第1話 プロローグ
魔王の領土、暗黒大陸にて激しい衝突音と爆風が巻き起こる。
人間の希望にして最後の砦『勇者ウィルザード』が魔王城内部に入り込み、迎撃に出た魔物は次々と神々しく輝く剣により斬り殺されていく。
その右手に振るうは、神の血により鍛え上げたという伝説の剣『神聖剣ル・グラン』死霊すら消し炭にする、そのあまりの強さに魔王軍はまったく歯が立たず、魔王城ヘルガルディオの大広間・魔王宮は魔物と魔族の死骸で埋め尽くされた。
魔王宮の奥に目の前で起こることに全く動じず、不気味に勇者の戦いを観戦する者がいる。
その者、額には捻れ曲がった角、背には烏を二十倍にしたような大きな黒翼が四枚、その身体はアダマンタイトよりも硬い黒々と輝く鱗覆われ、筋肉の塊のような長い尻尾を地面打ち付け、2mを越える巨体が、人や獣の骸骨と金の装飾で作られた王座から立ち上がり勇者に激励の言葉を放つ。
「よくぞここまで来れたな、噂は聞いているぞ!勇者ウィルザードよ!!」
「お前の命運もここで尽きたな、ガルディオン!」
「魔素にさえ飲み込まれ制御できない、下等な人間になどに何ができる。」
「オレは人だが、この『神聖剣ル・グラン』必ずお前を貫く!行くぞ!!」
「来い!!バラバラに引き裂いてやろう!」
素手で勇者と互角に戦う魔王に対し、多彩な強化魔法と聖剣の壮絶な剣戟を振るう勇者、城のあちこちから瓦礫が崩れ落ち埃と砂塵が舞う。
「何故、武器を持たない!!」勇者にとってそれすなわち魔王の余裕を表し焦りを引き立てていた。
「持たない?持たないのではない、この世の武器など、このオレの力の前には振るう前に木っ端微塵になるだけだわ!」
その魔王の言葉に何かが吹っ切れたかのように勇者が立ち止まる。
「その力がお前の限界と言う訳か。」
すると、剣より生まれる光に包まれ勇者が魔王の眼前から消えた。
その頃、柱の影からその戦いを、いや『神聖剣ル・グラン』をずっと観ている、武器マニアの小悪魔いた。
ただの小悪魔である彼に名はない。
しかし彼は【武器の声を聞く】という加護を持っている。
「あの聖剣はまさか……」
そんな小悪魔がこの戦いの後、壮大な物語を築くことになることは彼もまだ知らない。
「!?」
「ならば、これでもう終わりだ!」
魔王が気が付いた時には既に遅く、勇者の突き立てた聖剣は心臓を穿って破壊した。が、しかし……
「クッ、糞野郎が、退けー!!」
倒したと思われた魔王の拳が勇者の脇腹掠め、口からは血が流れ後退する。
「ぐはっ、何故だ!?何故死なない!死霊をも掻き消す聖剣だぞ!!」
━━━悪魔の弱点は脳と心臓、脳を破壊すれば、たとえ転生したとしても前の記憶も経験値もゼロからになり、劣化もする。 ようは別の悪魔として生まれる。
また、悪魔は臓器すらも再生する力があるが、魔素の循環器系である心臓を破壊すれば、心臓が再生する前に脳が死ぬ。
しかし頭には悪魔の部位で一番硬い角で守られているため、心臓を破壊するのが冒険者の中のセオリーなのだ。━━━
すると、勇者の前に光が舞い降り、白いローブを着た女性が現れた。
「ウィル!!間に合った、まだ生きているのね!!、転送貼付魔法と身体確認魔法しておいて良かったわ。」
勇者は現れた女の声など、無視をしてぶつぶつ何かを呟いている。
「なぜだ、なぜだ……」
「一旦、退くわよ。ウィル、しっかりしなさい!」
「ローレリアまだ、だ!!アイツは生きている。」
「くっ、あなたは【魔素払い】の加護に守らてるからいいかも知れないけど、私はもう持たない!ここ暗黒大陸ではあなたの援護は出来ないのよ!!」
━━━加護には先天性と後天性の二つあり、【武器の声を聞く】は後天性で努力や素質により発現し、【魔素払い】は先天性で産まれながらに備わった能力だ。
【魔素払い】の加護は魔素が体内に入るまたは、魔素による外傷つまり、魔法による攻撃を軽減することができる。
人間達が暮らす大陸にも魔素は存在するが、ここ暗黒大陸はとても濃い魔素に包まれた場所であり、生まれながらに魔素の循環器系を持たない人間は30分も持たず魔素中毒症となり息絶える。━━━
魔王は、現れた女が勇者をこの場から連れ出そうとしているのを見て立ち上がり、腕を前に突き出し魔法を放つ。
「逃がしはしない!獄炎」
急かさず、ローレリアは防御障壁の魔法を張る。
「聖なる水壁の盾!!」
この世界の魔法は火・水・雷・土・風の五属性に邪霊と神聖の二大属性がある。ローレリアが使用した防御障壁はその神聖属性に水属性重ねた防御障壁だ。
全ての魔族の攻撃に有効であると共に火に強い防御障壁を構築した。
この世の魔法はイメージにより周囲の魔素を構成し術名を唱えることで放つことが出来る、簡単に思えるが揺るぎの無いイメージとは時として産まれたばかりの赤子に立てと言うぐらい難しい、ようは魔法を使えかは才能があるか無いかなのだ。それに属性を掛け合わせる技術を持つローレリアは間違い無く凄腕の魔法使いだと言える。
魔王の魔法がローレリアの防御障壁に当たり、激しい衝撃波が生まれ防御障壁にはヒビが入り、熱が辺りを包みこむ。
「もうだめ!!行くわよ!ウィル、転送!!」
転送の魔法と同時に勇者が叫ぶ。
「何故だー!!!!!!」
勇者と女は光に包まれて消えた。




