叶えるサンタさん人形
この作品は大学のサークルで書いたものです。ページ数に制限があったので、ここに投稿したものには少しだけ内容を足させて頂きました。
え?投稿したのが春なのに内容が季節外れ? そんなこと気にしない、気にしない♪
つたない文章で申し訳ないですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
※誤字修正6/6
――― 十二月二十五日 午前9時
自然と目が覚めてゆっくりと上体を起こして窓の外を見る。天気は晴れ。
「今年も一人か~・・・」
今日はクリスマスだというのに。
そんなことを思う私の名前は唯。一応、小学三年生。子供らしくないとよく言われる。さて、何故、クリスマスの朝にこんなことを呟いたかと言うと。本当に家に独りぼっちだからである。私が一緒に住んでいるのは父だけだが、仕事が忙しくて不在。けれど、まさか三年連続でクリスマスにお留守番とは思わなかった。ため息をつきながら昨日の電話を思い出す。
――― 昨日 午後9時
「ごめん、唯!今年は一緒にクリスマス過ごそうって言ったけど、やっぱり無理そうだ!!仕事が片付かんっ!」
そう言って平謝りするのは私の父。こうして仕事のせいで約束を破られるなんて、いつものことだ。怒りよりも呆れの方が強い。
「またなの?パパ嘘つきさんだね。泥棒になるの?」
「うっ・・・すまん。らっ、来年は一緒に過ごそうな!な?」
「・・・」
電話の向こうでまた何度も謝っていたが、眉をしかめたまま無視して無言で電話を受話器に置く。
・・・回想終了。
「クリボッチ三周年記念日だっ!やったね、唯ちゃん☆」
なんて、明るい声で言ってみても心の隙間は埋まらない。ため息が出るばかりである。そしてふと、枕元に置いてある青い服を着たサンタの人形を見る。クラスの女子の間で流行っているおまじない人形というやつで、名前は「叶えるサンタさん人形」。そのまんま過ぎてウケる。なんでも、寝る前に人形に願いを言って、枕元に置いておくと、クリスマスの日に願いを叶えてくれるとかなんとか。噂によれば、結構な確率で願いが叶っている、らしい。
「お前でも、この願いは叶えられなかったみたいだね・・・まあ、最初から信じてた訳じゃないけど。」
クスリと苦笑をこぼしながら、人形の頭を小突く。すると、一瞬だけ人形が光ったように見えた。そして、襲い来る謎の眠気。人形が光ったように見えたことが気にならなくなるくらい眠かった。
「・・・どうせ一日中家で一人だし、寝ちゃえっ!」
そう言って布団に包って横になる。眠りに落ちるのにそんなに時間はかからなかった。
――― 午後1時
「・・ぃちゃん。ゆ、ちゃ~ん」
「・・・ん」
「唯ちゃん、起きて~!サンタさん来たよ~?」
「・・・ん~?」
誰かが私を呼んでいる?少しだけ目を開けると人影が見える。おかしいな。あぁ、そうか。きっと夢だな。幻聴、そして幻覚だ。きっとそうに違いない。そう自分に言い聞かせてもう一度目を閉じると・・・
「ちょっ!?今、一瞬起きたよね!?まさかの二度寝!?」
「・・・は?」
勢いよく上体起こして、声の主を見る。
「おぉ!おはよう、唯ちゃん!」
無駄に明るい声で挨拶をしてくるのは青いサンタ服を着た男。誰、コイツ。
「え、なにそれひどい。」
どうやら声に出してしまっていたらしい。ちょっと傷ついた表情をしたその男は、胸を両手で押さえながら続ける。
「せっかくこうして願いを叶えに来てあげたのに・・・何たる仕打ちっ!」
「・・・は?」
願いを叶えに?まさか・・・!?
そう思い、枕元を見る。叶えるサンタ(以下略)がないっ!私は男を凝視する。それはもう穴が開くほどに。「そんなに見られたら、照れちゃう☆」なんてウザいことを言っているが、無視。男を観察した後、急いで人形を探すが見つからない。ベッドから降りていた私はゆっくりとサンタ男を振り返る。
「・・・叶えるサンタさん人形、さん?」
「やっと気付いたの?そうだよ~ん♪」
おっと、返事がウザい。ついでに満面の笑みでのドヤ顔はもっとウザい。そんな私からの印象なんていざ知らず、叶える(以下略)は続ける。
「この姿にならないと願いを叶えられないんだ。不便だよね~?」
のほほんと話す彼に、気になっている質問を投げかける。
「なんで名前知ってるの?」
「起きた後「やったね、唯ちゃん☆」って言ってた♪」
「・・・人形だったよね?」
「サンタさんはマジカルなのだよ☆」
キメ顔+キメポーズで即答されてしまった。しかも言い方が・・・
「君の願いをもう一度聞かせてくれるかな?叶えるには、君の願いをもう一度きかせてもらわないと。」
「何故?」
「願いの再確認作業!」
なるほど。今起きていることを夢だと思うことにした私は冷静に思う。
もう一度願いを口に出して言うのだと思うと恥ずかしい。人形ではなく生身に言うのだ。一度言ったが、恥ずかしさが違う。咳払いをして、笑顔がうるさいけど何も言わずに待ってくれているサンタさんに向き直る。
「パ、お父さんと一緒にホワイトクリスマスを過ごしたい・・・です。」
「よろしいっ!その願い、叶えましょう♪」
サンタさんがほのかに光ると、また眠気が襲う。
「だから、信じてね?」
サンタさんの言葉を最後に眠りに落ちる。
――― 午後6時
「・・・ぃ。唯、きろ。唯?」
優しく体を揺らされて、大好きな声に起こされる。
「あれ、パパ・・・?お仕事は?」
いつの間にかベッドで寝ていた私は、目をこすりながら上半身を起こす。そんな私にパパは微笑んで優しく頭を撫でる。
「唯の為にパパ、頑張っちゃった!」
ピースサインをしながらニカッと歯を見せて笑うパパに思わず笑いがこぼれる。
「ふふ、なにそれ・・・ありがとう。」
「愛する娘のためだからな!クリスマスケーキもあるぞ!お前の好きなチョコ!」
得意げに手に持っている白い箱を見せる。
「やった!」
「それに外は雪だぞ!」
「本当に?ホワイトクリスマスだね!!」
笑顔で言って、枕元の青い人形を見る。
「・・・少しは信じてあげてもいいよ。」
と小声で呟く。パパには聞こえていないみたいだ。
「ところで唯、なんでこんな時間まで寝てたんだ?」
言われて自分がまだパジャマであること、そして一度も部屋を出ていないことに気付く。けれど、そんなことは気にならなかった。
「ん?・・・えへへ。秘密!!」
笑顔でそういう私の心に、もう隙間は存在していなかった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
いかがでしたか?お気に召されたのなら嬉しい限りでございます!
え、サンタさんの服が赤くない?
何をおっしゃいます。元々サンタさんの服は赤ではないのですよ?赤色だというイメージが定着したのは赤と白のロゴが印象的な某炭酸飲料会社の陰謀でございますよ!!
最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。
コメント・評価等、心よりお待ちしております♪