第十六話 揺るがぬ思い
デルフは眠りについても身体の痛みを感じうなされる。 そして、ガルシアと出会った時のことを思い返す。
* * * *
~三年前、デルフとガルシアの出会い~
「ゴブリンさん! そっ、その剣は何処で手に入れたんですか?」デルフは三人のゴブリンが背にする見たことの無い剣に目が止まり話かける。
「あっ? これか? い、い、だろ~やらねぇぞ!イタズラしかやることねぇ小悪魔には必要ないだろ。」ゴブリン達は背にする剣を小悪魔に見せびらかす。
「いや、欲しいとかとはちょっと違うんですが……とりあえずそれは何処で手に入るんですか?」
「あっ、何だよ!敬語だし、お前変な小悪魔だな。 教えねぇよ俺達ゴブリンの秘密だ!」ゴブリンはニヤニヤしながらお互い顔見合う。
「お願いします!そこを何とかお願いします!」デルフ一歩たりとも食い下がらない。
「ついて来んな!気持ち悪りぃな!あっち行けよ。」ゴブリン達はデルフを無視して棲みかに戻ろうとするが、小悪魔は一人のゴブリンにしがみつきそれを制止する。
「まっ!待って下さい!お願いです。もっとそれと同じような剣が見たいんです! お願いです! 教えて下さい!」小悪魔は渾身力でゴブリンにしがみつく。
他の二人のゴブリンは何とか小悪魔仲間から引き離そうと小悪魔をボコボコにしたが、それでも小悪魔離れない。
「わっ!わかった!教える!教える! 魔王城の裏にある建物に魔軍将じゃないのに魔王様からガルシアって名前を貰ったオーガがいる。 その人にこの剣を刀を貰ったんだ!! 言ったぞ! 早く離せ馬鹿野郎!!」
小悪魔はスッと力を緩めゴブリンから離れた。
「刀……ゴブリンさん!ありがとうございました!」ボコボコの顔でニコニコと笑い小悪魔は御礼を言うと急かさず魔王城へ走りだした。
魔王城の裏に着くとそこには、モクモクと煙を立てている焼き場とその横にあるのは工房だろうか?またその後ろにも大きな建物があった。
小悪魔はとりあえず、手間にある建物を覗くすると、その目の前の壁に掛けられた剣に目を奪われる。
その刀身はとても美しいホワイトパール色、刃に浮かぶ紋様はとても神秘的に輝き、ほど良く曲がったその反りがまるで、最高の芸術作品を見ているように小悪魔は思えた。
「そこで何をしている!! 小悪魔か!俺の工房で何をしようと企んでやがる!!」そこにはどっしりとした貫禄漂うオーガが立っていた。
「いえ、ただ、あの綺麗な剣を見ていただけです。」
「そうか!俺の最高傑作を盗もうってことか!! ふざけやがって小悪魔が!!」そう、オーガはこの工房の主ガルシアだ。
すでに傷を負っている小悪魔の事などお構い無しにガルシアは小悪魔を捕まえボコボコに殴った。
「すっ、みま、しぇん、すみま、せん……。」デルフは急な事でもう謝る他無かった。
「いいか! 二度と俺の工房に近づくな!!」ガルシアはこれでもかという位殴った小悪魔に怒鳴り散らす。
小悪魔はボコボコの身体を引き摺り工房を後にした。
次の日、小悪魔はあの美しい剣を見たくて見たくて堪らなくなって再び工房の窓を覗いた。
「あぁ、何て美しい剣なんだろう。名前はあるのかな?」小悪魔は時間を忘れて窓越しにその魔剣の見続ける。
しかし、その時間も長くは続かない。後ろにはガルシアが立っていたのだ。
「また、来やがったか!! あれだけ殴られてもまだ足りねぇのか小悪魔!!!」ガルシアは再び小悪魔をボコボコに殴り付ける。
「すみま、せん! す、みましぇん!」再びボコボコなった小悪魔はヨロヨロと工房を後にする。
その次の日、それでもあのとても美しい剣が見たくてしょうが無くなった小悪魔はまた工房へ行ってしまう。
「あぁ、名前あるのかな? 何て名前なのかな~もっと近づけば分かるんだけどな~」小悪魔は窓越しにため息をつく。
