裏思
「ピザっ・・・・!圧倒的ピザっ・・・・!」
きらびやかな明かりと内装。絵画があったり、音楽家が演奏をしていたり。
賑やかな人間の声。鼻をくすぐる匂い。
丸いテーブルを二人で囲って座り、到着した皿に目を丸くする。
風十達は今、とある料理店、つまるところレストランに来ていた。
きっかけはただエルがお腹空いたという理由だが、もちろん当初風十は断った。主に金銭的な理由で。
しかし流石は仮にも貴族というべきか、なんと風十に奢ってくれるという。
女性に奢られる男性というのはなんとも情けない話かもしれないが、この状況なら是非もなし。タダ飯が食えるならなんのその。
というわけで、のこのこついてきたわけであるが・・・・・・
「ざわ・・・・ざわ・・・・」
目の前にあるピザに風十は驚いた。
生地の上にのった具材とトマトソースがなんともいい香りである。
「・・・・・・その言葉、何か意味あるの?あっとうてきぴざ」
ふいに口をついて出てきた言葉に、エルが反応した。もちろん意味は無い。
ただのパロディだ。
元ネタだとなんて言ってたっけ?
「・・・・・・感謝?」
「変わった食事の挨拶なのね。この辺りだとた祈りだけなんだけど」
「・・・・・・あれ?」
何か勘違いされてる気がする。別にそういう意味で言った訳では無いのに。
慌てて訂正しようとすると、エルは既に祈りに入っていた。目を瞑り、片手を握り、左右へ振る。
少ししてから目を開けると、フォークを手に取り、香り高いお目当ての料理へと手をつけ始めた。ちなみにこちらはただのパスタである。
「え、エル。さっきのアレは別に食前の挨拶ってわけじゃ」
とりあえずそれまで待ってから、先程の失言を取り消そうとする。しかし、そこまで言うといきなりエルの目つきが険しくなった。
「まさか、食事の直前に嘘を言った訳では無いでしょうね」
どうやらこちらではそういうことらしい。よほど食事は神聖と見た!
だってエルが真剣に怒ってるんだもの。
「・・・・・・・・・・・・圧倒的ピザ・・・・・・」
「そう」
つい押されて言ってしまった。もはや訂正はききません。
なんだよ圧倒的ピザって。馬鹿か!馬鹿だった!
でももう仕方ない。機を見て『実は食事の挨拶はもう一つあるんだ』みたいな感じで吹き込んでおけばいいだろう。
とにかく今は目の前のピザもどきに集中するべきでは。
「・・・・・・あ、やっぱりピザ」
結局、珍しいことなど何もなく、完食するのみであった。
食事が済んで、しばらくする。どの星でもどの世界でも、やはり食後はすぐに行動するということはないようで、しばらくは二人とも下らない談笑で過ごした。
「そういえば、さっきのギルド、エルはなんの用があったの?」
どうでもいいことだ。風十にはなんの意味もない。しかし話の種としての価値はあるだろう。
風十としては、そんな軽い気持ちだった。
「うぇ!!?い、いえ、あれよ!!て、帝国に帰るにはやっぱり護衛って必要じゃない!?都合のいい人はいるかなっておもっただけよ!!それだけよ!!」
しかし、返って来たのはどうもおかしな反応。この話はこれでおしまいとばかりに、エルはその後すぐに「本日はお日柄もよく・・・・・・」なんて変な話しのすり替えに入ろうとしている。
