第十五話 オリハルコンをボクに下さい!
とりあえず、工房に戻り考え込むデルフ。
「どうしよう……ある素材だけで造るとアダマンタイトの短剣位ならいけるかなぁ~、ガルシア師匠がいない今でも、短剣ならボクの力だけでも3日位で出来るけど……ハァーでもただの短剣じゃ確実に折れるよなぁー。」
「やっぱり、炎魔刀ヴォルガディスと同じ、幾つもの硬さの違う金属を組み合わせ、何度も鍛えあげ造る『刀』じゃないといけない。 欠けず、曲がらず、最高の切れ味を生み出だす刀。そして何より!『究極に美しい剣!!』うん、刀しか魔王様の力に耐えうる魔剣は無い!!」
デルフが何故そこまで刀に魅了されたのか?
それはガルシアがゴブリン達から得た書物の一冊に載っていた極東の離島にある国『ホムラ』で造られる刀剣、刀の作り方を見よう見まねで造ろとして、十六回失敗し十七本目で完成させた。 上位風精霊の魂結晶石を使い、白迅鉄を皮金にオリハルコンを心金として鍛え上げ作った白き刀身が際立つ一振り、『風刹魔刀・雛十七式シルフィード』を見てからの事だ。
デルフがガルシア工房に通っていたのはその80%が今でも工房の壁に掛けられたシルフィードを見るためだと言っていいだろう。
デルフは壁からシルフィードを下ろし手に取り言った。「やっぱり君は美しい。」ウェポンズで何が聞こえたのかデルフの顔が赤くなる。
「そうだね、もう一度頼みに行って来るよ!! あの言い方だと必ず心金として使いたいオリハルコンはある筈だ!。 ガルシア師匠のだと言っていたから、もうガルシア師匠はいないと言えばきっと貰えよね。」デルフはシルフィードに話しかけながら、もう一度オーガ達のいる、たたら場へ向かうことにした。
そっと、たたら場の扉を開けると熱風が漏れデルフの身体を包む。
「すみません!魔王様の魔刀を造るためにオリハルコンを分けて下さい! お願いします!!」デルフは渾身声で叫んだ。
「うるせぇ!!また来たのか、ボコボコにするぞ!出ていけ!!」さっきデルフを投げ飛ばしたオーガが怒鳴る。
「魔王様があの工房をボクの工房にしたので、ガルシア師匠はここを出ていかれました。 なので、魔王様の魔刀を造るためにガルシア師匠の素材を分けて下さい!!」
このデルフの言葉を聞いて、先ほどまでケラケラと笑っていたオーガ達全員の目の色が変わった。
「ガルシアの旦那が……出て行った、だと。」
「そうです!ですからボクに素材をオリハルコンを分けて下さい。」デルフはその場の空気が変わった事に気付いていない。
「それは……お前がガルシアの旦那を追い出したってことだろうが!!!」休憩していたオーガの一人が叫ぶ。
「糞野郎が!そいつを殺せー!!」たたらを踏んでいたオーガ達も一斉にデルフに飛びかかる。
デルフはボコボコに殴られ蹴られ血を吐き這いつくばる。しかし、オーガ達は止めようとはしない! 完全にキレたオーガ達はその本能の間々にデルフをズタボロになるまで攻撃し続ける。
「俺達はな!あの人のガルシアの旦那が造る武器に見惚れて、戦士を辞めてここに集まったんだ! でも、旦那は弟子を一切とらなかった……なのにだ! 小悪魔のお前が弟子になった! そしたら、何だ!! 今度は旦那がおめぇのせいでここを出ただと! ふざけるな! 俺達の夢を奪い、俺達の尊敬する人を追い出しておいで、なにを『くれ』だぁっ! ふざけるな!!!」オーガの怒りが頂点に達する。
デルフはその命が風前の灯になる頃に自分のした、過ちに気付く。『あぁ、最後に一振り、もう一振り魔刀を造りたかったなぁ……』
「そこまでにしろーーーー!!!!!」オーガ達の耳もキーンとなり手を止める。その物凄くでかい声は他のオーガ達がデルフを殴りに行ってからも、一人黙々とたたらを踏み続けていたオーガのものだった。
「お前達!!オリハルコンを駄目にするきか? 遊んでる暇があるならガルシアさん戻って来た時の為にたたらを踏み続けろ!!」少し体の大きな、声のやたらでかいオーガが他のオーガ達をしかりつける。
「すっ、すみません頭!! すぐに代わります。」オーガ達は一斉に仕事に戻る。 休憩中のオーガはズタボロになったデルフをたたら場の外へ棄てた。
そんな様子を休憩に入った、たたら場の頭のオーガが見つめていた。
「頭!そう言えば、今精製しているのはアダマンタイトですぜ!」休憩中のオーガの一人が言った。
「そうだったか? まあ、気にするな!!」オーガの頭は話をはぐらかした。
「たず、がった……」デルフは泣きながら這いずり工房へ帰ると、気絶したように眠りについた。
デルフ、馬鹿なの!っと思われた方もいると思います! 元々が小悪魔なので人の怒りや苛立ちを逆撫でする事には天性の才能を持つ、そうデルフは天然でそういう事をする子なのです!