「それは無理な、話だ!!」小悪魔が恐る恐る振り返ると、やはりそこにはガルシアが立っていた。
また、小悪魔はボコボコになりしょんぼりしながら、身体を引き摺り帰って行く。
それでも小悪魔は何度殴られ、蹴られ、血を吐こうが、視界が悪くなるほどに顔が腫れようが、5日、10日、20日と工房を訪れてガルシアにボコボコにされる日を魔剣見たさに繰り返していた。
そして、1ヶ月が立とうとするときガルシアは窓の前に立ち、小悪魔が来るのを待ち構えていた。
「お前は何でここに来る?阿呆なのか?」ガルシアが小悪魔に問いかける。
「ボクはただあの綺麗な剣、刀が見たくて見たくてしょうがないいんです。」
「今までは可愛い娘につきまとうストーカーをボコボコにする気持ちだったが、もういいお前を殴るのは疲れた……刀を見たいだけだと言うなら中に入れ。」毎日ボコボコにされて傷だらけの小悪魔よりも疲れきった顔をしているガルシアは根負けしたと小悪魔を工房の中へ招き入れた。
「そうか……ゴブリン共から聞いたか。 あいつらには、いつも人間達から奪った書物を、失敗作の武器や防具と物々交換している。 あっ、失敗作というのはあいつらに内緒にしてくれ!」ガルシアは疲れているのか口を滑らせるが、小悪魔はそんなこと耳に入ってはいない何故なら、彼は壁に掛けられた刀に釘付けになっていた。
「とても綺麗だ。君の名前は……」小悪魔がボソッと呟く。
「あぁ、そいつの名前は風刹魔━━」ガルシアが答えようとすると小悪魔が呟く。「シルフィードって言うのかい、良い名前だ……」
「お前何故その刀の名前を知っている!? 俺は誰にもその刀の名前を明かしたことはない筈だ!」
「えっ、あっ、その~、ボクには魔剣や聖剣の声を聞く力があるみたいなんです。ボクはこの加護をウェポンズと呼んでいます。」とても恐縮そうに小悪魔は答えた。
「ウェポンズ(武器の声を聞く力)だと! おい、お前!おっ俺の打った刀は何て言っている?」ガルシアは小悪魔の加護を知って疲れていた顔に活気が湧く。
「とても良い父に造らたと言っています。」
「そうか!そうか!それは良かった! あれだけ手をかけて造ったのは初めてだ! 極東の国『ホムラ』の刀の製造方法が書かれた書物は色々なとこが端折ってあって苦労したわい!ハッハッハッ」
「何か不満が無いか聞いてくれんか?」さっきまで嬉しいそうに笑っていたガルシアは心配そうに聞く。
「はっ!はい! ……私の場合はもう数ミリ反りを直して貰えて入れば斬新の抵抗を少し減らすことが出来た。 っと言ってます。」
「何だと!そうだったか!もう今からでは遅いか……それはすまんかったな。」ガルシアは少し落ち込んだ。
「とても鮮明に聞こえているか? 風刹魔刀・雛十七式シルフィードはどんな声をしている?」ガルシアは小悪魔を質問攻めにする。
「はっ、はい!鮮明ではありませんがこう何と言うか?脳に伝わる感じですかね~、でっでもシルフィードさんの声はその姿のように美しい声だと思います。」小悪魔は顔を赤らめながら楽しそうに話す。
「そうか!シルフィードの声は美しいか!」ガルシアはとても上機嫌だ。
それから、二人は夜が開けるまで武器について話し合い、ガルシアは自分の造った魔武器達を次から次へと小悪魔に見せていった。
それからというのも、小悪魔はガルシアの工房の毎日入り浸るようになった。
* * * *
ここでデルフは目を覚ます。小悪魔であっても悪魔は悪魔、傷の治りは早い方でもうだいぶ傷は癒えていた。
「よし、あの助けてくれたオーガさんはオリハルコンを精製していると言っていた。 たたら場には確実にオリハルコンはある!ガルシア師匠!ボクは必ず魔王様の剣を造って見せます!」硬い決意を胸にデルフは工房を出た。