怪しいことこの上ない。例え風十であってしも、それくらいは見破れた。
しかし紳士な風十である。人間誰しも、人に聞かれたくないことなんて山のようにあるものだ。深く尋ねない方がいいだろう。
(・・・・・・あっぶなかった・・・・・・)
対してエルは深く大きく安堵していた。あれで誤魔化せたと思っていた。
もちろん嘘は言っていない。これは本当だ。結果は芳しくなかったが。
この街は、というよりこの国はあまり傭兵の数は多くない。国が兵士を抱えていて、定期的に巡回だってしてくれているからだ。とはいえ、極端に少ないわけでもない。この街にも何十人といるはずだ。
しかし、例え武器を振るうことに慣れた傭兵であろうとも、好んでこのイレ・サムハイルから最短で帝国に向かうなんて無謀は犯したくないのだ。
ここから帝国の間には一つ、いかんともしがたい難関な場所がある。
たったそれだけ、されど見過ごすことはできないものだ。何よりも自分の命を大切にしなければ、傭兵たちは生きていけない。
少なくともこの街の傭兵は、この難関を『生死に関わる難所』と判断したのだ。
「こ、この後はやっぱりあなたの職探しでいいのよね!うん、頑張っちゃうわ!」
「なんて露骨」
結局、この話はここで終わった。何よりもこの先はあまり他人に聞かれると困るものだ。
エルは心底安堵して、会計を済ませるために席を立った。遅れて風十も立ち上がる。律儀に頭を下げて何回もお礼を言ってくる彼に苦笑しながら、二人分の料金を払って店を出る。
日はまだ上にある。道は明るい。この分なら、風十の職探しも間に合うだろう。
そう思い、とりあえず猫の手も借りたそうにしていそうな宿屋を探すために、二人で街を下って行った。
☆
ーーー帰れ。
ーーー不採用。
ーーー猫の手の方がマシ。
などなど。
これらはすべて、風十の行った景気の良さげな宿屋からのセリフである。
そう、つまり。
「当たりまーーー残念だったわね!」
「よくそれで貴族やってこれたね!」
風十はよく知らないが、貴族と言えば権謀術数渦巻く魔の巣窟的なアレだろう。エルのこの態度では、ライオンの巣に小鹿が迷いなく突き進んで来るようなものだ。その偽れない本心は美徳だろうが、また、足を引っ張りもするのでは。
「ま、まあまあ。次はもう宿屋は止めて、さっきの八百屋とか行ってみるのはどうかしら?」
「・・・・・・なんだろう。ここまでくるともう絶対にどこも雇ってくれないだろうな感がある不思議」
風十は既に十軒近く回ってきた。つまり、十軒近く不採用だというわけだ。これはきっと天の思し召し。行く先々で啓示があって、コイツは雇うな、とでも言われているに違いない。ということは、もうこれ以上はどこも一緒なのではないだろうか。不採用の嵐である。
「この街は神様が身近にいるのか・・・・・・ここじゃ生きていけなそう」
「大分極端ね、あなた」
呆れた調子でエルが言う。既に風十に対して
一体どれだけ呆れたのか覚えてもいない。
「・・・・・・あなたがいいなら、私の家のある街で職探ししてあげるわよ?そっちの方が融通も聞くと思うし」
一瞬だけ、眉を顰めてからエルが提示してきた。その顔はあれだろうか。ホントは来て欲しくないけど的な?
