにフィンクスの角を抱え、ムクッ立ち上がり言った。
「てめぇ!!一体ここに何しに来た! 死骸の素材てぇのはとても繊細でちょっとした衝撃でも内在する魔素が抜けることがある! 素材を加工するにもそれ相応の加工方法が必要になるのは基本だろうが、遊びに来たならとっとと帰りやがれ!!!」
デルフはキレていた!幼い子供の姿である、いつものデルフとは伴わない悪魔の形相だ。 一瞬、オーガはそんなデルフに臆したが相手は小悪魔と言い返す。
「それが何だってんだ! 魔軍将の素材だろうが、ちょっと落としたぐれぇで抜け落ちるような魔素量じゃね、ぐべぇ━━」
デルフに言い返すオーガの頭を頭の鉄拳が打ち抜いた。
「この場所で誰に口聞いてんだ!馬鹿野郎!! たたら場で頭冷して来い! すまん、デルフさん!時間がねぇんだろう? アイツは後でボコボコにしとくんで先進んでくれ。」
殴るられて伸びているオーガを他のオーガが工房の外に放り投げる。
「そっ、そうだった! 素材に予備はないので失敗は出来ません! 皆さんもそのつもりで作業に取りかって下さい。 それでは、オリハルコンから鍛練していきます!」
デルフは魔王が次の魔刀を待っていることを思い出して、怒りを忘れいつもデルフに戻り指示を出す。
「この量のオリハルコンを窯から出し入れするのにはボクには難しいので、そこの腕の一番太いオーガさんお願いします。 注意として窯の内部の温度は2000℃近づき過ぎると皮膚が溶け、窯の中を覗くと目が潰れます。」
「おっ、おう! 分かった気を付ける。」マッチョなオーガは答える。
「次は器用そうな二人に、頭とそこの一角のオーガの人は窯から上げたオリハルコンをボクの指示通りにこのハンマーで打ってもらいます。 注意として素早く打ち込み離さないとハンマーがくっ付いてしまい形が崩れます。 素早く的確に鍛練して下さい。」
「任せとけ!」オーガの頭が言う、「わかりやした!デルフの旦那!」一角のオーガが言う。
「では、はじめて下さい!」デルフが言う。
窯を開き、マッチョなオーガがオリハルコンを突っ込む。
「今です!」デルフの掛け声でマッチョなオーガがオリハルコンを窯から引き抜き、頭と一角のオーガがハンマーを構えて待つ、耐熱加工を施したアダマンタイトの作業台の上にオリハルコンを置いた。
「いくぞ!!」「へい、頭!」二人はデルフの指示通り正確にオリハルコンを打ち込み、火花がバチバチと飛びかう。
「鉄とは違い、飛んだ火花はしばらく1000℃以上の熱を持ち続けます。 踏むと足の裏に穴が空くので気を付けて下さい!」デルフが注意を促す。
後ろで見ている、オーガ達がメモを取る。
「いい感じです!! では、普通の水では溶融化した金属を冷し汚れを洗い流す前に気化してしまうので、上位巨人族の血を水に混ぜて凍らせた、この魔氷(溶けてもすぐに凍り始める氷)に押し当て、汚れを落とします。」
「いくぞ!!」マッチョのオーガが叫ぶ!
オリハルコンを押し当てると、ブシューという音が鳴り魔氷が溶け始める。
「オリハルコンが沈みきったらすぐに魔氷から引き抜いて下さい! 今です!!」
デルフの掛け声に合わせてマッチョのオーガが魔氷からオリハルコンを引き上げる。 オリハルコンはまだ赤々と熱を持ち蒸発する魔氷の蒸気が立ち込める。 魔氷はオリハルコンを上げた瞬間から凍り始めた。
「皆さん流石です! ミスは出来ないのでこのまま集中を切らさないようにお願いします! 鍛練が終わったらボクがこの鏨で線を入れるので、そこから半分にへし折りって下さい。」
「よし来た!」赤々と熱を帯びているうちに曲げないと上手く金属が溶融しないことをオーガは達は知っているので、手早くオリハルコンを半分に曲げる。
「軽く形を整え、ガルシア師匠が作ったこの熱を閉じ込めるための上薬を塗り、その上から周りの金属が溶け落ちないように泥を着け窯に入れ、また同じ事を4回繰り返します。」
デルフ達は同じようにアダマンタイトを夜通し鍛練を続けた、そして、作業台の上でU字に曲げたアダマンタイトの皮金の間に心金のオリハルコンを入れて鍛練していく。
「デルフさん、アダマンタイトにも何か入れたが、アレは何だい?」
「アレは魔王様が苦手な属性をあえて使うことで折れにくくした代わり、それを補うとっておきの仕掛けをしました。 そんな事より、ここでフィンクス様の逆鱗を付けて馴染ませ、窯に戻す回数を少なくするためになるべく長くして下さい。 厚さわは10㎜~15㎜位にあまり太くし過ぎと硬くて刃先を落とせなくなります。」
「気になるが仕方ねぇ、後で教えてくれよな!」デルフが施した仕掛けにオーガ達も興味津々のようだ。
「一気に刀身を伸ばして下さい!」とデルフが言うと、頭と一角のオーガがガンガンと伸ばしていく。
「これで、よしっと!」デルフが鏨で刃先を作る。
マッチョのオーガはデルフに言われた通りに、2つの金属が溶融した刀の形をなしてきた金属を窯から出し入れする。
「仕上げはボクがやります! 硬くて中々研ぐことが難しいので、なるべく薄くここで極限まで完成形の刀に近づけます。」
デルフはマッチョのオーガに指示を出して形を調えていく。 デルフがハンマーを打ち込むたび、黒かったその刀身が黄金に光輝いていく。
「よし! このダイヤモンド鑢で表面に付いたゴミをおとしてまた、上薬と泥を薄く均等な厚さで塗り窯に入れて、 素材の魔素を刀身に馴染ませます。 この時、変形の原因になるので全体が同じ温度で熱が加わるように気を付けて下さい!」
窯から上がった刀身をデルフが熱いうちに微調整を加えていく。
「よし。出来た! 後は研いで完成です。 研ぐのには3日はかかりますが。」
デルフ達は2日間ぶっ通しで作業したので、オーガが達はその場で寝始めた。 途中でマッチョなオーガ以外は交代したらしく、その中にはデルフを怒らせたあのオーガがいた。
アダマンタイトとオリハルコンを鍛え上げた刀身はとても硬くガルシアなら1日で研いでしまうだろうが、デルフは毎日刀身研続ける。そして、3日後━━
「出来た!『金剛哭刀イルガディス』」その黄金に輝く刃紋に黒々と輝く刀身の棟はなんとも言えほど美しく見るもの圧倒する威厳を放つ。
『すっ、すげぇ…………』オーガ達の誰もがその一言しか口に出せない。
「それではボクは柄の形を整えて、イルガディスを魔王様の元へ持って行きます!」