「・・・・・・当てがないよりマシ。その言葉がただの社交辞令だったとしてもーーー是非ともお願いします!」
ここで攻めるのが風十である。
本来はここから離れるのは、ワープ通路的な理由で良くないのだろうが、このままじゃ野垂れ死にするだけだ。本当に土や草食ってかなきゃならなくなる。それは御免である。
と、風十の図々しい願いを聞いて、やはりほんの少し、一瞬だけエルは苦しそうな表情をする。
その顔はやはり、拒絶したい、という意味もあるのだろうが、風十にはなにやらそれだけでもないように見えた。
しかし、メンタリストではない風十では細部はまるで分からない。仕事を見つけるためにはここしかない。
「・・・・・・なんならウチで働く?」
「いやそれは結構です。礼儀なんてあんまり知らないし・・・・・・」
「別に格式張る必要はないわ。貴族といえど、肝心の当主が私ならあなたもやりやすいでしょ?」
「む・・・・・・確かに」
「・・・・・・私って威厳が足りないのかしら。納得しないで欲しかったわ」
人間誰しも、知らない人の元で働くより、一人でも知り合いがいる方がいい。心細いことこの上ない。それに貴族様のお屋敷ならば、給料だっていいに違いないのだから。
「掃除は得意なんでしょ。屋敷は広いから、使用人ならどれだけいても構わないのよ」
「エルはいい奴。もう雇う前提のエル様マジいい奴」
「イラッとするわ」
でもこんな簡単に雇っていいのだろうか。普通はこんな怪しい奴、そこまでしないと思う。
とはいえ、風十の脳では考えても結論なんて出てこないので、思考はさっさと切り替える。
「とにかく、お任せあれ。ダニの一匹すら残さず殲滅してみせるよ」
ただの心意気である。本気ではない。
ただまあ、それだけヤル気に溢れていることに間違いはない。何せ食い扶持を見つけたのだ。これで死ななくなった。
「お客が来た時は・・・・・・まあ、接待ばかりが仕事でもなし。裏方に回ってくれれば問題ないでしょ。貴方を他の貴族に見られた日には、私への目は一気に零度だからくれぐれも!くれぐれも慎重にね?」
風十に迫って、迫力と気迫で迫真の脅迫をかける。ここで手を抜くわけにはいかないのだ。まだ会って一日とたっていないが、馬鹿さ加減にはもうこの上にはいないと確信がある。つまり不安だ。
もっとも、そのお客とやらが頻繁に来るわけでもないのだが。
「・・・・・・話は帝国に帰ってからでもいいかな。明日、街の北門前に来てね。そこで集合しましょ・・・・・・いえ、やっぱり一緒にいた方がいいかしら?」
「時間の指定もない。北門とか分からない。うん。僕を連れて行っておくれー」
このままじゃ別れたらもう会えない。主に風十のせいで。それが分かったので、エルも主張を変えた。
この話はこれで一区切りついた。別に雇うことにも問題は無い。お金に困っているわけでもないし、たかが一人二人増えたところで変わりはしない。問題なのはーーーいや、ここからは考えない方がいいというものか。
一度頭を振って、その後に顎に手をやり、思考を働く。
この街からエルの治める帝国の一領土、その街まで大体馬車で一日と少し。比較的帝国国境付近に、イレ・サムハイルがあるのでそう遠い距離ではない。
真っ直ぐに進むとあれば、もっと早く着くことも出来る。一日あれば充分だろうとエルはあたりをつけて、計算を終了する。
となると残りの時間は有効に利用できるだろう。やらねばならないことはもう終わったし、あとは故郷に帰るだけだ。それまで遊ぶなり観光なり好きにできる。
ようやく息抜きできる、とエルは肩の力を抜く。あとはお土産を買って、どうにかこうにかそれっぽい言い訳を探しておいて、必死に謝る練習を脳内でする。
実を言うとエルのこれは無断の旅行のようなものだ。家の者には二日三日空けると言っただけだし、既に今日で四日経ってしまっている。面倒くさい執事たちのことを思い出してくれるんじゃ少し鬱になるが、まだ許容範囲というものだろう。
今は何よりもそのしがらみは忘れるべきだ。別の意味で面倒くさい奴が隣にいるが、こちらはただの無知の馬鹿。いちいち説明が面倒というだけなのだ。なんとかなる。
よって、あとはのんびり過ごすことにした。幸い風十も見て回りたがっているし、エルだってそうだ。まだ時間もあるのだからと思い、二人は楽しげに会話を交わしながら喧騒響く街へ踏み出した。
なんか不採用の嵐とか貴族のエルが簡単に人を雇うとかご都合主義だな、と思うかもしれませんが、裏で深いワケがあるのです。いずれ本文で明かすつもりです。
1つ言ってしまうと、この街はヤバイところ。